黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「皆さん、行きますよ!」
「はい!」
「スイーツ!」
「スイーツ!」
「スイーツ!」
「スイーツ!」
奇妙な掛け声をしながら走るウマ娘の集団が砂浜を行く。
ゴールドシップが先頭をマックイーンが最後尾を走りながら、ウマ娘の集団は走っていった。
高知トレセン学園が、中央からメジロ家を呼んだ目的は二つあった。
一つは全体的なレベルアップである。
地方と中央の差は抜き差し難いところまで来ている。
だが、ハルウララが中央に転入できたことをきっかけに、何らかのコネが作れないかと試行錯誤がされていたのだ。
高知トレセン学園の理事長が伝を使い、メジロ家とハルウララを呼んだのはそんなところがきっかけだった。
トレーニング指導するのはマックイーンとゴールドシップである。
特にゴールドシップは今を時めくスピカのサブトレーナーだ。
トレーニング技術に優れた彼女の指導の下、トレーニング方法の急激な変更が行われていた。
マックイーンはゴールドシップの補助という名の尻タタキである。
いまいち調子の上がらないゴールドシップにメジロ殺法100手で気合を入れる、そんな役割だった。
高知トレセン学園のウマ娘達に、最も恐れられているのがマックイーンであった。
もう一つは、学園のレースの人気上昇である。
現状学園のレースの見学者は1開催で100を超えないときも少なくなかった。
これでは単なる保護者参観でしかない。
下手すると保護者すら来ない。
そんな人気低迷っぷりだった。
もちろんレベルも設備も周辺人口も何もかも中央とは違うのはわかっている。1度で数万も集めるつもりは誰もない。
だが、せめてコンスタントに数百人。黒潮ダービーなどのメインイベントなら1000人以上の観客が欲しいと考えているようだった。
そんな要望の中、メジロのおばあちゃんが着手したのは組織改編からであった。
現状の高知トレセン学園の教官たちは、薄給でも奮起し理想で頑張る者と、ここにしか来れないからここにいるどうしようもない者しかいなかった。
使えなさそうな数人を栄転と称して中央のタキオン研究所所属に引き抜くとともに、タキオン研究所やメジロ家から新人トレーナーを数人まわしてもらうことにした。
通常新人トレーナーは数年間どこかのトレーナーの下働きをする場合が多いが、高知に来ればすぐに数十人という大型チームと同じだけの人数を管理するトレーナーになれるということで、経験を積む目的も兼ねて転属してくる者は多かった。
最低限の下地を確保出来たら、次はトレーニング方法の改定だった。
といっても大して特別なことをしていない。
高知トレセン学園は、高知の名所桂浜の近くにある。
つまり海と砂浜が近いのだ。
これを利用しない手はなかった。
トレセン学園近くの砂浜から、桂浜まで毎日ランニングをし、その上で桂浜でライブの練習をし始めた。
これはいくつもの効果を狙ったものであった。
まずはトレーニング効果。
砂浜は正確な走りをしないと力が逃げてしまうため、走り方の矯正には非常に良い。
中央のトレセン学園でも毎年夏、わざわざ砂浜のある海岸で長期合宿を行うぐらいトレーニング効果に優れていた。
それが毎日無料で使えるのだから使わない理由はなかった。
また、波打ち際を走ればクールダウンにも使える。外海で波が荒く泳ぐには難しかったが、それでもかなり有望な天然のトレーニング施設だった。
トレーニング場所にゴミがあると怪我の原因となるため、トレーニング前には徹底的なごみ拾いが行われる。
生徒たちがそれを毎日するのだから必然的に周囲の評判は良くなる。
生徒たちにとってはただの日課でしかない行為がアピールにつながるのだから利用しない手はなかった。
他にも朝夕砂浜を走るウマ娘の姿は、単純に美しく絵になる光景である。
それがいち段落して、やっと一息吐けた感じだった。
他にもライブ練習をすれば、必然的にそれを見る人たちも増える。
高知の地で、こういうことが行われているという周知にもつながった。
「こういうのは、凝ったことより単純な方がいいのですよ」
計画をしたおばあさまはマックイーンにそう言ったという。
「でりゃあああああああ!!!」
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
と砂柱が砂浜に上がる。
ゴールドシップが全速力で走っているのだ。
それを見ているウマ娘も、周辺の住民も、観光客も感嘆の声を上げる。
走る姿を参考にするために見せる、という建前でゴールドシップは走っていた。
圧倒的な速度とパワーである。豪快且乱暴に見えて、実は理にかなった美しいフォームで地面に最大限力を伝えているのだ。
わかるものにはわかるし、わからないものだって美しいそれに皆が見惚れていた。
「やっと、少し調子が戻ってきましたわね」
高知に来てからも、ゴールドシップを振り回し続けた。
トレーニング指導も、お偉いさんへの挨拶も、何ならマスコミからのインタビューも全部ゴールドシップに丸投げした。
普段だったら嫌がって逃げそうなものだが、やっぱり調子が悪いのだろう。どれも完ぺきにこなしていた。
一通りトレーニングが終われば、今度は地元の人が作ってくれた砂浜近くの特設会場で、みんなでライブ練習である。
きっとこれも完全にこなすのだろう。
絶不調なほどきちんとこなすゴールドシップ。
人によっては、というかほとんどの人が、今の状態のままの方がいいのではないか、と思うだろう。
だが、マックイーンはやっぱり、大暴れするゴールドシップが元気で好きだった。
「さて、もうちょっと仕事を押し付けますか」
おばあ様から、できるだけゴールドシップを前面に出して仕事をさせるように言われている。そのせいでゴールドシップの知名度は爆上がりである。
これでいつもの調子に戻ったら皆驚くのだろうか。
それはそれで楽しそうだな、と思ったマックイーンだった。
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