黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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サイレンススズカの天皇賞秋

サイレンススズカの秋冬期の参加予定レースのG1初戦は天皇賞秋だった。

去年、エアグルーヴと競い合い、僅差の2着だったこのレースに、スズカは堂々参戦した。

だが、この年の天皇賞秋は若干盛り上がりを欠いていた。

有力バがスズカ以外出ていなかったからだ。

 

むしろこの次にスズカが出走する予定のジャパンカップにこそ期待が集まっていた。

エアグルーヴ、エルコンドルパサー、そしてスペシャルウィーク。

シニアクラシック入り混じった有力バに、外国バまで参戦する、期待の高い一戦になっていた。

 

とはいえ去年天皇賞秋を惜敗したスズカは一切手を抜くつもりはなかった。

確実に勝ち切って次に行く。

そして、ジャパンカップでスぺちゃんと競う。

それが今の彼女の夢だった。

 

 

 

見学に来ている者は多い。

東京競馬場という立地故、トレセン学園からアクセスが容易である。

スピカのメンバーが応援に来ているのはもちろん、リギルのメンバーも見学に来ていた。

もちろん他のウマ娘も、一般観客も大勢集まっていた。

 

レースは順調すぎるほど順調に準備が整い、スタートした。

 

 

 

サイレンススズカは今日も快調に飛ばして、すぐに先頭についた。

スタートダッシュとコース取りの巧みさも超一流の彼女は、いつものように誰も邪魔されず、先頭の景色を楽しめる位置についた。

そのままいつも以上の速度で駆けていくスズカ。

最初の3ハロンのタイムは34秒6。

前回の毎日王冠の時と同じ速度で、出だしは入った。

圧倒的な速さで逃げるスズカを捕まえることは誰もできない。

そうしてその速度を維持したままスズカは1000mを通過した。

57秒4。

前走、前々走のタイムを上回る速さである。

後続との差がどんどん広がっていく。

既に実況はバ身、ではなく秒でその差を測っていた。

このまま直線に行けば、たとえ失速したとしても確実に後ろは追いつけないほどのセーフティーリードである。

 

(きもちいい……)

スズカは先頭を走り続ける。

何度か走ったことのある東京競バ場だがいつもと違う風景が見えている気がした。

とてもきれいで、とても静かで……

そんな中をスズカは駆けていく。

疲れが全くないわけではないが、脚はまだ動くどころか走りたがっている。

体中が走るためのものになったかのような気持ちになりながら、彼女は走っていた。

この先に続くのが何なのか。

スズカはさらに脚に力を入れる。

第四コーナーに入るところで、スパートをかけるべく最大限、左脚を踏み込んだ。

 

メキッ

ひどく嫌な音がした

 

 

 

 

 

左足首に激痛が走り、足首の先の感覚がなくなる。

スズカは、自分がケガをしたことは一瞬でわかった。

今まで経験したことの無いような激痛に、意識を失いそうになる。

それを必死にこらえながら、朦朧とした意識の中、一昨日お姉さまに習った対応法を、必死に一つずつ行っていく。

まずは現在の勢いのまま、脚を進め続ける。

感覚がなくなり、左脚の先に激痛が走るがモモや膝はまだ動いた。

 

一歩、二歩、三歩。

最高速度で走っていたため、とても減速できそうにはない。

止まるまで意識を保つことも、脚を動かすことも難しいのは本能で理解した。

そのままスズカは、おとといの夜、長々と練習をした受け身を取り、地面を転がり始めたのだった。

 

 

 

サイレンススズカが故障した地点は、ちょうど観客席からは大けやきのせいで見えない位置であった。

だが、その故障にすぐに気づいたものもいた。

耳の良いウマ娘達は、その異様な音に気付いたのだ。

 

「トレーナー! 救急車!」

 

エアグルーヴが悲痛な声で叫ぶ。

何が起きているかわからない東条トレーナーは、しかしその声に反応しすぐに競走運営本部に連絡を入れる。

 

「スズカさん!!」

 

最前列で観戦中だったスペシャルウィークもまた、異変にすぐ気づいた一人だ。

次の瞬間、柵を飛び越え、コースに飛び出て走り始める。

大外の、レースに邪魔にならない位置とはいえ、れっきとしたレース妨害行為である。

ウマ娘ならば本能的に拒否感が出るそれをしかし一切戸惑うこともなく行ったスペシャルウィークは走り続けた。

 

走る

限界すら超えてスペシャルウィークは走る。

レースとは違う、ペース配分すら一切無視した全力全霊である。

誰も見たことのない速さで走り抜けたスペシャルウィークは、そのまま転がるサイレンススズカを左手で抱きしめ、庇う。

スペシャルウィークはそのまま勢いを、空いた右手を地面に突き立てて必死に殺そうとする。

しかしサイレンススズカの全力の速度を殺しきれずに背中から外ラチにぶつかった。

 

「スぺ! 左脚を地面につけるな!!」

 

スペシャルウィークを追いかけて走る沖野トレーナーが叫び、スペシャルウィークは条件反射のようにスズカの左ももを持ち上げ、地面につかないようにする。

 

 

 

救急車のサイレンが鳴り響く。

観客席からは悲鳴のようなざわめきが上がる。

サイレンススズカとスペシャルウィークが救急車へと運ばれていくのを、ゴールドシップは茫然と見ることしかできなかった。




アニメでは菊花賞>天皇賞秋でしたが、史実準拠で天皇賞秋が先です。

ルート分岐
ルートA 栄光の日曜日
スズカと他の登場人物との好感度が一定値以下だと発生。
限界を超えない走りで無難に天皇賞秋を勝利するアプリルート

ルートB 静かなる月曜日
スペシャルウィークとの好感度が一定以上
且 東条トレーナーとの好感度が一定以上で発生。
スズカが限界を超えた走りをしてしまうが、どうにか命だけは助かるアニメルート
それぞれの好感度によって微妙にイベント内容が異なる。

ルートC 沈黙の日曜日
上記のどちらの条件も満たせなかった場合に発生
史実ルート
上の条件を見ると一見発生しにくそうに見えるが、Aルートは隔離するレベルでトレーニングしないとルームメートのスぺの好感度が必要値を上回ってしまい、Bルートはスぺの好感度がかなり必要で実質スピカ加入ルートでしか発生しない。そのため大体の場合はこのルートに突入する。

みたいなゲームっぽい設定文を考えました。
今回はBルートです

適当にウマ娘についてしゃべるディスコードサーバー
https://discord.gg/92whXVTDUF
雑談したくて作りました。
気になった方はお気軽にどうぞ

テイオー編の内容について どういうテイオーが見たいですか

  • 絶対的な強さを持つ帝王なテイオー
  • ナメクジテイオーをみんなで頑張らせて三冠
  • アプリっぽい無敗の貴公子テイオー
  • アニメっぽい不屈の帝王なテイオー

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