黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「という事でスピカダイエット大作戦始めるぞー」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
「……」
ダイエットが必要という事で、なぜか作戦会議が始まった。
動いた方がいいんじゃないか、とウオッカは思ったが、なぜかほかのメンツはやる気満々だった。
「では、まずどうすれば痩せるかについてだ」
「はい!!」
「スペ! 元気がいいな! 何か意見はあるか?」
「根性で走り続けます!! 坂路100本ぐらいやれば痩せると思います!!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「スぺ先輩、それ脚壊しちゃいますよ……」
スぺが第一声、努力と根性があればどうにかなるみたいな手段を提案する。
スぺは走るのが好きだし、とにかくべらぼうに根性があるし、何よりびっくりするぐらい丈夫だ。
タキオンが羨むぐらいの健康優良児である。
これは止めないと本気でやるパターンである。良くも悪くも有言実行なのがスぺだ。
過酷すぎてあまり本人にもよくなさそうだとウオッカが止めようとする。
そう、止めようとしたのだが……
「そうね、スぺちゃん、わたしたちはウマ娘、走って痩せるのが王道ね……」
「スズカ先輩!?」
「ですよね! やっぱり走るべきですよね!!」
「スぺ先輩!?」
基本的に走る事に狂ってるスズカの心に響いてしまったようだ。
二人して着替え始めて走る気満々である。
しかし、このままいかせたら明らかにオーバーワークになるのが目に見えている。
スズカは香港の国際レースに行く予定があるし、スぺはメイクデビューが近い。
トレーナーがいれば止めてくれるのだが、残念ながら今は席を外していた。
どうにか止めなければならないが、ウオッカもそうトレーニング技術に精通しているわけではない。
(ぴー)キロ痩せる方法がほかに思いつかなかった。
どうするかと悩んでいると、タキオンがいきなり立ち上がった。
おでこはまだ赤かった。
「ふっふっふ 実はここにとてもいい薬があってね」
「タキオン先輩!? 痩せる薬はやばいですよ!」
「大丈夫だ、カプサイシンたっぷりでクソ辛くて、さらにいろんな食べ物の体にいい苦み成分を濃縮配合しているだけだからな。飲むとしばらく味がなくなって食欲がなくなる。さらにカプサイシンの発汗効果で痩せるというわけだ」
「やばいじゃないですか!」
「ちなみに一昨日飲んでみたんだが、お腹を壊した」
「ダメじゃないですか!?」
「カプサイシンが強すぎたみたいだね。昨日は地獄だったよ。出し切ったからもう大丈夫だが」
「大丈夫じゃないですよ!?」
タキオンが取り出したものはマッドすぎる代物だった。すぐに奪い取ってごみ箱に捨てた。
ゴールドシップやダイワスカーレットが不満そうにするが知ったことではない。
タキオンはにやにやしていた。絶対わかってやってる。
ウオッカは必死に考える。
食べ物ネタは論外だ。そっちに持っていくと絶対タキオンが変なものを出してくる。
かといって単に量を減らすのは、特にスぺができそうにない。
そしてスぺは本当においしそうに食べるから、周りも絶対釣られる。いい方法ではない。
ではやはり運動量を増やす方向だろうか。
だが、走らせたら根性だけで本気でどこまでもやるスぺと走り狂いのスズカが暴走する雰囲気を感じていた。
つまり、足に負担を駆けない何かが必要である。
「そういえばタキオン博士」
「なんだい、ゴールドシップ君」
「この前タキオン研究所に研究用プールできましたよね」
「ああ、そういえばそうだね、あそこを使うかい」
「それですよ! プールなら走るより脚の負担が少ないです!!」
ウオッカは目の前に垂らされた蜘蛛の糸に飛びついてしまった。
ウオッカも走るのが嫌なわけではない。というかウオッカも結構とんでもないハードなトレーニングをする。
だが、今のダイエットに毒されたオーラからして、明らかにとんでもないことになりそうだ。
そう察して必死に方向修正をしていたに他ならない。
しかし、研究用プールというものが何か、もう少し彼女は考えるべきだった。
「じゃあ、今から水着持って、みんなプールに出発だ」
「「「「「おー!」」」」」
少女たちは楽しそうに準備を始めた。