黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
オルフェのアネキから逃げたゴルシちゃんは、自分の部屋へと向かっていた。
今世では初対面の、大親友に慰めてもらおうと考えていたのだ。
芦毛好きの大親友、ジャスタウェイ。
チームも一緒なら部屋も一緒で前世過ごしてきた彼女によしよししてもらおうとゴルシちゃんは考えていた。
だが、ゴルシちゃんはこの時見落としていることがあった。
過去は変わった。
じゃあ未来だって大きく変わるのだ。
これだけ違ったら同じわけがないのだ。
だが、ゴルシちゃんは無邪気にも、ルームメイトがジャスタウェイだと信じ切っていたのであった。
その誤解を抱えたまま、ゴルシちゃんは自分の部屋へと向かうのであった。
「ただいまぁ……」
「あら、初めまして」
「初めましてなんだぜぇ……」
そういいながら、ゴールドシップは部屋の中にいた人物の胸に飛び込んだ。
ぐにゅぅ、という柔らかい感触で、顔が埋もれる。
うーん、ジャスちゃんの胸部装甲は今日も硬いな、と思おうとして、何かがおかしいとゴルシちゃんは気づいた。
ジャスタウェイの体格は、ゴルシちゃんと同じぐらいであり、身長はゴルシちゃんと同じ170cmだが、そのスリーサイズはボリュームには気を付けなければならないあの人と同じぺったんこだ。
胸に飛び込んでみると、硬い板の上の微妙な少女らしい柔らかさ、というとてもジャスちゃんらしい感触が楽しめるのだ。
だが、今抱き着いたジャスタウェイ(仮)の胸部装甲は極めて豊満であった。ゴルシちゃんの顔がおっぱいに埋もれるぐらいだ。マックイーンやイクノ教官では再現不能な胸部の柔らかさである。
部屋が同じで鹿毛ということで、ジャスちゃんだと信じ込んでいたが……
ゴールドシップはその柔らかい二つの塊を顔面で楽しんだ後、恐る恐る顔を上げた。
「あ、あの、ゴールドシップさん、過激な挨拶は困ってしまいます……」
真っ赤になって困惑している彼女は、ゴールドシップも知る同期、ジェンティルドンナだった。
ジェンティルドンナ
ゴールドシップの同期の中で、最もレース成績が良かったウマ娘を挙げよといわれると、ゴールドシップと彼女が半々ぐらいの割合で挙げられるのではないか、と思われるぐらい前世では名バだった。
スタイルも体格もよい彼女は、普段はまじめな委員長だが、レースになるとバーサーカーに豹変する。特技はブロックに対するタックルで、競い合うと本当に強い闘志全開で走るタイプだった。
ゴールドシップとは、なんだかんだで仲が良かったと思う。
ゴールドシップがいたずらすると苦言を呈するが、優しくしてくれる、ママみあふれるウマ娘であった。
つまり、ゴールドシップが甘える相手として悪い相手ではない。
悪い相手ではないのだが、ゴールドシップは現状、ジャスタウェイを求めていたのだ。
お好み焼きを注文してたこ焼きが出てきたような話だ。
材料ほとんど一緒だからいいやろみたいな、言われてもそんなバカなという話である。
それを許すのはうちのメジロまんじうだけである。
つまり、ゴールドシップは大混乱に陥った。これがトーセンジョーダンなら蹴とばして照れ隠しすれば済んだが、ママみあふれるジェンティルドンナを蹴とばすわけにはいかない。というか蹴とばすと10倍ぐらいの威力のタックルになって返ってくるからゴルシちゃんがもたない。
そうして混乱したゴールドシップは……
「……うわああああああん!!」
人目を憚らず号泣を始めたのだった。
泣き始めたゴールドシップに一番困惑を覚えたのはジェンティルドンナだろう。
ルームメイトが初対面でいきなり抱き着いてきて、そして胸に顔をうずめた後、号泣し始めたのだ。
泣きたいのは自分だといいたくなる状況である。
そうしてゴールドシップの声を聴き、
「かわいい芦毛ちゃんの声が聞こえる!!」
芦毛フェチが扉から飛び込んでくるのであった。
まごうことなき変態の脈絡もない登場である。
ジェンティルドンナは涙目になった。
「ジャスぅ……」
「お、芦毛ちゃん、私のことをご存じとな。ゆっくりお茶でも飲みながら語らい合いませんか?」
「いくぅ……」
いきなり現れた鹿毛の彼女は、ゴールドシップを連れて部屋から立ち去った。
いったい何が起きているか、ジェンティルドンナは全くわからなかった。
まあ、そのうち戻ってくるだろうとジェンティルドンナは荷物の整理を始めたのだが……
「あの、すいません。ジャスタウェイさんから、部屋を変わってほしいといわれて追い出されてしまったのですが……」
「何が起きていますの!?」
いきなり初対面のウマ娘が、荷物を担いで部屋を訪れた。
ジャスタウェイって誰だ。さっきの芦毛フェチの変態か?
そしてこの子は誰だ。
というかルームメイトって生徒で勝手に変更していいのだろうか。
疑問ばかりが浮かび上がる。
ストレスが溜まって荒れるジェンティルドンナと、彼女にビビって部屋に入れず部屋の前で立ちすくむ鹿毛のウマ娘、ディープブリランテの膠着状態は、もう少し続くのであった。