黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「カフェはさ、私のどこが好きなんだい?」
「寝言は寝てから言ってください」
アグネスタキオンは、基本的に毎日マンハッタンカフェとお茶会をする。
アグネスタキオンは絶対の紅茶党
マンハッタンカフェは絶対の珈琲党である。
だから二人の好みは一切合わなかった。
お菓子だって、タキオンは砂糖をはちみつで煮詰めたような甘いものが好きで、一方カフェは素朴でさっぱりした味のものが好きだった。
だがなぜか、毎日昼食後に二人でお茶会をしていた。
当然二人が飲食するものは全く違う。
今日のタキオンはスぺ牧場特製激甘ショートケーキに、ミルクとはちみつたっぷりのミルクティーである。
一方カフェはおからクッキーとブラックの珈琲である。この素朴な味が、カフェは気に入っていた。
「だっておかしいじゃないか。食べ物の好みも違う。話題も違う。なんでカフェはボクと一緒にお茶をすすってるんだい!?」
「私は珈琲をすすってます」
「そういう意味じゃないの分かってるだろ! だからきっと、カフェは私が好きだと思ったのに!」
「それなら、タキオンが私のことが好きなのでは?」
その理屈ならタキオンがカフェのことが好きになってしまうだろう。
どうせ役に立つモルモットぐらいにしか考えていないだろうな、と思ったカフェはあきれたようにそれを指摘した。
どうせ不敵な笑いをするだろう、と思っていたカフェ。
タキオンは少し悩み。
さらに悩み。
ポン、と手を打ち
そして真っ赤になった。
「カフェ、大事なことを気づいてしまった」
「ろくでもないことな気がしますね」
「気の迷いかもしれないが、私はカフェのことが好きなのかもしれない」
「うん、気の迷いですね」
「カフェが連れない!! 冷たい!!」
「いつもです」
「そうだね、いつもだったね」
立ち上がったタキオンが座った。
ケーキを一口食べる。とても甘い。
ミルクティーを一口飲む。とても甘い。
甘いのと甘いので、タキオンは幸せに包まれた。
「一応聞いてあげますが、なんであなたが私を好きだという結論に達したのですか?」
「好きとは何か、分析してみたんだ」
「なるほど」
「特定の相手と一緒にずっといて落ち着くことじゃないかと思ったわけだ」
「なるほど」
「つまりカフェだ」
「なるほど」
「カフェ、聞いてないだろ」
「聞いてないですね。興味ないですから」
「悲しい……」
「それならダイワスカーレットさんやゴールドシップさんのことも好きなのでは?」
「スカーレット君はちょっと違うな。こうやってゆっくりする相手じゃない。ゴールドシップ君は全く落ち着かないから絶対違うな」
「なるほど」
カフェが珈琲を飲む。とても苦くて、そして豊かな香りがした。
「あなたが」
「うん?」
「あなたが私のことを好きだという結論に達したのは、これで97回目ですよ」
「97とはキリがいいね。100以下の数字の素数で一番大きな数字だ」
「そうですか」
「それでカフェはさ、私のどこが好きなんだい?」
「寝言は寝てから言ってください」
何の変哲もないお昼の時間が過ぎていく
「カフェは、私のこと好きだろ」
「好きですよ」
そう聞けばすぐなのに、そうは聞けないタキオンであった。