黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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運命の時まであと3歩

リギルとスピカの交流は実はかなり多い。

所属メンバー同士の交流は少ないが、トレーナー同士の話し合いはしょっちゅう行われている。

また、タキオン研究所で開発されている各種トレーニング器具のモニターをリギルがしているのでそういう意味でもかかわりは多かった。

だからこうやって、スピカのトレーナーとサブトレーナーに一応なっているゴールドシップ、そしてタキオンの三人と東条トレーナーが話す、というのも実は珍しくなかった。

 

スぺ牧場特製カロリー爆発パウンドケーキと、タキオンが淹れたスカーレットティーが用意され、いつものようにお茶会のような雰囲気で話し合いが始まった。

 

「で、なに? おハナさん。宝塚の恨み言は聞かないよ?」

「いうわけないでしょ。スズカ、次毎日王冠でるんでしょ。うちからエルとグラスが出るから、叩き潰して意趣返ししてあげるから」

「おハナさん、その情報どこから?」

「スズカが嬉しそうに教えてくれたわ」

「……」

 

スピカに来た頃は皆を拒絶するような雰囲気を持っていたスズカだったが、ここ最近はふわふわである。

もうちょっと自分のスケジュールは黙っていてほしいな、と遠くを見た沖野だった。

 

「で、本当に何の用?」

「あなたよりタキオンの意見を聞きたいんだけど」

「わたしかい?」

「なんだよ、仲間外れか?」

「天才肌で直感で理解するあんたじゃ多分他人に説明できないでしょ。タキオン、これ見てくれない?」

「スズカ君のデータだね。良く調べてある」

 

そういって東条がタキオンに自分の端末を見せたことに、沖野は驚き、また嫌な予感がした。

あの端末は彼女のトレーナーとしての全てといってもいい。

あらゆるデータを集積し、分析したものがあそこに保存されている。

だから他人には、それこそリギルのチームメンバーにすら絶対に見せない代物だった。当然沖野も見たことが無い。

それを一部とはいえタキオンに見せていることに、いやな予感がしたのだ。

 

「もちろん精度が悪い部分はあるんだけど、私の予測だとこれくらいになるはずなのよ」

「確かに、かなりいい分析だと思うよ。ちょっと待ってくれ、スズカ君の最新の情報をそっちに送る。悪用はしないでくれよ」

「おいタキオン、ライバルに情報渡すのどうなんだよ」

「トレーナー君、文句はあとで聞く」

 

タキオンもデータを見て何かに気づいたらしい。

沖野からの抗議を封殺し、タキオン自身の端末を操作している。

 

「素晴らしい分析だね、東条トレーナー。最新情報とほとんど誤差がないよ。私のトレーナーにならないかい?」

「お断りね。あなたみたいなじゃじゃウマはスピカがお似合いよ」

「んー、残念」

 

そんな軽口をたたく二人だが、表情は真剣である。

タキオンはすでに何かに気づいているらしい。

 

「まあいい、なるほど確かに、東条トレーナーが血相を変えてきたのが分かるよ」

「どういうことだ?」

「スズカ君が速すぎるんだ」

「速すぎる?」

 

速すぎる、というのがいまいちよくわからない。速さを求めるのがウマ娘達の性である。

それが過ぎるとはどういうことか。

 

「想定値より最大速度が10%ほど速い。単純計算でも予想値より約1.2倍の負荷がかかるっていう事さ」

「……ちなみにその想定値、っていうのはどうやって出してるんだ?」

「目の付け所がいいね、ゴールドシップ君。私が言った想定値は筋力や体重などから統計的に計算される数値で、平均より3標準偏差離れたところの数字だ」

「99.9%はその想定値以下に含まれるっていう事か」

 

ゴールドシップも理解した。

現状は何も問題はない。しかし将来起きると予想されることと、知っていることが結びつつあった。

 

「東条トレーナーがどう計算してるかわからないけど、似たような数値だからそんな計算なんじゃないかな」

「すまん、統計とか数字は苦手なんだ、結論を頼む」

「まったくトレーナー君は…… 単純に、スズカ君の体格で最大限想定される速度より出過ぎているんだ。競走バとしては素晴らしいけど、体への負荷は大きいってことさ」

「それ、大丈夫なのかよ?」

「今のところは大丈夫だね。宝塚記念後の健康診断でも異常は一切ない。だけど、気を付けていた方がいいね」

「なるほど……」

「東条トレーナー、助かったよ。ありがとう。お礼は何がいい?」

「そちらのトレーナーに貸しとして付けておくわ」

「そのうち借りが多すぎて返せなくなりそうなんだが……」

「そしたら体で返してもらうから」

「勘弁してくれよ」

 

そのまま東条トレーナーはお土産にスぺ牧場特製カロリー爆発パウンドケーキを3本受け取り帰っていった。

 

 

 

「で、スズカの調子はどうなんだ?」

「かなり気を付けた方がいいと思うね。体の限界をスピードが超えつつあるっていう事だからね」

「遅く走れ、とは言えないものなぁ」

「まあ、現状は健康上何も問題ないよ。わたしもマメに検査するよ。ゴールドシップ君も頼むよ」

「ああ、スぺにも言っておく」

 

 




条件はすべて出そろった。
あとはパンドラの箱を開けるのみ
中にあるのは果たして、希望か絶望か

テイオー編の内容について どういうテイオーが見たいですか

  • 絶対的な強さを持つ帝王なテイオー
  • ナメクジテイオーをみんなで頑張らせて三冠
  • アプリっぽい無敗の貴公子テイオー
  • アニメっぽい不屈の帝王なテイオー

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