黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
それは長い本当の悪夢
夢を見た。
ひどく現実的な夢であった。
夢の中の私もまた、スペシャルウィークだった。
しかし、いろいろなものが違った。
夢ではスピカというチームはなく、私は違うチームに入っていた。
チームではマックイーンさんが一緒だったが、スズカさんはリギルにいて、ゴールドシップさんはマックイーンさんがいるのにどこにもいなかった。
タキオンさんもスカーレットちゃんもウオッカちゃんもいなかったし、すごく不思議な感じがした。
チームは違ったがスズカさんとはルームメイトであり、やはり仲が良かった。
どちらから言わずとも、恋人みたいな感じだった。
速くて、きれいで、優しいスズカさん。
でもあの時、あの運命の日曜日に、夢の中のスズカさんは帰らぬヒトになった。
伸ばした手は届かなかった。
夢の中の私は泣き叫んだ。
夢であってほしいと何度も叫んだ。
心が張り裂け、苦しみ、そして諦めた私は、すべてを捨てた。
ただ日本一のウマ娘を目指すだけの存在になった。
グラスちゃんが、エルちゃんが、セイちゃんが、キングちゃんが
皆私を呼んでいた。
皆私に手を差し伸べていた。
しかし夢の中の私はすべてを拒絶した。
すべてを叩き壊し続けた。
勝ち続け、壊し続け「絶対」という異名すら得た私に残されていたのは何もなかった。
称えられ、褒められた先にあったのは何もなかった。
家に帰らない間に、お母ちゃんは亡くなった。
エルちゃんは凱旋門賞に再度挑戦し、最後はレース中の事故で亡くなった。
セイちゃんは怪我から復帰したが、実力は戻らず私に叩き潰され引退。その後早逝した。
何も残っていないことに初めて気づいた私は、残っている人にだけでも謝りに行こうとした。
ただの自己満足かもしれない。意味が無いかもしれない。でも謝りたかった。
そうしてまずはグラスちゃんに会いに行った。
私を愛してくれ続け、しかし私が壊し続けた彼女。会いに行ったそこにいたのは既にただの肉の抜け殻だった。
本当の絶望はその時に知ったのだと思う。
お母ちゃんの残滓が残る牧場に私は帰った。
それはただの抜け殻だった。
何をしなくても遊んで暮らせる財も、会う人会う人に褒め称えられる賞賛も、何も価値がなかった。
私が欲しかったのはお母ちゃんが喜んで抱きしめてくれることだった。
私が欲しかったのはみんなで走って遊んで競って楽しむことだった。
私が欲しかったのは、大事なあの人を助けられる手だった。
全て失った。いや、自分がすべて捨てたのだ。
自分が憎かった。もっと苦しめばいいと思った。苦しんで苦しんで苦しんでのたうち回りながら死ねば、少しは自分も許されるだろうか。そう思っていた。
キングちゃんやウララちゃんはそんな私すら、無価値な私すら心配し訪ねてくれた。
しかしそれすら私には苦痛だった。
結局夢の中の私の希望通り、夢の中の私はのたうち回りながら、苦しみぬいて、孤独に死んでいった。
目を覚ますとそこは学園の寮の自室だった。
とても怖かった。あれは単なる悪夢ではない。自分のあり得た未来だった。
あれほど苦しんでも衰えない無念が、身を焦がした。
怖くて怖くて、私はスズカさんのベッドにもぐりこんだ。
スズカさんのぬくもりを感じ、私はやっともう一度眠ることができるのだった。
「二人のおかあちゃんへ 私は元気に頑張ってます」