黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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第四章 メジロの因縁と精霊ウマ
メジロのおばあ様へのご挨拶


ゴールドシップはメジロマックイーンに連れられてメジロ家を訪れることになった。

 

「おばあ様」とマックイーンが呼ぶ人から呼ばれているという事で、半ば強引に連れてこられた。

話を聞くとマックイーンの祖母らしい。

つまり、自分から言ったら曾祖母か? いや、これだと祖母の母だな、なんてことを考えながら、立派な黒塗りの高級車に乗せられて、メジロの屋敷にたどり着いた。

 

屋敷も驚くぐらい立派である。

かつては小さなアパートに家族三人で住んでいたゴールドシップは、世界の違いを感じた。

広すぎてとても使いにくそうだな、という感想がまず浮かぶあたり、育ちが違い過ぎる。

 

「広過ぎね? ここ、ホテルでもしてるの?」

「いえ、おばあ様とか、メジロ家の皆さんが住んでいるだけですよ?」

「いやだって、これだけ部屋あったら100人ぐらい住んでそうじゃん! 一部屋でも寮の部屋より広そうだし!」

「使用人の方も一部住んでいますが……」

「やべえ、世界が違い過ぎる。扉開いたら異世界に飛ばされてチートもらえそう」

「そんなわけありませんわ」

 

マックイーンと話が合う気がしない。

マックイーンの癖に、とか謎の感想を抱きながら、ゴールドシップは屋敷の中に入っていく。

幸い扉を開けても異世界に飛ばされることはなかった。

 

 

 

そうしてゴールドシップはじいやさんに連れられて、おばあさまの部屋を訪れる。

おばあさま。葦毛で初めて天皇賞を勝利した、偉大なウマ娘の一人である。

既に真っ白な髪の毛が日光に反射している。

そんな彼女が目の前にいた。

 

「いらっしゃい、ゴールドシップさん」

「呼ばれたぜ、婆さん。悪いんだけどさ、一つお願いしていいか」

「なんですか?」

 

マックイーンから失礼がないようにと再三再四言われたが、そんなの関係ないのがゴールドシップだ。

そもそも別に、相手と自分に上下関係はない。礼儀を尽くす義理も何もない。

ここに来たのもマックイーンのお願いがあったからでしかない。他の人間だったら絶対に断っていた。

 

「逆光でまぶしい。あと、椅子くれないか。疲れちゃってさ」

 

ふてぶてしくそんなことを言ったが、目の前のおばあさまは気にした様子もなかった。

 

「ごめんなさいね。偉くなるとどうしても偉ぶりたくなっちゃって。悪い癖だわ。そちらのソファで話しましょう」

 

そういって右手にあった応接セットに案内された。

座るとソファはふかふかであり、目の前には紅茶セットが置いてあった。

ゴールドシップは目の前のスコーンを取って、かぶりつく。ほのかな甘さが上品な味だった。

 

「で、婆さん、何の用だ?」

「単刀直入に言うわ。ゴールドシップさん。あなた、精霊ウマでしょう?」

「ゴルシちゃんは精霊ウマが何だかわからないから、答えようがないぜ」

 

嘘ではない。単語自体はトレーナーから聞いたが、その意味は概要しか聞いていない。自分で調べてもろくな情報は出てこなかった。

だからなんだかはわからない。そもそもトレーナーが言っていたのと同じ意味なのかもわからない。

だからゴールドシップはごまかした。

だが、目の前の彼女は気にした様子もない。

 

「やっぱり、そうやってごまかす姿がマックイーンそっくりね。本人はうまくごまかしてるつもりみたいだけど、視線が左によって、耳が少しだけ動いているわ」

「……」

 

なんだこの婆さん。祖母だからなのか、そんなのよくわかるものだ。

マックイーンと同じ癖、といわれるとうれしいような複雑なような、そんな気持ちになった。

 

「顔もそっくりね。マックイーンの娘かしら? 孫かしら? 孫かしらね」

「マックイーンちゃんはとてもまじめな子だから、その子孫がゴルシちゃんみたいな子になるわけないんだぜ!」

「そっくりよ、本当に」

「……」

 

確定的に言われると、ゴールドシップも言うことが無くなってくる。

完全に相手のペースに巻き込まれていた。

おそらく彼女は自分の正体を確信しているのだろう。

精霊ウマについて、ゴールドシップは自身で調べたが、古文書などに散見されるだけだった。

良くあの勉強嫌いそうなトレーナーがそんな概念と内容を知っていたと思うぐらいだった。

メジロ家は歴史もあるし、そういった知識も残っているのかもしれない。

そうすると、こうやって確定的に言ってくるのも何となく納得できた。

 

「それで、ゴールドシップさん、一つおばあちゃんからお願いがあるんだけど」

「聞くだけは聞くぜ」

 

今までのはきっと前置きである。

目の前の老人は、ゴールドシップがメジロマックイーンの縁者であるのも察している。

マックイーンの娘か孫であるというあたりもつけているようだ。

そして自分がメジロの血を継ぎながら、メジロの名を継いでいない理由も、おそらく察しているだろう。

メジロ家の没落

これだけ条件がそろえば推測はそう難しくないはずだ。

彼女はメジロ家の長である。ならば、それの維持を気にかけるはずだ。

何を言ってくるか、緊張し身構えたゴールドシップに、目の前の老人が告げたのは意外なことだった。

 

「未来に帰ってくれませんか?」

 

 




老人の直感は時に予知めいている

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