黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「しっかし、ほんとスピカだらけだな」
「カノープスだって同じぐらいでてるだろ」
有馬記念。
年末の総決算となるこのレース。
香港ヴァースに勝利し、年末限りでドリームトロフィーリーグに移籍する予定のキンイロリョテイと、スピカの応援に来ていたゴールドシップは隣でそれを見ていた。
スピカから出ていたのは
天皇賞秋とジャパンカップに勝利し、秋のシニア三冠に王手のかかったトウカイテイオー
トリプルティアラを達成した新女王ダイワスカーレット
ダービーに勝利し、ジャパンカップも2着と健闘したウオッカ
そしてダービー後長期療養に入っていたアグネスタキオン
の四人であった。
誰もが有力バであり、誰が勝ってもおかしくないメンツである。
一方のカノープスからは
去年の有馬記念勝ちウマ娘ナイスネイチャと
菊花賞ウマ娘のマチカネタンホイザ
そして天皇賞秋2着だったツインターボ
そして鉄の女、G1今期9戦目のイクノディクタスが
出ていた。
リョテイは残念ながら2週間前に海外G1に出て勝利していたために出ることができずにいたが、それでもカノープスからもかなりの数のウマ娘が出ていた。
「スピカの方は誰が調子がいいんだ?」
「テイオーはいつも通り好調だな。三冠目指して頑張っている感じだ。スカーレットはティアラ路線を制覇して絶好調だ。ちょっと掛かり気味なのは気になるが」
「タキオンの奴は大丈夫なのか?」
「まあ悪くはなさそう、ってかんじかな」
ここでケガをされては元も子もない以上、タキオンは安全第一の調整をしている。
調子は8割がた、といったぐらいだろう。万全とはいいがたいが、それでもやる気はあるようであった。
「カノープスの方はどう?」
「イクノとターボはいつも通り、マチタンはこの前変なもの食ったみたいで調子が結構良くないな。ネイチャは少しは吹っ切れて上向いてきたがまだまだ、といったところか。全体的にいまいちだな。今のイクノじゃさすがに力不足だし、ターボは2500mは長すぎると思うしなぁ」
一方のカノープスの方はいつも通りといえばいつも通りパッとしない感じである。
ターボは2500mは長すぎる。本人が出たいというから出走しているが、おそらくスタミナが持たないだろう。
イクノは頑張っているがまだG1の一線級でないのは先のシルバーコレクターであったリョテイの感覚から間違いないだろう。
ネイチャとマチタンは勝負になる実力があるが、ネイチャは今期は調子がいまいちだ。
最近やっと何か吹っ切れてきたようだがそれでも少し厳しい。
マチタンは体調不良で正直微妙である。
ただ、こんな微妙なのがカノープスである。
去年何を間違ったか最優秀チームになんかなってしまったが、本来癖があってあまり走らないウマ娘の寄せ集めチームなのだ。
だからなんかパッとしない、ぐらいがちょうどいいとリョテイはどこか安心感を抱きながら思っていた。
だが、それはそうとして頑張ってもらいたいという先輩として複雑な思いを抱くリョテイであった。
シニア三冠。
春と秋に行われるそれを制覇した者はいまだいない。
その過酷さをテイオーは身をもって知った。
春は2000m、3200m、2200mと長い距離と短い距離が混在した3レースだった。その三つとも勝利するというのは非常に難しい。
特に三つ目の宝塚記念は、短距離路線で走っていたものや、前半不調だったものが出てくる激戦であり、非常に難易度が高いレースであった。
そして秋の三冠。距離は2000m、2400m、2500mと春に比べれば距離のばらつきは少なめである。
しかしこの有馬記念が最難関である、とテイオーは考えていた。
クラシッククラスが本格的に出走してくる、まさにこの年の総決算である。
スピカの面々はじめ、レースでは初めて対戦する相手も多い。
厳しい状況だが、それでもテイオーは負けるつもりはなかった。
ピリピリした空気が流れる中、相変わらず一人ターボだけは楽しそうにぴょんぴょんしている。
あまり暴れすぎて体力を消耗しないようにか、ネイチャがターボを抱きしめた。テイオーが手を振ると、二人とも楽しそうに手を振り返してくれた。