黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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リギルのトウカイテイオー

リギルの最近の大型新人と言えば、トウカイテイオーである。

シンボリルドルフが見初めたというその素質は圧倒的である、という噂は既に立っていた。

リギル側から、無敗の三冠を目指す、八冠以上を獲得し皇帝超えを目指す、という話も漏れ聞こえてきていた。

 

だが、デビューまでに、その姿を見た者は少なかった。

学園の授業にはちゃんと出ているが、チームでのトレーニングは一切非公開。

時々垣間見える少年のような中性的でしかし整ったルックスはデビュー前からファンを増やしていた。

一部には実力が大したことないのではないか、という噂もあったが、デビューすればそんな声もなくなった。

 

デビューから3連勝。どれも二着とは大差をつけての圧勝。

そのレース展開も極めて鮮やかかつ正確なもので、彼女の強さを物語っていた。

次のホープフルステークスで、メジロ家の最終兵器ともいわれるメジロマックイーンとの対決に、周囲の期待は高まっていた。

 

 

 

そんなトウカイテイオーは今何をしているかというと……

生徒会室の会長の机の下に丸まっていた。

なんかジメジメするオーラを放ち、机の上の書類を不快な程度に湿らせていた。

しっとりテイオーである。

 

誰が呼んでも出てこない。

シンボリルドルフが呼ぶと少しだけ反応し、お菓子をあげると食べるがそれくらいである。

テイオーのトレーニングもできないし、邪魔で生徒会の仕事も進まない。

いつも最終的にキレたエアグルーヴが塩をつかんで投げつけていた。

 

「ぐろぉああ!! テイオー!! 邪魔だぁ!! 早くトレーニングに行きやがれ!!」

 

エアグルーヴが、キャラを崩壊させながら生徒会室に常備された塩をつかみ、テイオーにぶっかける。

 

「にぎゃああああああ」

 

という謎の悲鳴を上げて、机の下から抜け出したテイオーが駆けだしていった。

 

 

 

テイオーの生息地の一つ目が生徒会室の会長の机の下ならば、二つ目はリギルの専用トレーニングルームである。

トップチームであるリギルは設備面でも恵まれている。部室を二棟使用しており、一つはトレーニング機材が置いてあった。

といっても少々機材が古く、他のメンバーはここを使わずに学園のトレーニングルームを使うのが常であった。

だが、種類だけはそろっているトレーニングルームであり、生徒会室を追い出されたテイオーはいつも一人でトレーニングしていた。

メニューはおハナさんが毎日一度以上は見に来てくれる時に更新してくれる。

基本的におハナさんが怖いので、陰に隠れて話をすることになるが、ちゃんとその時ごとに合ったトレーニング方法を教えてくれた。

そうして決められたトレーニングメニューを二周すると、テイオーは部屋に戻っていった。

 

ナメクジなテイオーの三つ目の生息場所は寮の自室のベッドの下である。

テイオーはルームメイトのマヤノトップガンが苦手であった。

明るく人懐っこい彼女はまるで太陽の様で、自分の様なナメクジは話しているだけで蒸発していく、と思っていた。

幸いマヤノは早寝遅起である。だいたいマヤノが寝るぐらいに部屋に戻り、万が一夜マヤノが起きても気づかれないようにベッドの下で寝ていた。

そうしてマヤノが起きる前に、テイオーは起きて身支度をして、部屋を出ていった。

なお、マヤノは一人部屋だと思い込んでいるし、幽霊さんが隣のベッドに住んでいると思い込んでいる。

 

朝練として、トレーニングルームに行って、メニューをまた一周行う。

そうして授業が始まる前に、最後の日課を行っていた。

 

「ふへへ、マックイーンさん、今日もきれいだなぁ……」

 

メジロマックイーンのファンサイトの確認であった。

 

ナメクジテイオーは重度のメジロマックイーンのファンであった。

なんせ最初期からのメジロマックイーンのファンクラブメンバーで会員番号1番である。

メジロ家の令嬢にふさわしい美しさと上品さ、そして知性のあふれるマックイーン。

しかしそれでも気取り過ぎないマックイーンに、テイオーは信仰に似た憧れを抱いていた。

 

 

 

テイオーは他人が怖かった。

見られるのが怖かった。

話しかけられるのも怖かった。

レースするのだって怖かった。

嫌だったが、会長みたいに、シンボリルドルフみたいになるため、と思って頑張ってゲートに入った。

スタートすれば周りにたくさんのウマ娘がいる。

それが嫌で、必死に走り続けて、それで一位を取り続けていた。

 

無意識に走るだけで、最適なルートで走れる天性

圧倒的な速さで走れる筋力と関節の柔軟さ

そして人の数倍に及ぶ努力が彼女にはあった。

彼女が毎日三周しているトレーニングメニューは1日1周こなすのも難しい量であり、おハナさんも一周しかしていないと思って準備していたものだった。

 

次のレースだけは、テイオーにとっては楽しみであった。

なんせ、憧れのメジロマックイーンが参加するのだから。

無様なところは見せられない、とテイオーはさらにトレーニングメニューを1周追加した。

二部で有馬記念が行われる予定ですが、その勝者は(なお、結果が反映されるとは限りません

  • 日本総大将 スペシャルウィーク
  • スペチャンキラー グラスワンダー
  • 凱旋門再挑戦検討中 エルコンドルパサー
  • 最近同室のあの子が気になるキングヘイロー
  • 将来の夢はお花屋さん セイウンスカイ
  • 空気を読まない テイエムオペラオー
  • うららーん ハルウララ
  • 大外一気 ゴールドシップ

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