黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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そして少女は再び歩き出す

「どうして……」

 

コースから帰る地下道。

スペシャルウィークを待っていた3人に、彼女は弱弱しくこう言った。

 

 

 

既にスぺからあの禍々しいともいえるような雰囲気はなくなっていた。

迷子になった子供のような、そんな弱弱しい雰囲気しかうかがえなかった。

 

「どうして邪魔するんですか!! 弱い私は要らないのに! 無様な私は要らないのに!! 負ける私は要らないのに! 強くないとスズカさんと会えないのに! どうして!!」

 

その大きな瞳からはとめどなく涙があふれている。

限界を迎えた彼女の叫びだった。

 

 

 

「無様ですわ。スぺちゃん」

「!」

「最下位だったわたくしより、ずっと無様な2着ですのね、スぺちゃん」

「キングちゃん……」

「わたくしは、あなたたちと勝負して、ずっと2着でした。勝てたことはありませんでした」

「……キングちゃん?」

「でも私は一流のウマ娘。それで自分のことを弱いと思ったことも、無様だと思ったこともありません!」

「!」

「負けることは悔しくても恥ずかしいことではない! そう教えてくれたのはあなたじゃないですか!! それでも価値があると教えてくれたのはあなたじゃないですか!! どうして自分を貶めるんですか!! どうしてそんなこと言うんですか!」

「キングちゃん……」

 

キングが泣きながら叫ぶ。その声は確かにスぺに届いていた。

 

「私は、本当に何もかもどうでもよかった」

「セイちゃん……」

「スぺちゃんが学園に来て、遊んでくれるようになるまで、私は一人ぼーっと生きてきた。それでいいと思ってた」

「……」

「スぺちゃんが教えてくれたんだよ。みんなと走る楽しさを。みんなと遊ぶ楽しさを。みんなと競う楽しさを。みんな忘れちゃったの……? 楽しく、なかったの……?」

 

涙が頬を伝うセイのつぶやきも、また、確かにスぺに届いていた。

 

「スぺちゃん」

「グラスちゃん……」

「私、スぺちゃんのこと好きなの」

「グラスちゃん……?」

「もういいでしょう? スぺちゃんのことを捨てた冷たいスズカさんのことなんか忘れましょう? またみんなで走りましょう?」

「……」

 

唇と唇が触れる。

冷たく、そして涙の味がする口づけ。

スぺは気づく。グラスの瞳の奥の悲しみに。

ゆっくりと二人の距離が離れる。

 

「グラスちゃん、ありがとう、あと、ごめん」

「ふふ、やっといつものスぺちゃんになりましたね。はい、これ」

「?」

「新幹線のチケットです。今から飛び乗れば、夜までに東京に、スズカさんのところにつけるでしょう」

「! ……でもライブが……」

「スぺちゃんは怪我によりライブが難しいって伝えてきますわ。大丈夫、いざとなったらわたくしが代役を務めてさしあげますから」

「キングちゃんはいつも2位だからサイドでのライブ得意だもんねぇ」

「ふん、次こそはセンターで踊るから問題ないですわ。ほら、愛しのスズカさんのところに早く行きなさい」

「…… みんな、ありがとう」

 

スぺは走り出した。

その足取りは震えていたが、迷いはなくなっていた。

 

 

 

「……行きましたわね」

「……でもさ、良かったの? グラスちゃん」

「なにがですか?」

「グラスちゃん、スぺちゃんのこと好きだったでしょ? あのまま丸め込めばよかったんじゃない?」

「セイちゃん、本当に空気読みませんのね……」

「いいんです。私の初恋は、もう終わっていましたから。あれは、単なる残滓です」

「……わたくし、運営本部にスぺちゃんのライブ欠席を伝えに行きますわ。セイちゃん、後は頼みますわ」

「キングちゃん、ずるいなぁ…… グラスちゃん」

「なんですか」

「私でよければ、胸を貸すよ」

「……」

 

残された二人。

すすり泣く声が静かに廊下に響き続けていた。




あの子も、恋も、全部彼女のものかもしれない。
でも、失恋の痛みだけは、この痛みだけは私だけのもの

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