黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「という事で、第一回スピカお料理教室を始めます」
結局体重が増えたままになってしまったマックイーン。
トレーナーに聞いても
「それくらいがちょうどいいと思うぞ。というかもっと増やした方がいい」
なんて乙女心が分かってない回答しか来ないので、自分で対策を考えることにした。
運動量をこれ以上増やすことは難しい。
あのタキオン研究所高速水流トレーニングプール、通称洗濯機は一度受けるともうへとへとだ。
毎回体力を絞りつくすまで洗濯されるので、運動量を増やす余地があるとは思えなかった。
という事で食事の方を変えることにした。
テーマはカロリーが低いスイーツである。
このカロリーを減らせば減量できるだろうという算段である。
本来スイーツ食べるのやめろよ、というところであるが、スイーツに脳内汚染されたマックイーンに食べないという選択肢はなかった。
マックイーンの提案の下、スピカのチームメンバー全員で、栗東寮の食堂に集まっていた。
栗東の食堂は、料理を出してくれる場所以外に、生徒たちが料理できるスペースもある。
そこで、それぞれがダイエット向きのスイーツを作るという企画である。
各々が好きな材料を持ち寄って料理を始めていた。
「できたぞ」
そういって一番に持ってきたのはアグネスタキオンだった。
ミキサーに楽しそうに何かを入れていたが、出来上がったのは虹色の物体Xだった。
「……なんですの、これ?」
「タキオン博士のスイーツ、いただきます!」
ゴールドシップは果敢にもそれに挑み……
「げろまずっ!!」
虹色の逆噴射をした。
「そんなバカな…… げろまずっ!!」
タキオンが苦笑しながら自分のレインボーを飲み、やはり虹色の逆噴射をした。
「タキオン先輩、これ、何が入ってるんですか……?」
「漢方の五色思想を参考に、赤にニンジン、白に白ごま」
「そうヘンなものではなさそうですね」
「黄に味噌」
「みそ汁作ってるんじゃないんですのよ!?」
「青に笹の葉」
「ウマ娘はパンダじゃありませんわよ!?」
「黒にすっぽんを入れた特製ドリンクだ」
「なんでそれで行けると思ったんですの!? というかスイーツじゃないじゃありませんか!」
「いやぁ、昔はよくこういうの飲んでいたんだけどなぁ」
「スカーレットさん! タキオン先輩の面倒これからも見てあげてくださいね!!」
タキオンの料理下手と生活習慣のやばさが浮き彫りになった。
スカーレットがいなくなったらタキオンは大変なことになりそうである。
「タキオン先輩、ダメですよヘンなことしちゃ」
「スカーレット君、いや、これでも一生懸命作ったんだが」
「はいはい、これでも食べていてください」
「もぐっ、もぐもぐ」
「スカーレットさん、それは?」
「塩大福です。はい、マックイーンさんも」
「ありがとうございます。こ、これは……」
見た目はただの白大福だ。
甘さは控えめだが、絶妙な塩加減で甘さを最大限引き出している。
さっぱりした後味で何個も行けてしまいそうである。
「スカーレット君の手料理はおいしいねぇ」
「ふふんっ、ミスパーフェクトですから!」
どや顔をするスカーレットだが、胸を張るのが分かるぐらい美味しかった。
しかも糖分控えめ。趣旨をよく踏まえたスイーツだ。
「こういうのは苦手なんだよなぁ…… 一応できましたけど」
続いて持ってきたのはウオッカだった。
クッキーに牛乳を持ってきていた。
「おからクッキーです。結構ぱさぱさするので牛乳もどうぞ」
そういって出されたクッキーは、こちらも素朴な味である。
ただ、しっかりお腹にたまりそうな重量感と、濃厚な牛乳によくあった、これはこれで美味しいスイーツだった。
「この牛乳、おいしいわね」
「スぺ先輩の実家、畜産業しているからそこから送ってもらったらしいぜ」
「へぇ…… 本当においしいわ」
「ほかにもいろいろ送ってもらってたみたいだから、スぺ先輩張り切ってたぜ」
この時マックイーンが台所から漂うカロリーの香りに気づいて逃亡していれば、この後の悲劇は起きなかっただろう。
しかしマックイーンは目の前の豆大福とおからクッキー、そして濃厚牛乳に心奪われていた。
そうして、運命の時が訪れた。
「あ、スぺ先輩とスズカ先輩も出来上がったみたいですよ」
そうして続いて出てきたのはスペシャルウィークとサイレンススズカであった。
濃厚なバターの香り
甘いクリームの香り
それらが鼻腔をくすぐる、とても大きな大きなショートケーキだった。
マックイーンは固まった。
理解できなかった。
ローカロリーなスイーツを作るという企画だったはずだ。
なぜカロリーの爆弾の様なケーキが出てくるのか。
「あ、あの、スぺ先輩。これは……?」
「はい! お母ちゃんが新鮮なクリームとバターを、あとお隣のおっちゃんが作ってる有機小麦粉を送ってくれたんです!」
「そ、そうですの…… いいお母さまですね」
「それで、この材料で一番おいしく食べられるのっていうと、やっぱりショートケーキかなって!」
「そうですの……」
満面の笑みでいうスペシャルウィーク。絶対に会の趣旨を忘れている。
ゴールドシップは早く食べたいといわんばかりに尻尾を振っている。
ゴールドシップの食べ物の好みはマックイーンと似ている。つまり、甘くてふわふわしたイチゴのショートケーキは大好物だ。
ウオッカとダイワスカーレットも目を輝かせている。濃厚なクリームとバターの匂いからして絶対においしそうである。早く食べたそうにしていた。
タキオンは既に席を立ち、スぺに一切れもらっていた。超光速である。
誰も止める人がいなかった。
マックイーンは苦悩した。絶対美味しいショートケーキである。なんせ材料が全部北海道直産である。しかも生産者直送だから鮮度もいいし、おそらく厳選された一番いいのが送られてきている。
メジロ家でもまず食べられないおいしいスイーツだ。
しかしあれを食べたら絶対記録を更新する。乙女的に更新してはいけない記録を更新する。
スピカメンバーだけでなく、寮のほかの皆もケーキに群がる中、断腸の思いで断ろうと席から腰を浮かせた瞬間、マックイーンはスズカと目が合った。
非常に鋭く光るその目が雄弁に語る。
何うちのスペちゃんとスぺちゃんのお母様、つまり将来私の義母になるかもしれない人の好意を無駄にしているんだと。
その殺気にマックイーンは固まってしまい、その隙にゴールドシップがケーキの載ったお皿をマックイーンの目の前に置いた。
一番大きなイチゴが載った大き目の一切れである。
マックイーンの我慢は限界を超えた。
一口食べると濃厚なクリームの甘さとコクが
二口食べると芳醇なバターの香りと小麦の甘さが
口の中に広がり、この世の全ての幸福にマックイーンは包まれた。
スピカ主催試食会は大盛況に終わり、スぺの実家は学園から食材の注文が殺到したため経営が安定したという。
そしてマックイーンのある数値は最高値を更新した。
結局やせられない銘菓メジロまんじう
次回からはスズカの運命の日曜日編になります。
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