黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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ディープブリランテとカワイイウマドル

カレンチャンは人気ウマドルである。

特にネット上では根強い人気を誇るが、強いウマ娘かといわれるとそうではない。

 

先日格上挑戦で出走した桜花賞トライアルのフィリーズレビューでは8着に惨敗し、ティアラ前2戦に出走するのは難しい状況になっていた。

 

だが、実績と人気は関係ないのだ、ということで、ネット上で活動しているのが彼女である。

彼女のウマスタや、ウマッターの使い方でうまいところは、トレセン学園の学生の日常が垣間見え、にもかかわらず他の人のプライベートが明らかにならない発信方法だろう。

 

昔、あるウマ娘が同室のウマ娘を写真でとって、ウマスタにあげたのが問題になったことがある。

プライベート空間を無断で撮影したというのが非常に問題になったのだ。

だから、SNSの使い方については非常にうるさく指導される。

特にトゥインクルシリーズにおいては参加者一人一人が人気者なのだ。変な者に目を付けられかねなかった。

 

そんな中で、カレンチャンは常に計算しつくされた日常風景をSNSで投稿していた。

 

外部の人間は、トレセン学園内部で何が行われているかを知らない。

泥臭い努力も、気の抜けた日常も、何もわからない。

トレセン学園は女子校であるから警備も厳重であり、何もわからず、だからこそ人々の興味を誘っていた。

 

そんな中、ウマ娘の学園生活を配信しているカレンチャンは大人気になったのだ。

知らないものを知りたいという人の欲望はかくも強かった。

 

だが、学園生の一部は別のところで感心していた。

カレンチャンが投稿するものは、とにかく自分だけである。

そしてその公開するものはすべて管理されたものだけである。

寮の自室だって、自分のスペースである半分しか映らず、ルームメイトが誰かすら、明確にはわからない。

トレーニング風景だって、写るのは自身以外はせいぜいトレーナーだけであり、チームメイトも写らない。

友人とお出かけしているときも、友人が写るのは稀だ。

 

嘘ではないが、意図をもって切り抜かれた、投稿するのに問題のない日常風景なのである。

それを作るのにどれだけの労力がいるのか、学園生の目線で見ると感心するレベルであった。

 

自分をうまく見せる、そんな彼女にブリランテは憧れを持っていた。

そう、憧れていたのだが……

 

「カワイイは作れるってね。よしっ」

「何がよしっ、なんですか……」

 

体操着を脱がされ、綺麗なコスプレのような衣装を着させられたウマドル、でぃーぷ☆ぶりらんて ちゃんが爆誕しつつあった。

 

 

 

カレンチャンに部屋に連れ込まれ、ドキドキワクワク(恐怖的な意味で)の2人きりの密室であったが、鰤大根にもぶりしゃぶにもされず、ブリランテはきれいに着飾らされた。

 

「こういうの、私には似合わないですよぉ」

「あなたが服に似合うかどうかは問題じゃないの。服をあなたに似合わせるのよ」

 

カレンチャンの押しが強い。

そのままカレンチャンの言われるがままに10秒動画を撮影し、ウマスタにアップさせられる。

 

「よし、カワイイカワイイ」

「私なんてかわいくないですよぉ」

「そんなこと言っていると、あの三人に置いていかれるよ」

 

カレンチャンの発言に驚いて振り向くブリランテ。

カレンチャンは今までの笑顔とは違う真剣な顔をしていた。

 

 

 

「才能って残酷だよね。カレンは、ミモザの子たちに比べたら全然才能ないもの」

「そんなことは……」

「あるよ」

 

カレンチャンは淡々と断言する。

マイルチャンピオンシップ連覇したデュランダル

ティアラ路線からグランプリ宝塚記念に勝利したスイープトウショウ

気性難ゆえに勝ちきれなかったが最近グランプリ夏冬連覇したドリームジャーニ―

オルフェーヴルはまだデビュー前とはいえその脚の速さは一級品以上だ。

一方カレンチャンは格上挑戦に大失敗し、ティアラ路線で走るのは絶望的な状況だ。

 

「レース以外で人気を取るなんて情けないという人もいる。才能がないという人もいる。だけどそれで諦めたら、みんなに届かないから、自分もカワイイって周りにも、何よりも自分に認めさせたいから」

「……」

「カレンは、嘘を本当にするため、嘘をつき続けているんだ」

 

人気ウマドルの裏側を見たブリランテは困惑していた。

 

「なんで、そんなこと私に話すんですか?」

「ブリちゃんは、たぶん同類だと思ったから。ブリちゃんは私なんかより才能ありそうだから、同類というのは失礼かもしれないけど」

「そんなことないです……」

「それでも、カレンはそう感じたし、お兄ちゃんもそう感じたからこういう風に分けてる」

「……」

 

ブリランテにはわからなかった。キラキラして、しかしその裏ではきっとすさまじい努力をしているカレンチャン。

何もできていない自分。

どこが同じかわからなかった。

 

「あの三人に、追い付きたいと思ってない? 追い越したいと思ってない?」

「……」

「このままだと置いていかれるって、薄々感じてるんじゃない?」

 

カレンから見ても、あの3人は異質の強さを持っているのを感じていた。

ゴールドシップは、血統から見ても、その立ち振る舞いから見ても簡単にわかる強さがある。

自分に対する圧倒的自信。それを裏付ける身体能力と頭脳。隙も無く、簡単にクラシック三冠を取ってしまいそうだ。

ジェンティルドンナもまた圧倒的である。あの体つき、あの身体能力は学園内でもきっとトップクラスだ。

表面上はお嬢様だが、闘志もまたすさまじいものがありそうである。お兄ちゃんがドリームジャーニーとオルフェーブルの姉妹に併走をさせるぐらいだ。闘志を持て余す二人と同等以上であっても不思議には思わない。

ジャスタウェイは二人に比べればまだまだだが、きっと伸びしろは一番多い。

飄々とした昼行燈っぽい性格に見せているが、目が全くふざけていなかった。いつか全員に勝ちきってやるという熱い闘志を胸に秘めたウマ娘である。クラシッククラスではそこまでかもしれないが、シニアで本格化したら一番強いのは彼女かもしれない。

そんな化け物3人に対して、ブリランテは、普通に才能があるウマ娘である、というのがカレンの感じたところだった。

普通ならGⅠにだって勝てるだろう。ライバルに恵まれれば、複数のGⅠだって勝てるぐらい、その年一番強いウマ娘になれるぐらいの才能はある。

だが、化け物に比べたら全く足りていない。

 

化け物に囲まれているカレンは、それにすぐに気づいた。

そしておそらくブリランテ本人も……

 

「あなたには二つの選択肢がある。一つは限界まで頑張って、限界を超えて、あの3人についていく」

「……」

「もう一つは、普通のお友達として付き合っていく。別に、レースで劣っても友達にはなれるからね」

「……どうやって……」

「?」

「どうやってついて行けっていうんですか、あんな、あんな強い人たちに」

「その答えの一部をカレンは持ってる」

「……」

「最高に、最強で、最凶な自分を。最もカワイイ自分を追い求め続けるしかないよ」

「……」

「あと2年しかない。止まってる余裕はないよ」

「……」

「怖いのはわかる。カレンだって毎日、凍え死ぬかと思うぐらい怖い。でも、そこまでしないとみんなに追い付けないから。お兄ちゃんに申し訳ないから」

「……」

 

そうして最凶にカワイく微笑むカレンチャン。

 

「私も……」

「?」

「カレン先輩みたいに、少しはなれますか?」

「ブリちゃんはカレンなんかよりよほどカワイくなれるよ」

 

ブリランテに自信なんてなかった。

自身が無くても、無理でも、それでもあの三人に追い付きたかった。ただの友達ではなく、ライバルとしても並びたかった。

諦めるしかないと思っていた。

だが、この最高にカワイイ先輩が断言するのだ。

それなら、きっと、もしかしたら

あの星にも手が届くのかもしれない。

 

不安そうに、恐怖で歪んだ笑顔を見せるブリランテ。

しかしその顔は、最高にカワイイとカレンチャンは感じるのであった。




マヤ「ウマスタにアップしちゃおー」
これがのちに問題になるということは、マヤも知らなかったのである。

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ゴルシちゃん以外の3人の話をどこまでやるか

  • ブリちゃんが鰤大根になるまで
  • ドンナにオルフェが吹き飛ばされるまで
  • ジャスちゃんが爆発するまで
  • いいから先に進めよう
  • 全部だ……

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