黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「嘘をつきましたね!」
「はい、あーん」
「もぐもぐ…… だから嘘つきましたね!」
「嘘ついてねーよ。はい、あーん」
「もぐもぐ…… スイーツがないではないですか!」
立ち上がろうとするマックイーンの口に、果物をあーんする愉快な作業を続けるゴールドシップ。
拒否せずに食いついてくるマックイーンがちょろすぎて少し心配になる。
学食で出る甘いものは果物かヨーグルトにかかったフルーツソースぐらいしか基本的に存在しない。
当たり前である。
甘い物好きで食欲旺盛なウマ娘達にケーキなんか食べ放題で出したら、一瞬にして食べつくされて、体重計とトレーナーの悲鳴が学園中に響くだろう。
なのでそういった類のものは特別な時だけ、しかも一人一個といった個数限定でしか配られない。
果物類ですら、基本量が制限されているのだ。
「そんなにスイーツ食いたきゃ、外で食えばいいじゃねーか、はい、あーん」
「もぐもぐ…… 買って食べると、カードの使用履歴からおばあさまにばれるんです……」
「カード……」
どんなお嬢様だよ、と思ったがよく考えたらとってもお嬢様であった。
未来でもメジロ家最盛期といわれた時期だ。お金はいっぱいあるのだろう。
焼きそばとかお好み焼きを売るのから始まり、溶接の免許まで取ってバイトしていた苦学生ゴルシちゃんとの待遇の違いに驚きながらも、あーんをつづける。
それはそうとして、あーんと果物を食べるマックイーンもまた非常にかわいい。
そしてその口元にちょっとエロスを感じる。
なんだうちのばあちゃん、魔性の女か。
黙ってれば美人といわれたゴルシちゃんと何が違うのか。
育ちか。育ちだろうな…… 顔は基本一緒だし。
ゴールドシップは一人納得した。
「そういえば、あなた、名前なんて言いますの? 学年は? 先輩ですの?」
「ゴルシちゃんはゴールドシップだZE! 職業は未来からみんなを幸せにするために来た未来人なんだZE! 未来人だから学年なんてかんけーねー!」
「……」
実際学年とかどうなってるんだろうか。
制服のまま来たしウマ娘だから学園生だという事は疑われないで済んでいるが、よく考えたら戸籍すら存在しなさそうである。
食事は学食で三食食べられるが、もしかしてこれ、家なき子ではないだろうか。
財布は持っているが、そんなにお金が入っていない。
というか、未来のお金、使えるのだろうか。確かこのころの万札って福沢諭吉だろ? 渋沢栄一じゃないんだろ?
財布の中の万札完全おもちゃじゃねーか!
世界の未来よりも自分の未来が不安になるゴールドシップである。
まあもしも部屋が無ければマックイーンの部屋に居座ろうと心に誓う。
「未来から来たなら、わたくしが天皇賞に勝てるかどうか、知っているんですよね?」
「もちろん知ってるZE! マックイーンは天皇賞春連覇するんだZE! まあ、宝塚記念三連覇したゴルシちゃんには及ばないがな!」
どや顔しながら語るゴールドシップ。
ゴールドシップが知っている未来とこれからが同じになるかはわからない。
いや、同じにならないようにゴールドシップがするのだから、同じにはならないだろう。
でも、マックイーンには天皇賞を連覇してほしかった。
ついでにマックイーンに褒めてもらいたくてゴールドシップは思わず戦績を盛った。本当は三回目の宝塚記念は思いっきりイレ込んで大敗北している。
「すごいですわねー、ゴールドシップさん……」
「ごめんなさい二連覇です。思いっきり盛りました」
この時点で宝塚記念二連覇以上したウマ娘がいないことは、マックイーンも知っているだろう。
ゴールドシップが二連覇した時に初といわれていたのだから、このころにそんな記録がなくて当たり前である。
ゴールドシップが言ったことは出まかせだ、と思ってもいいはずだが、普通に感心されてしまった。
キラキラした目で見られてゴールドシップの心は折れた。盛った自分が恥ずかしくなって思わず心の中で土下座した。
「……ところでマックイーン」
「なんですの?」
「入学式、いいのか?」
「……え?」
「もうすぐ始まると思うぞ?」
「……え?」
壁の時計が9時を指している。
入学式は9時からである。
つまりもう始まる時間だ。
「なんでそれをいわないのですのー!!」
「いやー、マックイーンといるのが楽しくて」
「初日から遅刻ですのー!!!」
二人して跳びあがるように立ち上がると、一目散に駆けだした。
学食から入学式の会場である講堂までの距離は約1200m。東京ドーム17個分の広さを持つ学園をまたぐ形なので結構距離があるのだ。
学園第一レース 廊下 1200m 入学式特別OPが始まった。
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