黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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第二部 第一章の頃のお話


エキストラパート おまけのお話
マヤの隣の幽霊さん


マヤノトップガンの寮の部屋は、二人部屋と聞いていた。

もう一人は誰だろうと胸を膨らませていたマヤノだったが、しかし、しばらくしても隣のベッドは空っぽのままだった。

荷物はある。

しかし生活感がまるでない。

そもそも隣のベッドで誰か寝ているのを見たことが無いし、その姿を見たこともない。

 

とても不思議な状況である。

おそらく幽霊さんなのだろう、とマヤノは一人納得した。

 

ルームメイトが幽霊さん、というのはマヤノをワクワクさせた。

全く分からない状況だ。

時々鹿毛の毛が落ちているから、きっと幽霊さんは鹿毛のウマ娘だろう。

しかしそれ以上の情報が一切なかった。

 

カメラなど仕掛けておけば、幽霊さんの姿を見ることができるかもしれない。

しかしマヤノはそういうことはしなかった。

きっと幽霊さんは恥ずかしがり屋なのだ。

恥ずかしいからマヤノの前に出てこれないのに、盗撮するのはかわいそうだと思った。

だが、幽霊さんはルームメイトだ。

マヤノは仲良くしたかった。

なのでお手紙を書くことにした。

 

『こんばんは、ルームメイトのマヤノトップガンです。幽霊さんのご趣味は何ですか?』

 

メモにこれだけ書いて、ニンジンをお供えした。

幽霊さんが好きなものはわからないが、ウマ娘だとわかっている。きっと幽霊さんもニンジンは好きに違いない。

手紙を置いた翌日、手紙とニンジンは無くなっていた。

きっと幽霊さんが食べたのだろう。

マヤノは嬉しくなった。

 

 

 

幽霊さんはきっと恥ずかしがり屋だからお返事も難しいだろう。

もしかしたら幽霊さんなのでお手紙を書く道具もないのかもしれない。

そう思ってマヤノはお気に入りの便箋とかわいいニンジンペンをお供えした。

マヤノのお気に入りだ。きっと幽霊さんも気に入ってくれるだろうと断腸の思いで幽霊さんのベッドに置いた。

 

『こんばんは、ルームメイトのマヤノトップガンです。幽霊さんお手紙のやり取りしませんか? お気に入りの便箋とペンを差し上げます』

 

お手紙とニンジンも添えておいたら、翌日、ニンジンとお手紙は無くなっており、便箋とペンは机の上に載っていた。

 

『マヤノさんニンジンごちそうさまでした。便箋はマヤノさんの方が似合っているのでお返しします』

 

幽霊さんからのお手紙が、味気ない便箋に書かれて置いてあった。

マヤノは嬉しくなった。

 

 

マヤノと幽霊さんの文通は続いた。

マヤノは毎日手紙を書いて、ニンジンをお供えする。

幽霊さんからのお返事は多くはない。

1週間に1回ぐらいだろうか。

でもマヤノはそのお手紙が楽しみだった。

便箋はいつも味気も柄もないものだが、文字が丸くて小さくてとてもかわいいのだ。

幽霊さんはきっと小柄で可愛らしい鹿毛のウマ娘さんなのだろう。

マヤノはそんな想像を膨らませていた。

 

幽霊さんとのそんな細々としたやり取りは長く続いたがある日突然終わってしまった。

ルームメイトにトウカイテイオーが来たのだ。

テイオーちゃんはとても明るくていい子だったが、幽霊さんの形跡がなくなってしまいマヤノは少し悲しかった。

 

テイオーちゃんが来た翌日マヤノは幽霊さんにお別れのお手紙とお花を置いた。

返事はなかったけどお手紙とお花はちゃんとなくなっていた。

きっと幽霊さんに届いたのだろう。

マヤノは少しだけ嬉しかった。

 

不思議なマヤの隣の幽霊さんのお話はこれだけである。

マヤノは今でも時々お花を飾っている。

幽霊さんも見てくれているといいな、とマヤノは願っている。




マヤノに手紙を見せてもらいながらこの話を聞いたネイチャは、幽霊さんがテイオーだと気づいた。
だが彼女には笑顔で黙っているだけの優しさが存在した。

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