黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
白銀のお姉さまとポニーちゃんの交流は、基本的に毎週金曜日に行われていた。
レースは基本日曜日にある。そしてスぺかスズカのレースがある場合、土曜日はスズカは夜には抜け出せない。
必然的に会うのはなんとなく金曜日の夜になっていた。
明後日はスズカの天皇賞秋である。
そんな日の夜。
サイレンススズカは寮の屋上のマットの上で、ゴロゴロと転がっていた。
どこから持ってきたのかわからない、かなり広いマットである。
畳10畳はありそうなその上で、気の抜けた表情でスズカがごろごろ転がっている。
うまぴょい伝説の時の「でもやせたい」の表情である。
そんな感じでゴロゴロゴロゴロしていた。
別にスズカがかわいいからさせている、というわけではない。
いや、とてもかわいいし、無茶苦茶光りながら撮影しているが、それは目的ではない。
転倒時の受け身訓練である。
ゴールドシップの居た時代と、現代とでは年代としてかなりの差があり、その間に発明されたものはいろいろあった。
その中の一つに、レース転倒時の受け身というものがあった。
最高時速70kmで走るウマ娘達が転倒すれば大惨事になることは多い。
そのために勝負服やコースの改良がかなりされていたが、一番重要なのは転倒した本人のその場の対応である、というのが未来での考えだった。
その一環として、受け身の習得はゲート試験と同じく必修とされていた。ゴールドシップはこの習得にかなり苦労したものだ。
動作自体はとっさにするもので難しくないのだが、なんせむかつくやつがいると蹴り飛ばしたくなってしまう。
特にトーセンジョーダンが気の抜けた顔で転がっていると思わずそっちに転がっていって蹴とばしてしまい、そのせいで3回も再試験になった。
補習と再試験の繰り返しでマスターレベルまでゴロゴロ受け身を極めたゴールドシップはそれをスズカに教えていた。
受け身の基本は力を抜いて、コースと平行に転がる、というだけである。
コースは基本凹凸もゴミもなく、また芝が敷かれていて柔らかい。
そのコースを横になって転がれば、首や胴体などの重要部分を守ることができる。
それで命を守る、というのがこの受け身の神髄だった。
ただ、力を抜くという関係上、どうしても表情がうまぴょい伝説の「でもやせたい」のときの表情になってしまう。
これはスズカだけでなくてウマ娘の一般的な反応だった。
「ヤセタイ反応」と未来ではタキオン博士が命名したものである。なぜこうなるかは未来でもわかっていなかった。
スズカの調子は絶好調である。
おとといの追切も万全で、素晴らしいタイムをたたき出していた。
昨日はタキオンやメジロ家の主治医にお願いしてスズカの脚の検査をしてもらったが、異常は全くなかった。
タキオンの計算上、現状で何も故障が無い以上いくら速く走ったとしても大きなけがはしないだろうという事だった。
だが、ゴールドシップの嫌な予感は消えなかった。
単に未来のことを知っているから嫌な予感がするのかもしれない。
だが、できるだけのことはしておきたかった。
泥縄的な対応が、この受け身の練習だった。
この受け身は一度体に身につけておけばそう難しいことではない。
右側に倒れてそのままゴロゴロ……
左側に倒れてそのままゴロゴロ……
平和な時間が流れる。ゴロゴロするたびにうまぴょい伝説の「でもやせたい」のときの表情をするスズカはとてもかわいかった。
「でも、お姉さまがこんな練習を提案するなんて珍しいですね」
うまぴょい伝説の「でもやせたい」のときの表情をしながら転がるスズカが話を始める。
「そうですね。少し、いやな予感がしまして」
普段は膝枕しながらお話をして、レースの悩みを聞いたりコースのポイントを聞いたりするだけである。
あとは軽くぺたぺた走ったり、それくらいのことしかしない。
こうやって何かしら行うのはおそらく初めてだろう。
「でも、やって損はないと思いますので、頑張ります」
そんなけなげなことを言うスズカだが、表情はうまぴょい伝説の「でもやせたい」のときの表情である。
そのギャップが可愛らしくて、笑ってしまうゴールドシップであった。
運命の時は近づいていた。
( ̄▽ ̄)
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