黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「私、何も見えていませんでした」
「見えるようになったならいいのではないですか?」
尻尾の梳かしあいをした後、スぺはすぐに寝てしまった。
スズカはまた部屋を抜け出し、白銀の彼女に会いに来た。
彼女はスズカに気づくと手招きをする。
そのままなんとなく、膝枕をしてもらう体勢になった。
甘い香りが鼻をくすぐる。とても落ち着いていく。
「今まできっと、みんなに迷惑を掛けました。それでも?」
「良くしてもらった相手に言うのは『ごめんなさい』じゃないですよ。『ありがとう』です」
「……」
そういいながら優しくスズカの頭を撫でる。
くすぐったくて、落ち着いて、耳がぴくぴく動いてしまう。
「スぺちゃんは、慣れない中一生懸命仲良くしてくれました」
「とてもいい子ですね」
「エアグルーヴは、付き合いが下手な私と根気よく向き合ってくれて、ライバルと言ってくれました」
「とてもいい子ですね」
「タイキシャトルも私のこと心配して声をかけてくれていました」
「とてもいい子ですね」
「トレーナーさんも私のことをよく見てくれています。チームのみんなもよくしてくれます」
「良い人に恵まれていますね」
「こんな私なのに…… と思ってしまいます」
「あなただからいいのですよ。彼女たちも、私も」
優しく頭を撫でていた手が、耳の先に触れる。少しだけ、くすぐるように撫でられる。
耳がピコピコ動いてしまう。
「どうすればいいのでしょうか」
「難しくはないですよ」
「本当?」
「友には贈り物を、ライバルには勝負を、恩師にはお礼を送ればいいのです」
「……」
「あなたも、とてもいい子です。どうすればいいか、わかるでしょう?」
「……はい」
明日、スぺちゃんにはお礼を言ってお菓子をあげよう。きっと喜ぶはずだ。
エアグルーヴには、天皇賞秋で見せつけるのだ。自分が、エアグルーヴの、最強の女帝の横に並ぶ存在だという事を。
タイキシャトルや東条トレーナーさんにはお礼を言いに行こう。世話になったのに、挨拶もしていなかった。遅くはあるが、遅すぎることはないはずである。
沖野トレーナーさんにもチームのみんなにもお礼を言わないと。飴を付けたら喜ばれるだろうか。
スズカはなんだか明日が楽しみになってきた。こんな気持ち、久しぶりかもしれない。
ゆっくりした時間が流れる。
星は今日もきれいだ。
柔らかい彼女の太ももの感覚。
砂糖のように甘い、彼女の香り。
優しい彼女の手。
とても優しくて、スズカの心が落ち着いていく。
「そういえば」
「なんですか?」
「なんてよべばいいですか?」
お互い名乗ってもいない。栗東寮の生徒なのは疑いないだろうが、あいにくスズカは彼女のことをここ以外で見たことが無かった。
「名前で呼ぶのも無粋ですから…… お姉さま、とでも呼んでもらえれば」
「お姉さま……」
「はい、私の愛しのポニーちゃん」
ポニーちゃん。甘やかすときに時々使う言葉だが、スズカはそんなこと、家族にも言われたことが無かった。
それを彼女、お姉さまに呼ばれると、恥ずかしいような嬉しいような。
複雑な気持ちになった。
きっと顔は真っ赤になっているだろう。
そんなことを言ったお姉さまはどんな表情をしているだろうか。
上を向くと、星々の空とお姉さまの顔が見える。
「あれ、お姉さま、額のところ赤いですよ? ぶつけました?」
スズカは彼女の額が赤くなっているのに気づく。
白い肌の彼女だからこそ、余計目立っているように思う。
「昼間、ちょっとぶつけちゃいまして」
ばつの悪そうに笑うその姿もまたきれいで、でも少し可愛らしかった。
「ゴールドシップはいったいどこへ行ってしまったのでしょう」
夜目を覚ましたマックイーンは、隣のベッドが空になっているのに気づいた。
どうしたのかと思ってゴロゴロしていたら、すぐに帰ってきた。
頭の飾りを外し、髪を流している外ではあまり見ない格好である。部屋で寝るときはいつもこの格好なのでマックイーンは見慣れている。見なれていないと別人に見えるのかもしれないなとちょっと思った。
「こんな深夜に何してたんです?」
「マックイーン、起きちゃったか。うるさくてごめんごめん」
「あんまりいたずらをしてると怒られますよ」
「いやいや、迷える愛しのポニーちゃんに相談に乗っていただけだZE♪」
何を言っているのか全く不明だが、なんだかんだ言って面倒見のいい彼女のことだ。
おそらく誰かの相談にでも乗っていたのだろう。
「あんまり夜更かしは感心しませんよ」
「次からはマックイーンを起こさないように注意するZE♪」
「そういう事じゃないんですが……」
そんな雑談をしていると眠気が襲ってくる。
まあ大丈夫だろうと思ったマックイーンはそのまますぐに眠りについた。