黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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サイレンススズカの宝塚記念

スぺは残念ながら初G1に負けてしまったが、その後も調子は良かった。

そしてスズカの方の調子は絶好調であった。

 

時期の関係上スズカの出られるG1レースは多くない。天皇賞春のロングディスタンスは彼女には長すぎたため、最初目標とするG1は安田記念の予定だった。

しかし、スズカは宝塚記念への出走を希望した。

 

「エアグルーヴと、もう一度走りたいので」

 

エアグルーヴが宝塚記念に出るのはほぼ決まっていた。

去年の最優秀ウマ娘だ。トラブルがなければ出てくるのは間違いない。

そして、スズカはもう一度彼女と走りたいと思っていた。

 

宝塚記念の出走権はファン投票で選ばれる。

スズカは最近注目を集めているが、勝利したのはG2止まり、G1に勝利しておらず、選ばれるかどうかには少し不安があった。

実績を積んで、出走を確実にするため彼女は重賞3連戦に挑んだ。

そうして出た結果は圧倒的。

全て一番人気で出走し、すべて圧勝し続けた。

特に三戦目の金鯱賞は、2着に1秒以上差をつける圧勝で、スズカの強さを際立たせた。

 

年末からの4連勝

海外重賞勝利

そして最近の圧倒的な結果により、スズカは宝塚記念に選出された。

 

 

 

宝塚記念

上半期の総決算となるグランプリレース

そのスタート前の地下通路で、スズカは見慣れた影を見つけた。

 

「エアグルーヴ」

「スズカか」

「今日こそ勝つから」

「そうか。愛しの彼女に勝利の女神のはおまじないしてもらったか?」

「エアグルーヴ!?」

 

ダービーの時、スぺがパドック時にスズカにおねだりし、勝利の女神のおまじないを全国放送中のカメラの前で行うという暴挙に至った。

ダービーはスぺがぶっちぎりで勝利し、スズカは生徒会に、というか目の前のエアグルーヴにしこたま怒られた。

 

「まあいい、色ボケしてようと最高潮だろうと、わたしは、女帝は容易い相手ではないぞ」

「もう一度言うわ。今日こそ、あなたに勝つ」

「それでこそサイレンススズカだ」

 

機嫌よさそうに、エアグルーヴは頷くとそのままレース場に向かった。

一度は負けた。それはいい。彼女は偉大な女帝だ。

だが、スズカは負けに慣れたくはなかった。

 

 

 

レースが始まった。

サイレンススズカは快調に逃げていく。

 

(速い…… 想定以上だ)

 

エアグルーヴは中団につけながら先頭を快調に走るスズカを見て思った。

東条トレーナーの想定より明らかに速い。

その想定を聞いたとき、エアグルーヴはオーバーペースだと思ったが、実際のレースのスズカはそれすら上回って飛ばしていた。

オーバーペースか? と一瞬悩む。

オーバーペースならばついていくのはばかばかしい。

最後に体力を使い果たし、直線で差されるのがオチだ。

しかし、エアグルーヴは確信していた。直線でバテるのを期待できないと。

天皇賞秋の時よりもさらにスズカは凄みを増している。あの時ですら最後垂れなかったのに、今回200m伸びただけでへばるのを期待できるはずがなかった。

周りはスズカがオーバーペースと判断し速度を落としていく。

そんな中、エアグルーヴは当初のプランより少し前目で、スズカに離され過ぎないようについていくことにした。

 

宝塚記念は阪神競馬場の内回りコースで行われる。

その直線は350m強とかなり短い。さらに中山競馬場のように最後の坂が急なわけではないので、差すには非常に不利なコースである。

天皇賞秋の時の東京競馬場とは違う。直線に入ってからでは明らかに間に合わない。

既にリードは目算で10バ身以上。第三コーナー中ほどに来ていたスズカを追いかけて、エアグルーヴは第三コーナー入口から早めに仕掛けた。

 

コーナーリングを丁寧に、一息入れるようにゆっくり回っていくスズカの背を追いかける。

ハイペースでのコーナリング。ある程度外にぶれるのは織り込み済みとしても、前目で進めたのだからあまり外にはぶれたくない。

そういったコーナリングをエアグルーヴはここ最近はみっちり練習していた。

練習時よりも最適なコース。遠心力が適度にかかり、それでいて外に大きくぶれないコーナリングを成功させたエアグルーヴはスズカの背を全力で追いかける。

スピードが落ちるどころか、さらに末脚で速度を増すスズカ。

阪神の下り座の直線を駆け抜けつつ、あと少しで並ぶ、そんなところまで詰め寄ったエアグルーヴだったが……

スズカはそこからさらに伸びた。

 

(馬鹿なっ!?)

 

エアグルーヴですら脚はほとんど残っていない。

何よりスズカは直線に入って一度伸びていた。スズカもすでに限界まで来ているという考えが甘かったとエアグルーヴは気づいた。

一歩、二歩、そう速くはないが、確実に一歩ずつ引き離されていく。

 

結局だれも並ばせることもさせず、スズカは逃げ切った。

 

 

 

宝塚記念のウイニングライブを見る東条トレーナーは底知れない不快感を感じていた。

この不快感はいったい何だろうか、と考える。

元メンバーのサイレンススズカが活躍したことか。

それは違うだろう。スズカはリギルとは相性が悪かった。

それに悔しいが、沖野はトレーナーとして天才である。あいつならばあそこまで育てても不思議ではない。

それを比較して一喜一憂するほど自分は若くない。

では、エアグルーヴが自分の計算と違い負けたことか?

それ自体は確かに悔しいが、スズカが予想以上に強かったというだけだ。

エアグルーヴへの申し訳なさや自分の不甲斐なさは感じるが、それでここまで不快に感じるほど自分は若くはない。

しかし予想以上、というのが近い気がした。

スズカのデータは元チームメンバーだったのもありかなり充実している。

それでここまではずれる、というのが非常に予想外であった。

ライブも終わりを迎えた。

東条トレーナーは沖野トレーナーに電話をした。




キングヘイローはダービーでも2着でした。

テイオー編の内容について どういうテイオーが見たいですか

  • 絶対的な強さを持つ帝王なテイオー
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