黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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終わりの始まり

ウインタードリームトロフィーレース

 

今回の目玉は、絶対皇帝のシンボリルドルフと、不屈の帝王トウカイテイオーの一騎打ちだった。

とはいえ人気はシンボリルドルフの方が圧倒的に上であった。

いままで最優秀ウマ娘となり、その直後のウインタードリームトロフィーレースに出るというスケジュールを取ったウマ娘で、勝利した者はいないのだ。

半年に一度のこのレースに照準を合わせた者と、激戦を繰り広げた後にレースに挑むものでは前者が圧倒的に有利であるし、また、経験値的にも前者の方が有利である。

さらに出るのは歴代の優秀な成績を収めたウマ娘達だ。

移籍していきなり勝つのは難しいと考えられていたし、現に勝つのは難しかった。

 

そのため圧倒的一番人気はシンボリルドルフだ。

他のメンバーは夏のサマードリームトロフィーでシンボリルドルフに負けたウマ娘ばかりなので、対抗バとして新顔のテイオーが二番人気に推されているが、期待度は全く違った。

 

 

 

パドックはトゥインクルシリーズのレース以上に盛り上がっている。

ここにいるウマ娘達は誰もがドラマを持っている。

各自ファンが大量にいるわけで、それぞれのファンが一生懸命声援を送っていた。

 

もちろんテイオーのファンもたくさんいた。

カノープスの面々に加え、スピカのマックイーン達も応援してくれている。

昔からのファンであるキタサンブラックだって、メイクデビューから応援してくれてるファンだっている。

その人たちだけの声援でも、G1と同じぐらいの歓声の量だった。

 

それでも、そんなドラマを持ったウマ娘達の祭典でも、絶対の皇帝シンボリルドルフは一番人気だった。

 

シンボリルドルフに向く大量の歓声。

デビューから皇帝を追いかけて来た者、無敗の三冠ファンになった者、最近になってファンになった者。

等しくシンボリルドルフへ歓声を上げ、彼女を応援していた。

 

 

 

素直にすごいとテイオーは思う。

いや、今でも昔でも、皇帝シンボリルドルフは、きっとテイオーにとってのヒーローだ。

多くのヒトを、ウマ娘のあこがれを集めるのがかの皇帝シンボリルドルフなのだ。

だがテイオーは憧れるだけの生き方を止めた。

皇帝に並び、追い越す道を選んだ。

ここがその道の総決算、最後の勝負である。

 

テイオーは現状を正確に分析していた。

皇帝シンボリルドルフと比べてもテイオーは遜色ない実力を持っている自信はある。

逆にいえばそのレベルである。決して勝っていないし、一部については多少劣っている自覚があった。

だからこそ勝つために策を練ることにした。

 

策などというと汚いという者がいるが、テイオーはそうは思っていない。

勝負というのは全力でやるべきであり、そこには駆け引きだって含まれる。

スぺが皇帝を精神力に弱点があるかもしれないと分析していたが、テイオーもその通りだと思っていた。

だからこそ、徹底的にそこを突くことにしたのだ。

 

 

 

「かーいちょ♪」

「もう私は会長ではないぞ、テイオー」

「会長はボクにとってずっと会長だもん~」

 

パドックで並んでいる間にテイオーは皇帝に声をかけた。

去年一年間、皇帝と話した記憶がないが、その前はいろいろなことを話していた。

ルドルフはしばしばテイオーにお菓子をくれたし、テイオーはしょっちゅう皇帝にまとわりついていた。

邪魔で仕事が捗らないとエアグルーヴが時々切れていたぐらいまとわりついていた。

そのころのことを思い出しながら、テイオーは皇帝に声をかけた。

皇帝もそのころを思い出したのか、声がいつも以上に優しい気がした。

 

「ボクね、心配なんだ」

「なにがだ?」

「会長がね」

 

だが、テイオーはあの頃の庇護されるだけの少女ではない。

憧れるだけの少女ではない。

スゴイと仰ぎ見るだけの少女ではない。

 

「ボクに負けて、泣いちゃわないか、ね♪」

 

満面の笑みでテイオーはそう告げた。

傍から見ればただ楽しそうに談笑しているように見えただろう。

しかし、皇帝にはテイオーの意図が伝わった。

 

笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である。

これは宣戦布告、などといったものではない。

単純な勝利宣言である。

走る前からテイオーは、皇帝に勝つと断言したのだ。

 

テイオーは既に皇帝の下ではない。

愛される存在ではない。

庇護される存在でもない。

落胆される存在でもない。

勝利すると断言した、(ライバル)なのだ。

 

「お手柔らかに頼むよ、テイオー」

 

皇帝は何も気づかないふりして軽く流した。

しかし、その笑顔は皇帝の目に強く焼き付いていた。


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