黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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黄金船の姉のルームメイト

 ひとまずダートに沈めたドリジャのアネキを引き抜いて、寮の方へと向かう。

 ドリジャのアネキは「もう一人にしないからねぇ!!」と泣きながらオルフェのアネキに抱き着きつづけており、オルフェのアネキは若干うっとうしそうにしていた。

 

「オルフェーヴルお姉さま。うっとおしいなら埋め直してきますが」

「もうダートに埋められるのは嫌だよ!?」

「大丈夫です、さすがにダートコースにずっと刺さっていたらトレーニングの邪魔ですから、ちゃんと裏山に埋めてあげます」

「余計ひどい!!」

「ん、大丈夫」

 

 まあなんだかんだでオルフェのアネキもシスコンなので、おねえちゃん大好きだ。

 ゴルシちゃんもなんだかんだで大好きなのだが、ちゃんと教育しないと社会生活が送れなくなるだろうと心を鬼にしているのだ。

 泣いてるドリジャのアネキが可愛いという、さでずむ、に目覚めているわけではない。多分。

 

 何にしろ、入学式の日と言ったら、部屋割り確認という一大イベントがあるのだ。

 新入生は同じ部屋が誰になるか心を躍らせ、

 先輩たちも新入生の誰が来るか緊張する。

 

「そう言えばお姉さまたちはルームメイトは?」

「オレ様はいないぜ!」

 

 ドリジャのアネキが胸を張ってそういう。

 まあ、ドリジャのアネキ、気性難除いても、一人でもずっとうるさいので、ルームメイトはかなりストレスが溜まるだろう。

 多分今後もルームメイトができることはないだろう。

 

「私は今一人だけど、今回新しい人と一緒の部屋になるはず……」

 

 ぼそぼそというオルフェのアネキ。

 去年1年間は一人部屋だったが、今年からは誰かがルームメイトに来ると。

 一人部屋になったり、ルームメイトが変わったりするのはそう珍しいことではない。

 オルフェのアネキの場合、マスク取った状態で他人がいると暴走状態になってしまうが、今後レースの時はマスクしっぱなしというわけにもいかないし、慣れるためにも面倒見のいい誰かとルームメイトになって練習を積んだほうがいいだろう。

 寮長なんかもそんな判断をしていそうである。

 ということで……

 

「オルフェーヴルのお姉さまのルームメイトを見に行きましょう」

「おー!!」

「……心強い」

 

 知らないかもしれない相手と一人で会うのが不安だったらしいオルフェのアネキは、ゴルシちゃんとドリジャのアネキが同行するということになり、嬉しそうに尻尾を揺らしていた。

 

 

 

 ひとまず挨拶の菓子折り(4個入りプリン)を購買で購入し、オルフェのアネキの部屋に向かう。

 扉の前に来ると、部屋の中にすでに人の気配がある。ルームメイトは先に部屋に入っているようだ。

 

「こ、こんにちは」

「あ、おかえりー」

 

 おどおどと扉を開けるオルフェのアネキに、中から明るい声が返ってくる。

 さて、いったい誰がいるのか、と戸惑いながら部屋にはいるオルフェのアネキの背中越しに中をのぞくと、青っぽい、ふわふわのツインテーをしたウマ娘が見えた。

 

「お、トーセンジョーダンじゃん」

「やっほ、ドリームジャーニー先輩。相変わらず変なところで過保護ね」

 

 その気の抜けた笑顔を見たゴルシちゃんは……

 

「うおおおおおお!!!」

「え? ふべっ!?」

 

 反射的に、その顔にドロップキックをしてしまうのであった。

 ちゃんと峰打ちなので大丈夫。怪我はしていないはずである。

 

「な、いきなりなにすんのよ白いの!?」

「白いのじゃないですわ、ゴールドシップですわ」

「圧倒的蛮行からのお嬢様ムーブ怖すぎる…… 誰なのこの子……」

「オレ様のかわいい妹」

「ああ、なるほど……」

 

 ありえなさすぎる蛮行である自覚はあるが、どうしてもその顔を蹴りたくなってしまったのだからしょうがない。

 そして、ドリジャのアネキの妹、という説明だけで納得したトーセンジョーダン。アネキの日常が気になる。それはそうと……

 

「トーセンジョーダン先輩?」

「なに?」

「もう一発行っていいですか」

「ダメに決まってるでしょ!?」

「うおおおおおお!!!」

「こいつ人の言うこと聞かないな!?」

 

 しかし、ゴルシちゃんスペースキックは、ランディングオフの直前で、オルフェのアネキに止められた。

 

「ゴルシちゃん。乱暴、ダメ」

「……」

 

 ゴルシちゃんはショックを受けた。いつも激アマなオルフェのアネキが、ゴルシちゃんのしたいことよりトーセンジョーダンをかばったのだ。

 ゴルシちゃん的には天動説ぐらいあり合えない話だった。

 

「お、オルフェねえ……」

「めっ」

「う、うわああああああん!!!!」

 

 ゴルシちゃんは敗北した。泣きながらそこから立ち去らざるを得なかった。

 一方ドリジャのアネキは持ってきたプリン4個を貪り食っていた。

 

 

 

「……騒がしいわね。あなたの姉妹」

「でもみんないい子」

「あなたがそういうならいいけどさ……」

 

 泣きながら走り去ったゴールドシップと、プリンを貪り食ってカラだけ残して帰っていったドリームジャーニー。騒がしいのが居なくなると、部屋は急に静かになった。

 

「それより、マスク外したら? 息苦しいでしょ?」

「……緊張する」

「ルームメイトなんだから、気にする相手じゃねーって」

 

 もしかしたら、顔に傷跡なんかがあるのかもしれない。そんなことをトーセンジョーダンは考えていた。

 ただ、レースに出るときにマスクしながら走るのは明らかにハンデである。傷跡なんかがあるなら隠す化粧も教えてあげよう。面倒見の良いギャルのトーセンジョーダンはプリンのカラを片付けながら、そんなことを考えていた。

 

 ゆっくりとマスクを外すオルフェーヴル。

 マスクの下から覗いた素顔は、普通にかなりの美少女だった。

 よく考えたら、ドリームジャーニーも、さっき傍若無人を振るいきっていたゴールドシップも、中身はともかく見た目は良いのだ。

 マスクで肌が守られていたオルフェーヴルは、二人よりも一段上の美しさだった。

 

 傷なんかがあったらできるだけ見ないようにしてようと考えていたトーセンジョーダンだったが、予想以上の美人っぷりに思わずオルフェーヴルを見つめてしまった。

 

「……ょ」

「?」

「なに、みてるんだよぉ!!!!」

 

 それがオルフェーヴルの逆鱗に無駄に触れてしまった。

 

「みぎゃああああああ!!!!」

 

 暴走状態に陥ったオルフェーヴル

 悲鳴を上げるトーセンジョーダン

 触らぬウマ娘に祟りなしと、知らんぷりを決め込む他の寮生。

 

 その後部屋で何が起きたかは二人しか知らない。

 ただ、トーセンジョーダンが部屋替えを希望しなかったあたり、彼女はかなり世話焼きであるというのは間違いないだろう。




このころの栗東の寮長って誰だろうなぁ フジキセキはとっくにいないだろうし、ドリジャの同期ってウオスカだと書き始めてから気づいたけど過去編で出してるからあまり使いたくないし……
ちなみにこの時点の生徒会長はディープさんのイメージです。

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