黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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運命の日まではまだ遠い


第116回天皇賞(秋) 東京レース場 芝 2000m

天皇賞秋の前哨戦として参加した神戸新聞杯では、サイレンススズカはぶっちぎりの一位であった。

大逃げにもかかわらず、第四コーナーを回って直線に入るとさらに末脚が残っているという走りを見せた。

二番人気のマチカネフクキタルの猛然とした追い込みを、同じ上がり3ハロンのタイムで引き離し、大差で引き離しての勝利であった。

 

「スズカさん! すごいです!!」

「これもスぺちゃんやトレーナーさん、みんなのおかげよ。ありがとう」

 

夏合宿を挟んで、スズカはトレーニングを重ねた。

一つずつ、何を鍛えるべきか、何を伸ばすべきか

トレーナーと話をして決めて、それに合ったトレーニングを重ねた。

ダイワスカーレットと併せてスタミナやペース配分を

スペシャルウィークやウオッカと併せて追われる感覚やその突き放し方を

そして数字的な分析と体調管理はアグネスタキオンが手伝ってくれた。

ゴールドシップはよく昼寝をしていた。

夜にはお姉さまが悩みを聞いてくれてレースでの心意気などのアドバイスをくれた。

 

夏が明けたときに、スズカは確実に成長していた。

その成果は神戸新聞杯で現れた。

圧倒的なその速さに観客もチームメンバーも驚いた。

天皇賞秋への準備は万全であった。

 

 

 

大歓声に沸く東京レース場。

メインレースである天皇賞秋に向けて、スズカは控室を出た。

チームメンバーみんなが応援してくれた。

お姉さまも、昨日の夜だが応援してくれた。

負けたくない。

そんな気持ちが強かった。

 

本バ場へ向かう地下道の途中。

スズカは前を歩くエアグルーヴを見かけ、声をかけた。

 

「エアグルーヴ」

「スズカか」

「今日は負けないから」

「ふふふ、トレーナーの言っていたことは本当になったな」

「トレーナーさん? 東条トレーナーさん?」

 

一瞬スピカの沖野トレーナーを頭に浮かべたが、エアグルーヴが言ったのはおそらくリギルの東条トレーナーのことだろう。

 

「トレーナーはな、スズカがリギルをやめるときに言ったんだ。『このままじゃ、スズカに天皇賞秋で敗ける』ってな」

「!」

「この前の神戸新聞杯の走り、見ていたよ。確かに今のスズカに、あのまま普通にトレーニングしていた私では手も足も出なかっただろう」

「……エアグルーヴ」

「しかし最強は、勝利はリギルとこの女帝のものだ。叩き潰してやる」

「もう一度言うわ。負けないから」

 

その言葉を最後に、二人は本バ場へと向かう。

送り出してくれた東条トレーナーとエアグルーヴのためにも、スズカは負けたくなかった。

 

 

 

ファンファーレが鳴り響く。

各バ続々とゲートに入っていく。

スズカの心が研ぎ澄まされていく。

ウマ番は5枠9番、真ん中あたりであるが先に行きたいスズカにとっては少し不利であった。

だが、そんなことは関係ない。

彼女が見ているのはあくまでゴール。

そしてエアグルーヴだけであった。

 

 

 

ゲートが開くと真っ先にスズカは飛び出した。

出遅れもなく並んで出たウマ娘達から、快調に飛ばし一番につく。

天皇賞秋という一大レースに参加している一流のウマ娘達すら置き去りにするサイレンススズカの大逃げであった。

 

「もっと、もっと速く……」

 

スタートの1ハロン、10秒台で駆け抜けていくスズカの大逃げ。

そのあとも1ハロン11秒台でラップを刻んでいく。

圧倒的な速度に後との差がどんどん広がっていく。

実況がスズカと二番以下の差を測る単位がバ身から、メートルへと変わる、それだけの差をどんどん作っていく。

そうしてスズカはそのまま、最終コーナーへと飛び込んだ。

 

東京レース場は左回り、スズカの得意なコーナーだ。

コーナーに入って、一度息を入れる。最後の末脚分を発揮するための一息だった。

また、速度を少しだけ落として、コーナーリングをきれいに、最短距離で回る事も意識していた。

そうやってスズカが一息入れたタイミングで、他の後続バが必死に間を詰めにかかる。

既にセーフティリード、先頭を行くスズカがばてても追いつけない距離になっている可能性すらある。

あまりのリードに焦った後方集団が一斉にスピードを上げた。速度を上げたままスズカに続くようにコーナーを曲がっていく。

当然トップスピード近くでコーナーに突っ込めばうまくは回れずに後方集団は外側にばらけた。

 

コーナーを抜けるとそこから直線に入る。

大きく息を吸い、吐いたスズカは最後の力を振り絞りスパートをかけた。

大きく回ってコースロスをした後続集団を一気に突き放しにかかる。

そのまま一気にゴール目指して駆け抜ける。

目の前には素晴らしい風景が広がっている。そう、広がっているはずだった。

 

ぞくり

 

強烈なプレッシャーを後ろから感じた。

既にスパート態勢に入っているスズカに振り向く余裕はない。

だが、後続集団はみなコーナリングがうまくいっていないのはスパート前に確認した。

だからついてこれるわけがない。にもかかわらずプレッシャーはどんどん大きくなっていく。

 

「どりゃあああああ!!!」

 

エアグルーヴが内から一気に上がってきた。

 

 

 

エアグルーヴと東条トレーナーは天皇賞秋を制覇するための方策を練っていた。

スズカが逃げるのは明らかだ。

才能を開花させ始めた彼女が前で崩れるのを期待するなんてナンセンスである。

神戸新聞杯の勝ち方を見る限り、直線で多少速度が落ちても、末脚をさらに発揮して先頭を維持するだろうことは予想できた。

それを差し脚でとらえるためには二つ、絶妙な距離感と、絶妙なタイミングでの仕掛けが必須だった。

 

東京レース場の特徴。それは長い直線である。

その距離は日本のレース場で一番長く、526mもあり、中山レース場の1.5倍以上である。

このラストの直線を使えば、ギリギリスズカを差し切れるはずであった。

しかしそれにはスズカの逃げに引き離されすぎないこと、そして、絶妙なコース、絶妙なタイミングで仕掛けることが必須だった。

引き離されすぎると最後に届かない。

コース取りを間違うとやはり最後に届かない。

仕掛けるタイミングが早すぎるとコーナーで遠心力がかかり、外にぶれてやはり届かない。

遅すぎると最後にやはり届かない。

 

東条トレーナーが計算したほとんど誤差の許されない勝利の方程式。

それを実行するだけのエアグルーヴの知性と身体能力、そして信頼。

それが証明される時が来ようとしていた。

 

外側に振られた後続集団の後ろから、大内の最短コースを通って、切り裂くばかりの鋭い末脚で上がってくるエアグルーヴ。

そうして残り1ハロンでスズカに並ぶ。

スズカは力を振り絞る。すでに末脚は使い切ってしまっている。もう何も残っていないが、それでも全身のどこかにこびりついた余力を総動員して走り続ける。

エアグルーヴも力を振り絞る。限界まで末脚を使って、残り100mを切ったこのタイミングで追い抜くはずであったが、執念で粘るスズカを引き離せずにいた。

 

走る

走る

走る

 

並んだ二人は、そのままゴールへと飛び込んだ。

 

 

 

第116回天皇賞(秋)の結果は

1着エアグルーヴ

2着サイレンススズカ

であった

その差数cmという接戦で幕を閉じた。

 




ちなみに沈黙の日曜日は翌年の第118回天皇賞秋です。
エアグルーヴが勝った天皇賞秋ではバブルガムフェローとかいましたが、ウマ娘にいないので省略されました。

ゴルシちゃんの豆知識
陸上競技ではトルソー、平たく言うと胸の部分がゴールラインに到達するとゴールになるんだZE。
そして最速の機能美は70で胸のボリュームに気を付けないといけない
一方
女帝は90で容姿端麗なんだZE。
つまり数センチの差とはそういうことなわけだZE。
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