黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
サイレンススズカがゲートの下をくぐっちゃった事件は、競馬だと大惨事ですが(馬がゲート下をくぐると騎手が故障したり、馬が予後不良になったりする)ウマ娘だと可愛い絵面しか思いつきません。
ゴールドシップは学内を回り一通り確認して、自分がずいぶん都合のいい存在になっていることに気づいた。
未来で学園生として使っていた学生証が過去に戻った今でも普通に使えた。
学生専用の部屋に入るときも、図書室で本を借りるときにも、使えるのだ。
未来で使っていたものだから、学生番号がほかの人たちとは一桁ぐらい違っている。
ちゃんと確認したら、偽造か、記載ミスを疑うと思うのだが、特に誰にも何も言われなかった。
住む場所も、栗東寮に普通に自分の部屋があった。
未来の荷物もまるまるそのまま、未来と同じ部屋が自分の部屋になっていた。
未来の製品があったら一儲けできると思ったが、残念ながら部屋には大したものは置いていなかったので、そういったことはできなかった。
全自動掃除機とか、ゴルウェイとか、絶対受けたと思うんだが…… とゴールドシップは残念に思った。
ちなみに学年は無しである。
授業は受けなくて済みそうだが、授業時間の間何をするかがなかなか悩みどころである。
それもおいおい考えないといけない。
なんにしろ、家なき子も、無職も避けられた。
おそらく三女神の加護とか、そういった何かなのだろう。
都合がいいのでありがたく乗らせてもらうことにした。
ひとまず暇だし、という事でゴールドシップはレースでも見に行くことにした。
レース場の隅の人気のないところで観戦しながら、今後のプランを練るつもりだった。
図書館は気が散るし、部屋で一人きりで作業するのは寂しい。
レース場はうるさくはあるが、皆レースを見ていて観戦者を見ていない。
考え事をするにはちょうどいい賑わいなのだ。
ゴールドシップがレース場についたときは、ちょうど第11レース 弥生賞のパドックが始まったところだった。
弥生賞
クラシック三冠の初戦、皐月賞のトライアルレースであり、三つある皐月賞トライアルレースでも一番強豪の集まるレースである。
本番と同じ距離、同じレース場であるため、経験を積むにもちょうどいいのだ。
そういう事で参加者のだれもが闘志をみなぎらせているのだが…… 出走者の中に一人だけぼーっとしてるやつがいた。
栗毛の美少女だ。
基本的にウマ娘は皆見目麗しいのだが、その中でも目を引くぐらい綺麗な子だった。
しかし、なんかすごいぼーっとしてる。目の焦点もあってなさそうだし、パドックもふらふらしていた。
えっと、5枠14番、サイレンススズカ、か。
あの美人だけどぼーっとした姉ちゃん、サイレンススズカっていうのか。
何か聞いたことがある名前で見たことがある顔だな、と思いながら、記憶を探るが……
「えっ!? あれがサイレンススズカなのか!?」
思わず声を上げてしまった。
やっとあの、最速の機能美、孤高の逃亡者といわれたサイレンススズカと、目の前のぼーっとした少女が結びついた。
確かに記録映像で見た顔と同じだ。見れば見るほど美少女である。
まあ、ゴルシちゃんにはかなわないし、うちのマックイーンの方がもっと美人だ、とゴールドシップは内心思った。
だが、記録映像で見たサイレンススズカはレースしか見ていないような、抜き身のナイフのような危なげな雰囲気を持っていた。
まかり間違っても夜更かしして寝不足で眠いんですみたいな目をしてレースに挑むような雰囲気ではなかった。
ゴールドシップは名前を三度見したが、やはりサイレンススズカだった。
時期的にも、マックイーンが入学した年にクラシック戦線にいたはずだから間違いないのだが、まったく信じられなかった。
そんな予想外のスズカの姿に驚くゴールドシップだったが、さらに、レース直前のサイレンススズカにさらに驚いた。
なんと、スタート前にゲートの下を潜り抜けたのだ。
そしてゲートを潜り抜けると、迷子になった子犬が飼い主を見つけたような雰囲気であたりを見回し、そして観戦に来ていたエアグルーヴを見つけると、嬉しそうにそちらへ走り寄っていった。
なんだあれ、可愛すぎるだろう。ウマ娘じゃなくてワンコ娘とか、そういう生き物なんじゃなかろうか。
何より、ゲートの下を潜り抜ける、という発想に、ゴールドシップは衝撃を受けた。
エンターテイナーゴルシちゃんは、きれいなスタート以外のあらゆるスタート方法をしてきた、と思っていた。
ゲートを蹴り開けてスタートすることから始まり(なお、ゲートは固くて蹴ってもあかなかった)、スタート前に喧嘩を売ってきたトーホウジャッカルの野郎に、威嚇してゲートに飛びついたこともあった。
綺麗なスタート以外は何でもできる、なんて異名すらもらったことがあるゴールドシップは、スタートのエンターテイナーである、という要らない自負があった。
しかし、ゲートの下を潜り抜けたことはなかった。
ゲートの下は確かに空間がある。そこを潜り抜けるというそのサイレンススズカの発想力の前に、ゴールドシップは負けを認めた。
サイレンススズカの悲劇を回避する、これは未来から来た自分の目的の一つである。
だが、そんなこととは関係なく、ゴールドシップは彼女と仲良くなりたくなった。
サイレンススズカがゲート下をくぐった事件について、調教師さんや厩務員さんは厩務員さんが離れて寂しくなってしまったからではないか、という推測をしています。
寂しがり屋のスズカちゃん、想像しただけでかわいいです。
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