黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
感想いつも非常に頂いていてありがとうございます。
前々回ぐらいまでネタバレしちゃいそうなのもあり、感想返信控えていましたら、圧倒的に感想返信が溜まり過ぎて返信不能になってしまいました。
すべて読ませていただいております。
「そういえばゴールドシップさん」
「なんだ? スぺ」
「スズカさんの呼んでたお姉さまってゴールドシップさんですよね」
「!」
「!?」
「……」
ある日の放課後の部室
やっと退院できて、現在リハビリ中で歩くことはできるようになったサイレンススズカ
スズカの周りを甲斐甲斐しくウロチョロするスペシャルウィーク
スイーツを食べるメジロマックイーン
そしてゴールドシップの4人だけしかその時にはいなかった。
高知の仕事もいち段落して、夏合宿前にマックイーンもまた東京に帰ってきていた。
一方でウオッカとダイワスカーレットは実家に帰っており、タキオンとトレーナーもまだ部室へ来ていなかった。
そんなのんびりした時間の中で、スぺが爆弾を投げ込んだ。
「何のことなんだZE?」
「ゴールドシップさん? そもそもお姉さまってなんなんですか?」
「ゴルシちゃん身に覚えがないんだZE!」
「ゴールドシップさん、なんでごまかすんですか? スズカさんに下心があるんですか? 指の一本一本折っていけば素直になりますか? 大丈夫、足まで合わせれば20本ありますから」
「こわい!!」
「スぺ先輩!? ちょっとスズカ先輩! 止めてください!」
「え? お姉さまが、ゴールドシップさん? え?」
「こっちはこっちで大混乱してらっしゃる!!」
ゴールドシップはごまかそうとしたが、失敗していた。
スぺはこの前まで纏っていた重い威圧感を伴う黒い殺気を纏い、ゴールドシップに詰め寄っていた。
やばいと思ったマックイーンが必死に止めようとスぺを羽交い絞めにするが、殺意の波動に目覚めたスぺのバ力は10万バ力といわんばかりのパワーでずるずると引きずられていた。
スズカでないと止めきれない、と思ったマックイーンが助けを求めるが、スズカは絶賛大混乱中であった。
「ちょ、ちょっとゴルシちゃんは木星までドーナツ食べに行ってくるんだZE!!」
「待ってくださいゴールドシップさん! 痛いのは最初だけですから!」
「変なものに目覚めさせられる!」
部室を飛び出したゴールドシップ。
そのゴールドシップを追いかけて、マックイーンを振り払ったスペシャルウィークが部室を飛び出した。
全速力で飛び出したゴールドシップはかつてない素晴らしいスタートが切れた自信があった。
捕まったらやばいと、凱旋門賞の時よりも必死に走り出すゴールドシップ。
「逃がしませんよ?」
しかし後ろからの圧力が一向に減らない。
怖くて後ろを振り向けないが、スぺがきっと全力で追いかけてきているのが背中に刺さる殺気から感じられた。
このままでは追いつかれる。
そう考えたゴールドシップは食堂へと飛び込んだ。
食堂に入った瞬間、スぺは条件反射でどんぶり飯を受け取っていた。
これを食べている間に距離を離す、そんな作戦だったのだが……
シュパン
どんぶり飯3杯が一瞬にしてなくなった。
「食うの早すぎだろ!?」
「ちゃんと三十回噛みました」
「余計こえーよ!!」
栄養補給で体力を回復したスぺの猛烈な追い上げは先ほど以上である。
ゴールドシップは作戦の失敗を悟った。
そうしてそのまま次に飛び込んだのはタキオン研究所であった。
ゴールドシップが向かったのは鉄骨渡りの場所である。
某漫画に触発されたアグネスタキオンがひとまず作ってみたはいいが、使い道がなくて放置されている場所である。
ゴールドシップはバランス感覚に自信があり、簡単に渡っていった。
しかしスぺは、バランス感覚は正直あまり良くないのをゴールドシップはわかっていた。
ダンスもちょっと不格好だったり、ツイスターゲームがへたくそだったり、基本バランス系に弱い。
ここなら落ちてくれるのではないかと思いここに突入したのだ。
ゴールドシップがさっさと渡った後、スぺもついてこようとしたが、ゴールドシップの予想通りスぺはすぐに落っこちた。
20m下の人参ハンバーグクッションの上に落ちればしばらく上がってこれないだろうとゴールドシップは予想したが……
「逃がしませんよ?」
下に着地したスぺは、そのまま壁を駆けあがり始めた。
すぐに上ってきそうなのを察したゴールドシップはまた全力で逃げ始めた。
そうして走っているゴールドシップは飛び込み台に駆け上がる。
スぺが苦手にしていたものに飛び込みがあったのを思い出したのだ。
よくよく考えれば下で待ち受けられたら容易に捕まえられるのだが、頭の中がスズカさん一色に染まったスぺは、そこまで頭が回らずに愚直に追いかけた。
そうしてゴールドシップの飛び込み。
スタート以外は何でもできるという名に恥じぬ美しい飛び込みから、着水後の着衣水泳まで完璧に行い逃げていくゴールドシップ。
スぺは根性と勢いで飛び込み台から飛び出したはいいが、お腹から着水し悶えながら沈んでいった。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
マックイーンの血を引きスタミナに自信があったゴールドシップも、長時間圧力をかけられながら走るのはかなり過酷だった。
既に息が上がり、ヘロヘロになっていた。
そんな中、最期の気力を振り絞って部室に戻ってくる。
後ろからは殺意の波動に目覚めたスぺが最後の追い上げをしてきていた。
死ぬならマックイーンの膝で、そんな覚悟を決めたゴールドシップ。
ゴールドシップを捕まえようとしたスぺを抱きしめて止めたのは、スズカだった。
「スぺちゃん?」
「スズカさん?」
「スぺちゃんは、私の人参よ」
「スズカさん!」
ひしっと抱き合う二人。
傍で聞いていたマックイーンもゴールドシップもスズカの発言の意味が全く分からなかったが、おさまったようなので良しとすることにした。
「で、お姉さま?」
「……」
「説明してくれますよね?」
「スズカがとてもかわいかったから、お姉さんぶりたかった。反省も後悔もしていない」
「……はぁ……仕方ないですね。また甘えさせてくださいね、お姉さま」
ゴールドシップの左腕に抱き着くスズカ。
「スズカさんのお姉さまなら私のお姉さまでもありますよね!」
スズカと目と目で通じ合ったスぺは超理論を展開してゴールドシップの右手に抱き着く。
キャッキャしながら擦りつく二人に基本かわいい子が好きなので、まんざらでもなさそうなゴールドシップ。ミシミシ言っている右手は気にしないことにした。
「……わたしも交ぜてくださいまし!」
それに寂しさを我慢しきれなくなったマックイーン。
勢いをつけてゴールドシップに飛び込むのだった。
スズカとスぺと愉快な仲間たちの話はこれでひと段落です。
第二部は脳筋マックイーンとナメクジテイオーのお話しですが、その前に閑章が予定を超えてかなりの数入りますので、もう少しお付き合いください。
次章「それぞれのあり得た未来という名の悪夢」