黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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このゴールドシップが知る過去の出来事は、アニメよりも、そして現実よりも悲惨です。
アプリでは繰り返しプレイすることでいい成績を出すことができますが、当然悪いこともあります。そんな悪くなってしまった未来が彼女の今なのです。


序章 ゴールドシップの居た未来ー惨劇の世界線にて
20XX年 ゴールドシップの知る未来


ゴールドシップはメジロ家の令嬢である。

正確には、彼女が生まれたときにメジロ家はすでに没落していたため、血筋的には、という注釈がつくのだが。

彼女はかのターフの名優と謳われたメジロマックイーンの孫なのだ。

 

いつも表情豊かでコロコロと表情を変えるため、彼女の真顔を見たことのある人間はほとんどいない。

だが、その長い銀髪と整った顔立ちは祖母であるメジロマックイーンと瓜二つだ、と亡き彼女の祖母を知る者はよく話していた。

圧倒的な才能と、体の丈夫さに恵まれた彼女は、トレセン学園に入学し、いくつもの記録を作った。

日本ダービーを落としたためクラシック三冠バにこそなれなかったが、皐月賞と菊花賞には勝利し、さらに宝塚記念二連覇など、今までなかった記録を達成してきた彼女は、トレセン学園でまた、いろいろなことを知った。

 

祖母メジロマックイーンを襲った悲劇。

なぜ彼女がメジロ家を没落「させた」のか。

断片的であるが、何が起きたのかを推測させるに十分な情報がトレセン学園では手に入った。

 

天皇賞秋の直前、メジロマックイーンはターフを去った。

そんなメジロマックイーンを元気づけるため、奇跡を起こすと宣言し有馬記念に臨んだライバル、トウカイテイオーは、そのままレース中の事故で帰らぬヒトになってしまう。

落ち込むマックイーン。

そしてそんな彼女のとどめになったのは、ライスシャワーの事故だったらしい。

マックイーンの天皇賞春三連覇を阻み、その後スランプに陥り、しかし奇跡の復活を遂げて天皇賞2勝をしたライスシャワーは、次走の宝塚記念での事故で帰らぬヒトになってしまった。

 

「彼女はターフを恨んでいました」

 

一時は祖母と恋人関係にもあったというイクノディクタス教官は、ゴールドシップがメジロマックイーンの孫だと知ると断片的ではあるがいろいろな昔話を語ってくれた。

 

「大事なライバルを、先輩を、後輩を次々と奪っていくターフに、往年の情熱を失い、徐々に恨みを重ねていったのです」

「……先生は後悔してるんですか?」

「…………そう、ですね。後悔しかありません。私は彼女を救えなかった」

 

イクノ教官は、学園で一番優秀な教官である。

最低でもゴールドシップはそう思っていたし、周りからも多く同意をしてもらえるほどの名教官であった。

その献身的、時には自己犠牲的に見える指導は、後悔からくる代償行為なのだということを、聡いゴールドシップは悟った。

いや、おそらくその後悔に含まれるのはマックイーンのことだけではないのだろう。

遠くを見るその瞳に映っているのは、一人だけを懐かしんでいるとはとても思えなかった。

それだけ深く、悲しい目だった。

 

 

 

ゴールドシップは考える。

別にメジロ家を再興する、なんてことは考えていない。

名家の生活というのは全く想像できないし、今の生活だって別に極貧生活を送っているわけではないので十分幸せである。

生まれる前に無くなった自分の由来など、ゴールドシップにとって気にする対象ではなかった。

 

ただ、自分の由来というのは気になるものだ。

そして調べれば調べるほど出てくる多くの悲劇。

これがゴールドシップを苦しめた。

既に物語はバッドエンドで終わり、スタッフロールは流れてしまった後だ。

どうしようもないのはわかっているが、それでも無性に悔しかった。

 

ゴールドシップは往年の祖母を知るだろう人に会いに行った。

残念ながらメジロの同期で活躍していた人は見つからなかった。

人当たりが良く明るかったといわれたスペシャルウィークは、偏屈で人を拒絶する雰囲気をまとっていて何も話してくれなかった。

おしとやかな大和撫子と謳われたというグラスワンダーは、野原で惚けた様にぼーっとしているだけだった。

過去のことを話してくれる人は多くなかった。

それでも話してくれる人は何人かいた。

 

一人はトウカイテイオーと同期で、祖母の一つ下の年次で走っていたナイスネイチャだ。

北九州でバーを営んでいた彼女は、世話好きなのだろう。

東京から来たゴールドシップをいたわりながらいろいろ教えてくれた。

圧倒的強さだったトウカイテイオー。

白い風になって走る祖母。

大切に保管していたらしい当時の映像を見せてくれながら、一つ一つ教えてくれた。

その光景は非常に鮮やかで、だからこそ悲しかった。

 

「あんなキラキラした子たちにかなうわけないのはわかってるんだけどさ、それでも、私がもうちょっと才能があったならば、って思うこともあるわけよ」

 

飾らない言葉で優しく語っていたネイチャが遠い目をする。

良い才能、という名前を受けた彼女は素質にはそこまで恵まれなかったらしい。

トウカイテイオー最後の有マ記念の時、やはり三着だった彼女は、トウカイテイオーの悲劇を間近で見ていたらしい。

 

「テイオーはさ、頑張ってたんだよ」

「……」

「すごかったよあれは。本当に。ダービーの時のテイオーもすごかったけど、あの時ほど強そうと思ったことはなかったよ」

「……」

「ちょうど第四コーナーを曲がり切ったあたりだったね。私を抜き去ろうとするテイオーを追いかけてラストスパートを駆けたら、いやな音がしたんだ。で、一拍置いてすさまじい轟音が目の前で起きて、すぐに後ろに飛んで行った」

「……」

「それでおしまい。マックイーンが人目をはばからず泣いてたのはあの時しか見たことはないよ」

 

ゆっくりと、思い出しながら語り、最後は泣きながら崩れ落ちて寝てしまった彼女を、やさしい目をした彼女の夫に預けてゴールドシップはその場を去った。

 

 

 

もう一人はキングヘイローだった。

祖母の一期上に当たる人だ。アパレルにスイーツ、広く事業を手掛ける彼女に会えるとは思っていなかったが、手紙を送ると二つ返事で会ってくれることになった。

彼女はマックイーンとは直接一緒に走ったことが無いから多くは語れない、と言いながらもいろいろ話してくれた。

彼女の話の中で興味深かったのは、サイレンススズカの話だろう。

一時期メジロマックイーンもトウカイテイオーもスペシャルウィークに世話になっていたと聞いていた。

だがさらにその一つ上の先輩が関係しているとは思わなかった。

 

「そういえば、スぺちゃんにはもう会ったかしら?」

「スぺちゃん?」

「ああ、ごめんなさい、スペシャルウィークさんよ。あと、グラス、グラスワンダーさんにも、その感じだと会いに行ったかしら?」

「ええ、二人ともお元気でしたよ」

「ごまかさなくても結構よ。二人とも、話なんて聞けなかったでしょう?」

「…… はい、でも体はお元気そうでした」

「心が死んでるのだから、あまり意味はないけどね」

「どういうことですか?」

「私たちの時間は、たぶん、スズカさんが天へと駆けて行ったときに止まってしまっているんですよ」

「サイレンススズカ……」

 

沈黙の日曜日の話はゴールドシップも知っている。

だが、それが一つ期が下の彼女らにそこまで大きな影響を与えているとは思わなかった。

 

「スぺちゃんとスズカさんが寮で同室だったの、ご存じかしら?」

「いえ……」

「スぺちゃんはスズカさんのことが大好きだったわ。本当、恋人みたいだった。もしかしたら言ってないだけで恋人だったのかもしれない」

「……」

「それがあの日、スぺちゃんは変わったわ。勝利だけを追い求め始めた」

「……」

「うちの同期、あの頃とても仲が良かったのよ。だからみんなで試行錯誤した。エルは実績を見せつけるのを目指してまた海外へと行った。」

「……」

「グラスはスズカさんの代わりになろうとスぺちゃんに挑み続けた」

「……」

「セイちゃんも頑張って復帰して、あきらめないことを見せようとしていた。2年もかけて復帰したのよ、あの子」

「……」

「それで私は、同期で一番才能がなかったから、別の道もあるのを見せるために引退した」

「……」

「結果はどうなったか、聡いあなたならわかるでしょう?」

 

どれも、うまくいかなかったのはわかった。

エル、おそらくエルコンドルパサーさんだろう、彼女は海外で帰らぬヒトとなった。

グラスワンダーさんはスペシャルウィークさんに勝って、勝って、そして恨まれただけだった。

セイウンスカイさんは、復帰したが結果はボロボロで、そのまま引退になり早逝した。

キングヘイローさんは、きっとそれにいまだにとらわれている。

 

悲劇はそこら中に転がっており、縄のように絡まりつながっていた。

 

「早く、月曜日が来ないかしら」

 

明日は月曜日だ。しかし彼女の月曜日はおそらく、ずっと来ないのだろう。

 

調べれば調べるほど、ただ気持ちが沈むだけだった。

学園に戻り、ぼんやりと中央の噴水の淵に座る。

三女神の像が噴水の中央にあった。

ウマ娘の原点といえる三女神は、ウマ娘達の願いを叶えるという。

しかしゴールドシップはそれに非常に懐疑的だった。

現実主義者というのもあるが、それ以上に、助けてくれるのが本当ならばなぜ、こんなにも悲劇があふれているのだろうか。

半ば八つ当たり的に、ゴールドシップは落ちていた小石を拾うと、三女神の像に投げつけた。

 

 




ゴールドシップがぶっとんでるのは原作から行っても妥当なのですが、他の登場ウマ娘と比較しても明らかに年代が若く、さらに学年不明なことも相まって、実は未来から悲劇をぶち壊すために乗り込んで来たんじゃないかと思い、お話を書き始めました。

馬のゴールドシップも、ウマ娘のゴールドシップも、聡くて優しいいい子なんだと思います。

今後スピカに加わってもらいたいメンバーは?(補足は活動報告へ)

  • 蹴りたいトセジョさん&きれいなシチーさん
  • 不屈の帝王 トーカイテイオー
  • 不撓の王・高貴な雑草魂 キングヘイロー
  • うーららーん! ハルウララ
  • 朝はパン派 ライスシャワー
  • イマジナリフレンドならアドマイアベガ
  • ウマ娘最小ニシノフラワー
  • やっぱりメジロマックイーン
  • メジロはメジロでもライアン
  • 私服のセンスが光るメジロドーベル
  • パーマーのこと忘れてない?トレーナー?
  • その他ー活動報告へ
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