黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
いったい何が起こっているのだ。
ジャスタウェイは茫然としていた。
今日は、スピカ新入部員歓迎会、だったはずである。
そう、そんな会だったはずである。
超一流と言えるウマ娘、ブエナビスタが所属しているとはいえ、チームメンバーは一人という弱小チームであるはずだ。
だから歓迎会といっても内輪でゆっくり楽しむようなイベントを想像していた。
だが、ふたを開けてみれば大騒ぎである。
現在舞台では、違いの分かるウマ娘選手権が行われている。
生徒会長ディープインパクト先輩が、あらゆる違いが判らず、いや、わかってあえて違う方を選んでいるのではないかと思うぐらい外し続け、映す価値なしとなっている。
ドサ袋を被せられて泣いている生徒会長を見られるのはここだけだろう。
「ディープもまだまだかわいいな」
シンボリルドルフ学園理事長のそっくりさんが、隣でドヤ顔でワインを飲んでいた。
なんせ、当てたのは最後の一問だけだ。ドヤっているがそっくりさんに違いない。
「一流ですわ♪」
ゴールドシップはいつもはあんなでもやはり名家のウマ娘、全問正解して余裕のポーズである。
庶民のジャスタウェイは半々ぐらいの正解率であった。
そんなイベントの最中、ゴールドシップを応援して元メジロ家の面々がメジロの歌を歌っているし、野外舞台の一角が一般解放されているので、一般客も大量に来て大盛り上がりである。
新入部員歓迎会なのになんでこうなっているのか、全く理解できない状況であった。
そもそも、加入を決めたのは昨日であり、その日は身体測定しかしていない。
怪しいウマ娘博士(アレが、かの有名な大博士、アグネスタキオンだとはジャスタウェイは認めたくなかった)にいろいろされそうになった挙句、その怪しいウマ娘博士は真っ黒なウマ娘に投げ飛ばされて、ダートに突き刺さっていたぐらい刺激的な身体測定である。
ダートに埋まるのは最近流行っているのだろうか。
何にしろ、そんな大騒ぎしかしていなかったため碌に準備などできなかったはずだ。
それがなぜ、一晩でここまでのメンバーを集めた大騒ぎができるのか。
ジャスタウェイは理解を諦めた。
ブエナビスタは理解できずに頭から煙が上がっていた。
スズカは何も考えていないようで楽しそうにしていた。
格付けが終わったら次はライブである。
格付け順に並ぶのだろうと思っていたジャスタウェイは、センターにさせられて困惑した。
「チームリーダーがセンターに決まってるだろう!!」
らしい。
碌にライブ練習をしたことがないジャスタウェイがセンターである。
両脇にはブエナビスタ先輩とゴールドシップ。
更にその後ろにはシンボリルドルフ学園理事長のそっくりさんと、推定ディープインパクト生徒会長であるズタ袋をかぶった謎のウマ娘だ。
すべてがやばい。
何がやばいってメンバーもやばいが、ジャスタウェイのライブ技能が一番やばい。
もちろん全く踊れないわけではない。小さいころからライブのまねごとをするのは、ウマ娘の遊びの一つであり、振り付けと動き程度はわかっている。
だが所詮遊びレベルだ。
授業でだってまだ発声練習程度しかしていない。
それでも容赦なく流れ始める うまぴょい伝説
ジャスタウェイは、引き攣った表情で、どうにか踊り始めることしかできなかったのであった。
この後も焼きそばを焼きまくったり、お好み焼きを食べさせられまくったり、ずっと大騒ぎが続いていた。
途中で、ブエナビスタのもう一人の母親であるスペシャルウィークも急遽参戦した。
北海道から飛行機であわててこちらに来たらしい。
「ゴールドシップさん?」
「ス、スぺ、落ち着くんだ。というかお前、私のこと覚えてるのかよ」
「穏やかな怒りにより全部思い出しましたよ」
「その表情、全然穏やかじゃないよな!?」
すさまじく黒いオーラをまとった、往年の名バスペシャルウィークが、真っ黒なオーラを放ちながら、なぜかゴールドシップに詰め寄っている。
「昔、言いましたよね? 指は足まで含めれば20本あるって」
「折られる!!」
すごい勢いで逃げだしたゴールドシップ。
すごい勢いで追いかけ始めるスペシャルウィーク。
解説席に座る学園理事長のそっくりさんとズタ袋ウマ娘。
学園中を逃げ回ったゴールドシップは、最後スペシャルウィークにつかまり、ダートに突き刺されていた。
ジャスタウェイは考えるのを止めた。
そんなこんなで大騒ぎはおわった。
チームスピカの再始動は、まだ始まったばかりであるが、ジャスタウェイの思考力はとっくに0になり、ブエナビスタの胃へのダメージはまだまだ続くのが容易に想像できる状況であった。