黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
今日がその日であるというのはアグネスタキオンは計算でわかっていた。
マックイーンがゴールドシップに初めて出会った日がちょうど5年前。
その5年後の前日、ちょうど丸5年になるのがこの日であった。
都内某所に作られた石と機械を組み合わせ作られた遺跡状の建物。
その中心部の祭壇の上にゴールドシップはいた。
見送りにはスピカのメンバーも、カノープスのメンバーも、リギルのメンバーもいる。
メジロ家の面々も、タキオン研究所やブランドゴールドシップの関係者もいる。
皆、ゴールドシップを見送りに来ていた。
「タキオン先輩、大丈夫なんですよね?」
「私の計算を疑うのかい?」
「そうではありませんが」
心配そうに聞いてくるマックイーンにタキオンは自信満々に、ふてぶてしく答える。
実際タキオンも自信があるわけではない。
計算上は十二分にエネルギーもたまり、確実にゴールドシップを未来に送ることができるはずである。だが、その計算自体が仮説の上に成り立ったものだ。
自信はなかったが、しかしそれはおくびにも出さない。
弱気が失敗を招くことも多いのだ。
だからこそ、堂々と、ふてぶてしい態度をタキオンはとっていた。
「そろそろ時間だ」
そう言ったときに劇的な変化が起きた。
夜空にはオーロラが浮かび、遺跡の楕円状の輪、ゲートと呼ばれる部分が光り輝き始める。
そのゲートの先には、トレセン学園が見えた。
ただ、今のトレセン学園とは違うところがいくつもある。
きっとこれが未来のトレセン学園なのだろう。
「タキオン博士!」
「なんだい?」
「ここまでしてくれてありがとうな!」
「お礼を言うのは私の方だよ」
ゴールドシップがタキオンに声をかける。
「マックイーン!」
「なんですの?」
「会えてうれしかった!!」
「未来でまた会えますわ」
マックイーンは意地でも200歳ぐらいまで生きてやると誓った。
「スズカ! テイオー!!」
「お姉さま、向こうでもお元気で」
「二人ともがんばれよ」
「ボク、頑張るから!」
笑顔で見送るサイレンススズカとトウカイテイオー
一言ずつ、皆に声をかけた後、ゴールドシップは深呼吸をする。
そうして一言
「また会おうな!」
それだけ言って、ゲートをくぐっていった。
まばゆい光とともに、ゴールドシップは消えていった。
世界が修正されていく。
ゴールドシップがいたという事実が変えられて、歴史が確定していく。
ゴールドシップというトレーナーの存在はなかったことになった。
ヘイローブランドのゴールドシップシリーズの由来も誰もわからなくなった。
覚えている者もほとんどいなくなった。
これが修正力か、とタキオンは舌を巻いた。
ゴールドシップのことを一番覚えていたのはアグネスタキオンであった。
なぜ自分が一番覚えているのか。記憶も何もほとんど欠損なく覚えているのか、その法則はよくわからない。ただ、単純に時間の経過で忘却していくだろうことは予想できたので、早めに記録媒体に文字として記載をしていた。
他にゴールドシップのことを覚えているのは、マックイーンとスズカとテイオーぐらいだった。
あれだけ仲が良かったリョテイやイクノも何も覚えていなかった。
事業まで一緒にやったキングも何も覚えていなかった。
ウララやメジロの総帥は何か引っかかりを覚えているようだが、記録を見せてもあまりピンとこないようだった。
これがきっと世界の、そして歴史の修正力である。
時を渡るだけのエネルギーを生じさせられるだけあり、すさまじかった。
タキオンがすることはまだ少しだけあった。
ゴールドシップは未来へと帰った。それは間違いない。
だが、この先で生まれるゴールドシップと合わさるのか、それとも別の存在として同時に存在するのか、そこまではタキオンにはわかっていなかった。
生まれるだろうゴールドシップと合わさるならば問題ないが、別存在になってしまった場合、なかなか厄介な展開である。
その時に備えて、彼女が一生遊んで暮らせる程度の財産を用意するとともに、事情を知っている自分が生きている必要があると考え人一倍健康に気を遣うようにし始めた。
ダイワスカーレットは健康的なタキオンの生活を喜んだ。
マックイーンはさっそくイクノと学生結婚をした。
どうやら孫をできるだけ早く作ろうとしているらしい。
スピカはテイオーを中心に頑張っている。
リギルもまた、改心したらしいルドルフを中心に頑張っている。
カノープスは元に戻りあいかわらず若干微妙な立ち位置である。ネイチャが頑張って年に1回程度G1に勝つぐらいだ。
いろいろなことはあったが、幸せな結末を迎える未来にはたどり着いたようである。
では、この幸せをゴールドシップが暮らす未来まで続けないといけない。
少女たちの頑張りは、まだまだ終わらない。