黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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ようやく交わった終着点

「こんばんは、ポニーちゃん」

「あ、お姉さま……」

 

東京に戻ってその日の夜。ゴールドシップはスズカの病院に忍び込んだ。

面会時間はとうに過ぎており、さすがにこの時間に会いに行ったら怯えられるか、と思ったが、そんなことは全くなく、フラットな感じでスズカは迎えた。

さすがにちょっと警戒心がなさすぎるんじゃないかと心配になった。

 

「最近忙しくて会えなくてごめんね。調子はどう?」

「……おねえさまぁ……」

「ほらほら、泣かないの」

 

急に号泣を始めたスズカを抱きしめ、そのまま膝枕をするゴールドシップ。

泣いている原因は大体わかっていた。

 

ゴールドシップとマックイーンが東京を離れ、高知へ行ったのがちょうどスぺの菊花賞の頃だった。

それから今日行われた宝塚記念まで、正直高知の仕事で手いっぱいだったのだ。

なんせ人員が少なすぎた。手が足りない分動ける者が動かざるを得ず、ゴールドシップもマックイーンも働きづめであった。

そのせいで中央で何が起きていたか、まったくノーチェックだったのだ。

大したことは起きていないだろうという予想をしていたのも悪かった。

 

東京に戻ってくる間、そういえば中央の状況はどうなっているだろうかと確認したら、スぺが覚醒して、大暴れしていた。

スぺは確かに優秀なウマ娘だが、こういう身を削るような走り方をする娘ではなかったはずだ。

原因はなんとなく予想ができた。

スぺがそんなになるのなんて、目の前のスズカが原因以外考えられなかった。

とはいえ普通にG1を6戦して1着2回、2着2回、3着2回でライブを外してないんだからかなり優秀な成績である。

今度会ったらいっぱい褒めてやろうと誓いながら、スズカの頭を撫でていた。

 

「あのね、スぺちゃんがね、すごくむりするの……」

「なるほど」

「スズカ寂しくてね、一緒にいてほしかったのに、全然来てくれないし」

「ふんふん」

「それでスペちゃん負けると悔しくて泣いちゃうのに、スズカを頼ってくれないし…… お姉さまも来てくれないし……」

「ごめんね、忙しくて」

 

スズカの頭をなでなでと撫でる。

寂しさ大爆発して若干幼児退行していた。

 

「スぺちゃんにね、無理してほしくなかったの」

「それで?」

「スズカが原因で無理するなら、もう会わなきゃいい、って思ったの」

「ふむふむ」

「だからもう会わないって言ったの。なのに余計無理してるの。スぺちゃんのばか、ばかばか、あんぽんたーん!」

「それ、スぺちゃんに言ったのかしら?」

「言ってない……」

「ポニーちゃんもちゃんと言わなきゃだめだよ。ねえ、あんぽんたんなスぺちゃん」

「!?」

 

膝枕の体勢だったスズカががばっと起き上がる。

扉の前にはよれよれになったスぺがいた。

 

 

 

「スズカさん、その人はだれですか?」

「え、えっと……」

「説明してください。スぺは今、冷静さを欠こうとしています」

「あ、あの……」

「スぺちゃん、落ち着いて。私はただのポニーちゃんのお姉さまよ。恋人なあなたとの敵ではないわ」

「……」

「はいはい、席を譲りますから」

 

手を上げながらゴールドシップがその場から離れ、病室の隅に移動しようとするが、そのゴールドシップをはね飛ばし、スぺはスズカに駆け寄り、抱き着いた。

 

「スズカさんのばかぁ、寂しかったんだからぁ」

「ばかはスぺちゃんだもん! 私も寂しかったもん!」

 

抱き合いながら、お互いの体温を感じながら、お互いに本音をぶつけ合う二人。

とても楽しそうな二人を背に、邪魔はしないようにしながら、ゴールドシップはその場から去った。


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