黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
夜が明ければ、また騒がしい日々が始まった。
ただ、あのきれいな景色を見たせいか、スズカの心は少しだけ落ち着いていた。
「スぺちゃん、今日は二人で、ゆっくり食べない?」
「は、はい、スズカさん!」
落ち着けば、見えてくるものはいっぱいあった。
スペシャルウィークは、慣れない中、みんなと仲良くなろうと頑張っていた。
それはとてもいいことだと思うが、少し無理をしているように思えた。
話と他人への対応で時間を取られ、毎回最後に搔き込むようにご飯を食べているのが気になったのだ。
話しながら食べるとか、そういったことが苦手なようだ。
時には二人でゆっくり食べるのもいいだろう。
そう思ってスズカはスぺを誘い、食事を部屋に持ち込んだ。
あいかわらず、スぺの食事は大盛りの白飯である。
それを味わうように、ゆっくり食べている。食べる速度が遅いわけではないが、そう速いわけでもない。
今まではやはり少し無理をしていた様だ。
「どうしました? スズカさん?」
「おこめつぶが、頬についているわ」
「え? 本当ですか?」
「とってあげる」
「へ、ひゃあぁ」
スズカはスぺの頬についた米粒を取ってあげる。
真っ赤になった彼女は、とても可愛らしかった。
教室に行くと、タイキシャトルがこちらを見ているのに気づいた。
同じリギルのメンバーであり、チーム時代は多少交流があったが、どうしたのかとスズカから声をかける。
「何か用? タイキシャトル」
「いえ、新しいチームでうまくやれているかなって思いまして」
「そうね、リギルよりかなり賑やかだから、まだちょっと慣れないかも。でも大丈夫よ」
「そうですか。エアグルーヴが期待してましたよ」
「エアグルーヴが?」
期待とはなんだろうか? 心配ならわかる。あの一つ上の先輩は、自分を良く心配してくれていた。
「天皇賞秋、勝つのは私だって」
「?」
「ライバル、だそうですよ」
「ライバル……」
スズカは驚いた。
自分は彼女にとって、保護される対象でしかないと思っていた。
競う相手だと認識されたことに、不思議な感じがした。
「心配してくれてありがとう、タイキシャトル」
「いえいえ。仲間ですから♪」
「エアグルーヴに伝えて」
「?」
「天皇賞秋、私が勝つって」
「ふふふ、わかりました」
自然とそんな言葉が出た。
言っておいてなんだが、勝てるとはかけらも思えない。
相手はあのリギルが誇る女帝
自分はリギルに耐え切れなかったただの敗北者。
だけど、その彼女がライバルと言ってくれたのだ。
その期待には応えたいとスズカは思った。
同時に、チームを辞めても仲間といってくれるタイキシャトルもありがたいと思った。
「トレーナーさん」
トレーニングが始まるときに、スズカはトレーナーに声をかけた。
「今度の天皇賞秋、エアグルーヴに勝ちたいんです。どうすればいいか、アドバイスもらえませんか」
「ふむ、戦法はどうするつもりだ?」
「逃げます。最初から最後まで、先頭をゆずりません」
「いいんじゃないかな。じゃあそれを実行するのに足りないのはなんだ?」
「スタミナです。第四コーナーまで先頭はキープできますが、おそらくそこから先が足りません」
「ほかにはあるか?」
「スタートも心配です。天皇賞秋のコースは外枠不利なので……」
「じゃあ、スタミナ強化とスタート練習、あとはスタート時のレース展開の研究だな。おーい、スカーレット!」
「なんですか?」
「スズカと併走しろ! 坂路3本!」
「はぁ!?」
「お前、昨日の併せウマでウオッカに差されただろ。スタミナが足りてねえ。それには坂路が一番だ。あとスズカの逃げ方を盗め! ほら、行ってこい」
「わかったわよ……」
「よろしくね、スカーレットちゃん」
「よろしくお願いします。スズカさん」
今までトレーナーにスズカは、トレーニングをどうすればいいか、と漠然としか聞かなかった。
だが、具体的にどう言う目的で、どうしたいかを聞けば、ちゃんと答えは返ってきた。
ダイワスカーレットもスズカのように逃げるとまではいかないが、先行策が得意なウマ娘である。
前に出る作戦は、何より最後までばてないスタミナが必要である。
最初はしぶしぶ、といった風なスカーレットだったが、並んで走り始めれば闘志全開である。
似たような展開、似たようなペース配分である故、力量差がすぐにわかる。
負けたくないと必死に食いついてくるスカーレットをスズカは少しずつ引き離しつつ、一本目を終わらせる。
「スズカ先輩速すぎるぅ!!」
「ふふ、私の勝ちね」
「もう一本お願いします!!」
「負けても泣かないでね」
スぺとの併走とは違うトレーニング。似たような脚質ゆえに自分の欠点も利点もすぐに浮かび上がる。
結局三本ともスズカが勝利し、スカーレットは不貞腐れた。
スぺはその間、ウオッカと並走トレーニングをしていた。
ゴールドシップはゲートからクラウチングスタートでくぐりつつスタートしようとして、ゲートにおでこをぶつけていた。
一日が終わり寝る直前、スぺの尻尾を櫛で梳かしながら、スズカは思った。
自分が何も見えていなかったことが。
周りに気を使ってもらっていたことに気づいた。
なんてことはない。自分で壁を作って、その中で苦しんで調子を崩していただけだった。
櫛をスぺに渡す。手が触れるととても温かい。
迷子の時に導いてくれそうな、そんな温かさがあった。
交代して、スズカの尻尾をスぺが梳かし始める。
慣れていないようだが、痛くないように慎重にしてくれる。
あまりにゆっくり過ぎて少しくすぐったかった。
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