黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
宝塚記念から半年
サイレンススズカは先進医療を駆使した甲斐もあったらしく、無事復帰。事故から一年経った年末のOP戦に出場し、復活を見せつけた。
スペシャルウィークは天皇賞秋、そしてエルコンドルパサーを破ったブロワイエの参加したジャパンカップに勝利し日本の総大将といわれ、有馬記念に向けて調整中だった。
そしてマックイーンはメイクデビュー戦に勝利し、ジュニアウマ娘王者を決める戦い、ホープフルステークスへと駒を進めていた。
そこで待ち受けるのは生涯最大のライバルになるであろう、トウカイテイオーである。
デビューから重賞2勝を含む3連勝。
どのレースも大差で勝ち切る無敗の貴公子。その目標はかの皇帝シンボリルドルフと同じ無敗の三冠、そして皇帝を超える無敗の八冠を目指すと公言する、まさに最強の相手である。
最初、マックイーンが目指すのはシニアの天皇賞春、そして天皇賞秋、クラシックでは菊花賞ぐらいか、というつもりでいたのだ。
だが、トウカイテイオーの圧倒的な強さに魅了されたマックイーンは、テイオーに挑むことにした。
その初戦が、ホープフルステークスであった。
「だけど、正直かなり厳しいと思うぜ」
ゴールドシップはマックイーンに正直に告げた。
マックイーンの力は超一流である。
ゴールドシップが食べさせ続け、鍛え続けたマックイーンの体格は、入学当時より二回りぐらい大きくなり、背もかなり伸びている。
軽量さを生かしたスピードとスタミナで勝負していた前より、パワーもついて、スピードも増しており、かなり成長したと言えるだろう。
正直、トウカイテイオーが居なければ、三冠も難しくないと思えるほどの実力に成長していた。
しかし、相手はトウカイテイオーである。
リギルの秘蔵っ子と呼ばれる彼女の速さは絶対的である。
シンボリルドルフを思い出させるほどの強さを、若しくは天皇賞春の頃のスぺを思い出されるような絶対さを、既にジュニアクラスにして彼女は持っている。
マックイーンに勝ってほしい、そう思うゴールドシップですら、ネガティブな評価をせざるを得ないほどであった。
「タキオン博士、分析は?」
「いやぁ、どうしようもないね。さすがリギルのおハナさんだよ。レースプランもガチガチだね。隙が無い」
最近はレースの分析まで始めたタキオンに、ゴールドシップは話を振る。
しかしタキオンもお手上げの様だ。
先行して、2番手から5番手ぐらいのベストな位置をキープし続け、第四コーナーで抜け出す、というお手本のようなレース運び。
先行するウマ娘のレース展開として教本となりそうなぐらいの美しいレース運びを三回もされれば対抗する方法も思いつかなかった。
追い込みや差しと違って紛れも少ない。
大逃げでペースが崩れるレースでも、自分のペースを守り続ける。
まさに絶対の体現者だった。
「トレーナーはどうよ?」
「マックイーンがすべて負けているわけではない。特に体格とパワーでは小柄なテイオーは不利だ。それを生かせればいいんだが……」
「重バ場になったらば勝てるかもしれないか」
「あとはスタミナだろうな。マックイーンの脚を使わないときの走りの速度はおそらくテイオーを抜いている」
「え、マックイーンがあれより速いと思えないんだけど」
「ペース展開がベストだからどこで脚を使っているかわかりにくいんだが、3戦目の中盤の速度を見ているとマックイーンの方が速い。完全に脚を使っていない状況なら、マックイーンの方がそれなりに速いはずだ」
「ふむ、確かにトレーナー君の言う通りかもしれないね。京都2歳ステークスのラップを見ると中盤はそこまで絶望的に速いわけではない」
ウマ娘の走りには、有酸素運動つまり「脚を使わない」運動と、無酸素運動、「脚を使う」運動がある。
そして「脚を使わない」有酸素運動は基本どれだけの距離でも使えるが、「脚を使う」無酸素運動は限りがある。
その二つをバランスよく使うのがウマ娘のレースでは重要になるのだ。
つまり、「脚を使う」無酸素運動が使えない距離が長いとマックイーンが有利という事だ。
すなわち……
「長距離で重バ場なら、マックイーンが有利、と」
「そういう事だな……」
「でも長距離戦の重賞なんて、菊花賞までねーだろ?」
「そういう事だ……」
ジュニアでは最長の部類に入るホープフルステークスだが、それでも距離は2000m
ジュニアクラスには長い距離だが、同期から突き抜けて強いテイオーとマックイーンには中距離の負担でしかないだろう。
当日の天気やバ場状況なんてそれこそ調整できるものではない。
勝ち目がないわけではないのはわかったがやはり不利なのは否めなかった。
「大丈夫ですわ!」
「マックイーン?」
「頑張りますもの!」
「……」
「……」
「……」
何が大丈夫かわからないマックイーンの発言に、どう答えていいかわからない三人は顔を見合わせる。
メジロマックイーンはメジロ家のご令嬢である。
しかも、メジロの三羽烏と一緒にされるライアン、パーマーに比べると非常にお嬢様然としている。
だが、その本質は脳筋であり、ライアン以上に力こそパワーといわんばかりのレーススタイルである。
学園の勉強の成績も実はそこまで良いわけではない。
一夜漬けや、学年首席のイクノディクタスに教えてもらったりして、やっと中の中ぐらいをキープしている程度である。
ゴールドシップは、悪影響を与え過ぎたかと少し反省したが、おばあ様が
「昔からマックイーンはこんなものでしたよ。私も若いころはこんな感じでした」
と言われて血筋を感じるとともに、ゴールドシップ自身は頭がいいので、自分はいったいどこの血筋なんだと悩んだぐらいである。
「では、ケーキを食べて英気を養ってきますわ」
「いや今食べたら太め残りになるだろ!?」
「走れば大丈夫ですわ!」
「追切り後に絞るぐらい走っちゃダメに決まってんだろ!?」
けーき、けーきというマックイーンを引きずって、ゴールドシップは部屋に帰るのであった。
結局、大したことは決まらずに当日を迎えることになる。
成長したメジロマックイーン
めじろまんじうと洗濯機を交互に繰り返すことで成長したメジロマックイーン。
身長が伸びウオッカを超え、スタイルもダスカを超えるぐらいに非常に良くなった。ちゃんとつくべきところにめじろまんじうがついたのでお腹はスペンスペンしない。
一方スズカさんはボリュームに気を付ける必要がある。
二部で有馬記念が行われる予定ですが、その勝者は(なお、結果が反映されるとは限りません
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日本総大将 スペシャルウィーク
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スペチャンキラー グラスワンダー
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凱旋門再挑戦検討中 エルコンドルパサー
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最近同室のあの子が気になるキングヘイロー
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将来の夢はお花屋さん セイウンスカイ
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空気を読まない テイエムオペラオー
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うららーん ハルウララ
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大外一気 ゴールドシップ