黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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切るタイミングが分からなくて二話連続投稿


すれ違う二人

スズカは自分の不甲斐なさに涙していた。

 

スぺが無理に菊花賞を出るといったときに止められなかった自分

スぺが「秋のG1を3回勝つから、スズカさんの脚が治らないなんてことはない」と言ったときに止められなかった自分

そして負けるたびに悲痛な涙を流すスぺに寄り添えない自分。

 

生まれて初めて、スズカはいなくなりたいと思った。

 

 

 

スズカはスぺを愛している。

その気持ちに気づいたのは、あの香港での夜であった。

勝利の女神のおまじない。

そんなことをふざけて提案し、スぺが恥ずかしがりながら頬にしてくれたその時であった。

 

スズカはあの時ほど自分に驚いたことはなかった。

愛というものの存在は知っていた。

だが、自分がだれかを愛することが想像できなかった。

一人綺麗な風景を見るために走り続けるのだろうと信じていた。

だから、誰かがこんな好きになるなんてことはないだろうと思っていたのだ。

 

だがそれはとても心地よいことだった。

二人で遊び、二人で競い、二人で鍛える。

一人では見えなかった景色がたくさん見られた。

世界がどんどん広がった。

そうして二人で走っていけば、その先にもっと素晴らしい未来があると信じていた。

そう、あの時までは。

 

 

 

自らの左足を見る。

重く、動かない左足。

その怪我の意味を自分が一番わかっていた。

タキオンやメジロ家のお医者様が必死に治そうとしてくれているのはわかった。

手術も成功し、骨はきれいに元に戻ったと教えてもらっている。

だが、動かせる気がしなかった。歩くぐらいはできるように思うが、走るなんて到底難しいだろう。

走れないことは悲しいが怖くはなかった。

だが、スぺの横で走れないことが、二人で走れないことが何より怖かった。

 

菊花賞3着 ジャパンカップ3着 有馬記念2着

この実績自体は素晴らしいものである。

だが、相当無理をしていたのは、スぺをずっと見ていたスズカにはわかった。

末脚が十分に伸びない。体のダメージと疲労が抜けていないのだ。

怪我は体と手だから走るのに支障がない、とスぺは言っていたがそんなことはない。

痛みは集中を削ぐし、何より走るというのは全身運動だ。

手の怪我も体の怪我も、影響するのは明らかである。

 

おそらく、1レースに絞れば、スぺは勝てただろう。

しかし、無理して3レース出てしまった。

それすら止められない自分に、スズカは不甲斐なさを感じ涙した。

 

 

 

有馬記念の後、スぺはスズカの病室を訪れた。

泣きながら土下座するように謝るスぺに、スズカは心を決めた。

自分はもう、彼女と一緒に走れない。

自分はもう、彼女の隣に居られない。

自分はもう…… 彼女を愛する資格もない。

 

自分が彼女の重荷になっていること気づいてしまった。

優しい彼女は自分を捨てることはできない。

自分を見放すことはできない。

ただの重しでしかない自分を背負い続けるのだろう。

だから、スズカは逃げることにした。

そう、逃げである。スズカはスぺに向かい合うのが怖かった。

 

「私たち、もう会わない方がいいわ」

「……え?」

「もう、病室にも来ないで」

「な、なんで!?」

「話すことは、ないわ……」

「スズカさん!?」

「出ていって……」

「……」

 

しばらく呆然と立ち尽くしたスぺは、のろのろと病室から出ていった。

スズカは静かに泣き続けた。




彼女らもまだ年若い少女でしかない。
時には迷い、間違う。

テイオー編の内容について どういうテイオーが見たいですか

  • 絶対的な強さを持つ帝王なテイオー
  • ナメクジテイオーをみんなで頑張らせて三冠
  • アプリっぽい無敗の貴公子テイオー
  • アニメっぽい不屈の帝王なテイオー

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