黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
メジロのおばあ様へのご挨拶
ゴールドシップはメジロマックイーンに連れられてメジロ家を訪れることになった。
「おばあ様」とマックイーンが呼ぶ人から呼ばれているという事で、半ば強引に連れてこられた。
話を聞くとマックイーンの祖母らしい。
つまり、自分から言ったら曾祖母か? いや、これだと祖母の母だな、なんてことを考えながら、立派な黒塗りの高級車に乗せられて、メジロの屋敷にたどり着いた。
屋敷も驚くぐらい立派である。
かつては小さなアパートに家族三人で住んでいたゴールドシップは、世界の違いを感じた。
広すぎてとても使いにくそうだな、という感想がまず浮かぶあたり、育ちが違い過ぎる。
「広過ぎね? ここ、ホテルでもしてるの?」
「いえ、おばあ様とか、メジロ家の皆さんが住んでいるだけですよ?」
「いやだって、これだけ部屋あったら100人ぐらい住んでそうじゃん! 一部屋でも寮の部屋より広そうだし!」
「使用人の方も一部住んでいますが……」
「やべえ、世界が違い過ぎる。扉開いたら異世界に飛ばされてチートもらえそう」
「そんなわけありませんわ」
マックイーンと話が合う気がしない。
マックイーンの癖に、とか謎の感想を抱きながら、ゴールドシップは屋敷の中に入っていく。
幸い扉を開けても異世界に飛ばされることはなかった。
そうしてゴールドシップはじいやさんに連れられて、おばあさまの部屋を訪れる。
おばあさま。葦毛で初めて天皇賞を勝利した、偉大なウマ娘の一人である。
既に真っ白な髪の毛が日光に反射している。
そんな彼女が目の前にいた。
「いらっしゃい、ゴールドシップさん」
「呼ばれたぜ、婆さん。悪いんだけどさ、一つお願いしていいか」
「なんですか?」
マックイーンから失礼がないようにと再三再四言われたが、そんなの関係ないのがゴールドシップだ。
そもそも別に、相手と自分に上下関係はない。礼儀を尽くす義理も何もない。
ここに来たのもマックイーンのお願いがあったからでしかない。他の人間だったら絶対に断っていた。
「逆光でまぶしい。あと、椅子くれないか。疲れちゃってさ」
ふてぶてしくそんなことを言ったが、目の前のおばあさまは気にした様子もなかった。
「ごめんなさいね。偉くなるとどうしても偉ぶりたくなっちゃって。悪い癖だわ。そちらのソファで話しましょう」
そういって右手にあった応接セットに案内された。
座るとソファはふかふかであり、目の前には紅茶セットが置いてあった。
ゴールドシップは目の前のスコーンを取って、かぶりつく。ほのかな甘さが上品な味だった。
「で、婆さん、何の用だ?」
「単刀直入に言うわ。ゴールドシップさん。あなた、精霊ウマでしょう?」
「ゴルシちゃんは精霊ウマが何だかわからないから、答えようがないぜ」
嘘ではない。単語自体はトレーナーから聞いたが、その意味は概要しか聞いていない。自分で調べてもろくな情報は出てこなかった。
だからなんだかはわからない。そもそもトレーナーが言っていたのと同じ意味なのかもわからない。
だからゴールドシップはごまかした。
だが、目の前の彼女は気にした様子もない。
「やっぱり、そうやってごまかす姿がマックイーンそっくりね。本人はうまくごまかしてるつもりみたいだけど、視線が左によって、耳が少しだけ動いているわ」
「……」
なんだこの婆さん。祖母だからなのか、そんなのよくわかるものだ。
マックイーンと同じ癖、といわれるとうれしいような複雑なような、そんな気持ちになった。
「顔もそっくりね。マックイーンの娘かしら? 孫かしら? 孫かしらね」
「マックイーンちゃんはとてもまじめな子だから、その子孫がゴルシちゃんみたいな子になるわけないんだぜ!」
「そっくりよ、本当に」
「……」
確定的に言われると、ゴールドシップも言うことが無くなってくる。
完全に相手のペースに巻き込まれていた。
おそらく彼女は自分の正体を確信しているのだろう。
精霊ウマについて、ゴールドシップは自身で調べたが、古文書などに散見されるだけだった。
良くあの勉強嫌いそうなトレーナーがそんな概念と内容を知っていたと思うぐらいだった。
メジロ家は歴史もあるし、そういった知識も残っているのかもしれない。
そうすると、こうやって確定的に言ってくるのも何となく納得できた。
「それで、ゴールドシップさん、一つおばあちゃんからお願いがあるんだけど」
「聞くだけは聞くぜ」
今までのはきっと前置きである。
目の前の老人は、ゴールドシップがメジロマックイーンの縁者であるのも察している。
マックイーンの娘か孫であるというあたりもつけているようだ。
そして自分がメジロの血を継ぎながら、メジロの名を継いでいない理由も、おそらく察しているだろう。
メジロ家の没落
これだけ条件がそろえば推測はそう難しくないはずだ。
彼女はメジロ家の長である。ならば、それの維持を気にかけるはずだ。
何を言ってくるか、緊張し身構えたゴールドシップに、目の前の老人が告げたのは意外なことだった。
「未来に帰ってくれませんか?」
老人の直感は時に予知めいている