黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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アグネスタキオンのスピカ加入

「という事でスピカに新メンバー、アグネスタキオン博士が加わりました」

「わーい!!」

「え?」

「え?」

「え?」

 

上からゴールドシップ、ダイワスカーレット、沖野トレーナー、アグネスタキオン、ウオッカの発言である。

 

「ちょっと待ってくれ、なんで新メンバー本人が疑問に思っているんだ?」

「ちょっと待ってくれ、なんでトレーナーが疑問に思っているんだ?」

「意味が分からない、誰か助けて……」

 

トレーナーは意味が分からなかった。

チームルームに来たら、知らない新メンバーが増えていた。

なんだ、トレーナーも知らない新メンバーって。

トレーナーは困惑した。

 

アグネスタキオンは意味が分からなった。

ズダ袋に入れられたと思ったらチームに所属していた。

誰か説明してほしかった。

だがトレーナーすらこの状況を理解していなかった。

ゴールドシップからちゃんとした説明を聞けるとは思えない。

アグネスタキオンは困惑した。

 

ウオッカは意味が分からなかった。

新しいメンバーが増える、というのはいい。喜ばしいことだ。

ただ、その事実をトレーナーも新メンバーも理解していない、というのはどういうことなのか。

ウオッカは困惑した。

 

一番早く立ち直ったのは、付き合いが一番長く、ゴルシ耐性がついてきたトレーナーだった。

 

「あー、すまないが、なんで俺の許可なしにチームメンバーに加えられたんだ?」

「そりゃ、ゴルシちゃんがトレーナーのハンコを借りて、トレーナーのサインを代わりに書いてあげたからだよ」

「なんで本人の許可なしにチームメンバーに加えられたんだ?」

「そりゃ、ゴルシちゃんがタキオン博士のサインをまねして代わりに書いてあげたからだよ」

「完全な偽造文書じゃねーか!」

「大丈夫、万が一筆跡鑑定されてもばれねーから♪」

「大丈夫じゃねー!!」

 

何一つ大丈夫な要素がない。トレーナーは頭を抱えた。

だが、書類が受理されてしまったならしょうがない。

トレーナーとして、新メンバーに対して確認しよう、と向き直った。

 

「しょうがない、ひとまず確認したいことがいくつかある。アグネスタキオン、いいかな?」

「まあ、少しは付き合ってあげよう。時間が惜しいが、この混乱した状況を収めるのが先だ」

「そうだな。まず、デビューするつもりはあるのか?」

「したいとは思っている。だが、その時期も、そのレースも自分で決める」

「手伝わなくて大丈夫なのか?」

「問題ない。口を出すな」

「わかった、困ったら言えよ」

「……」

「次にトレーニングだが、どうする?」

「必要なトレーニングを必要なだけする。キミの助力は必要ない」

「わかった、困ったら言えよ」

「……トレーナー君」

「なんだ?」

「仕事したらどうだ?」

「お前さんが要らないって言ったんだろう? それに何をしろっていうんだ」

「……たしかに」

「籍は作ってやる。困ったら言え。お前さんは頭がいいみたいだからな。いわれてから俺が動いても遅くはないだろう?」

「……」

 

完全放置である。いいのだろうか、とタキオンは思うが、それが自分が望んでいたのだから、問題ないかと気を取り直す。

 

「ちなみに」

「ちなみに?」

「あっちのイレ込んでる二人を止めるのは、トレーナーの仕事じゃない」

「えっ?」

 

トレーナーが指さした先には、ゴールドシップとダイワスカーレットがいた。

とても良い笑顔で、手をワキワキさせていた。

 

「だから、対応は頑張れよ」

「ちょっとまってくれ!? それがトレーナー君の一番重要な仕事じゃないのかい!?」

「しらん!」

「そんな薄情な!!」

 

ゴールドシップとダイワスカーレット、二人は満面の笑みを浮かべた。

とてもきれいな、10人居たら10人見惚れそうな笑顔である。

アグネスタキオンも笑みを浮かべた。

とてもひきつった笑顔だった。

 

「おいトレーナー、本当にいいのか? タキオン先輩、悪いうわさがあるじゃないか」

 

そんなまとまりそうな瞬間、言ってはいけないことを言ってしまったのがウオッカだった。

ウオッカだって悪いウマ娘ではない。

むしろ、曲がったことや陰口を嫌う、一本気な性格である。

ふだんのウオッカならばこんなことを口に出すことはなかっただろう。

しかし、何が起きてるかわからず、自分だけ置いて行かれている、と彼女は感じてしまった。

これが、ゴールドシップとトレーナーだけだったら彼女もあとで聞けばいい、と鷹揚に構えることができただろう。

だが、よく知るライバルであるダイワスカーレットが訳知り顔でいるのに、自分だけが全く何もわからない、という状況が彼女に強烈な疎外感を与えた。

 

言ったあと、しまったとウオッカは思った。

その発言に対する反応は四者四様だった。

タキオンはその通りだといわんばかりに鷹揚にうなずいた。まったく気にしてない様子だった。気を悪くするどころか、どこか満足そうだった。

トレーナーはばつが悪そうにした。ウオッカの疎外感を察したのだろう。

スカーレットは怒りを爆発させようとして顔を赤くしていた。陰口や噂で他人を予断することをスカーレットは嫌う。これも予想通りの反応であった。

ゴールドシップは…… 表情が無になっていた。

無である。能面のような表情だ。

普段おかしな顔ばかりしているからわかりにくいが、寒気がするほど整った美しい顔だ。

それがただ、何の表情も見せずにこちらを見ている。まるで人形の様だ。

そして次の瞬間、ウオッカは殺気を感じた。

そしてウオッカは気づいた。あれは、何も表情がないのではない。

怒りの表情だ。深すぎる怒りに、表情が追い付いていない顔だ。

ちびりそうな殺気を感じたウオッカはゴールドシップに土下座した。しないと死ぬ、と思ったからだ。

 

「ウオッカ」

「はいぃ!?」

「頭下げる相手が、違うだろう?」

「ごめんなさいタキオン先輩!」

「いや、その通りだから何も気にしていないよ。ゴールドシップ君も、後輩虐めは感心しないな」

「……すいませんタキオン博士!」

 

タキオンがたしなめると、ゴールドシップはウオッカに土下座した。変わり身が早すぎる。

土下座リレーが完成し、タキオンも、トレーナーも困惑した。




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