黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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マックイーンの今後

ホープフルステークスの後、マックイーンは休養になった。

明確に負傷したわけではないが、全身の筋肉がダメージを受け、ひどい筋肉痛になったのだ。

 

やはりあのロングスパートの体への負担が大きかったのだろう。

すさまじい力で踏み込み、その反動で進むあれは非常に負担が大きいようだった。

ゴールドシップも似たような走り方をするが、マックイーンのように反動をすべて体で受け止めたりはしない。

それなりにパワーロスがあり、それが土柱なり、砂柱として上がるのだ。

ゴールドシップ自身、マックイーンの真似をしてみたら確かに走法としては可能ではあったがその反動は殺人的であり、数歩で限界であった。

 

「私もやってみまっ、ぴぃっ!!」

「すぺちゃあぁん!!」

 

スペシャルウィークもマックイーンの真似をしてみようとしたが、体重や体格が足りなかったのだろう。一歩目で吹き飛んで宙を舞い、スズカが悲鳴を上げた。

かなり体格に恵まれていないと難しい走法であるのは間違いなかった。

 

 

 

「まあ、しばらく休養するとして、今後どうすんだ? 三冠取るとしても、こんなやべー走り方してたら体壊すぞ」

「ひとまず練習とトレーニングしながら、天皇賞秋を目指しますわ」

「だよなぁ、止めろと言ってやめ…… え? 天皇賞秋?」

「最優先事項はおばあ様との約束、天皇賞制覇ですわ。三冠よりもそっちの方が大事ですし、ひとまずそれを取っておこうかなって」

「え? テイオーと戦わなくていいのか?」

「正直、もう興味がありませんわ」

「マジで!?」

 

ゴールドシップにとってもちょっと意外であった。

テイオーと勝負するがためにわざわざホープフルステークスに参加した様なものである。

マックイーンはあの強さと戦えることを楽しみにしていたように思えた。

そしてテイオーは今後も成長していくだろう。

そういった強敵と戦う。もしくは叩き潰す。そういったことを望んでいるとばかり思っていたからだ。

 

「弱い者いじめは好きではありませんの」

「弱い?」

「最初は、テイオーは皇帝を超えることを考えていると思っておりました」

「そんな噂もあったな」

「『絶対』である彼女に勝つ。最低でも挑む、そんな気概があるのだろうと思っていました。そんな相手が同期にいて、すごいわくわくしたのですわ」

 

皇帝、シンボリルドルフは絶対的な強さを持っている。今でもまれにドリームトロフィーシリーズに出てくるが、その強さは確かに絶対だった。

トウカイテイオーがシンボリルドルフに憧れている、という話もあった。

同時に皇帝超え、無敗の三冠をめざす、なんていううわさも流れていた。

 

「そうじゃなかったってか? 別に無敗じゃなくなったから皇帝超えができないってわけでもねーだろ?」

「当り前ですわ。勝敗なんて表面的な話はしておりません」

「じゃあどういう意味だ? テイオーの走りすごかったじゃん」

「あんな、信念も渇望も目標もない、ふわふわした憧れだけ抱いた走りなんて、軟弱としか言えませんわ」

「ふむ……」

 

ゴールドシップは二人の関係に対しては所詮観客だ。

感じることは限られている。だがマックイーンは感じることがあったのだろう。

 

「例えばこの前の天皇賞秋。スぺ先輩が勝ちましたが、とてもすごかったですよね」

「ああ、良いレースだったな」

「スぺ先輩の勝とうとする意志の強さ、キンイロリョテイの汚名返上しようとする意地の強さ、セイウンスカイ先輩やキングヘイロー先輩のスぺ先輩に勝利を見せつけようとする執念。とても素晴らしかったです」

「確かにそうだな」

「ほかにもみんな、ある意味とても美しく、ある意味とても汚い生の感情がぶつかり合っていました。G1レースというのはそういうものだと思っていました」

「そういうもんだろうな」

 

ゴールドシップだって心当たりがある。

あのクソ生意気な三冠のオルフェーヴル

いけ好かないが確かに速かったトーセンジョーダン

精神的にも物理的にも圧力がすさまじかったジェンティルドンナのアネキ

他にもたくさんライバルはいた。

あのヒリヒリした空気感は、確かにG1でしか味わえなかった感覚だった。

 

「ホープフルステークス。確かに実力は私やテイオーに劣っていた子ばかりでした。だけど、みんな勝とうとしていました。わたくしやテイオーをどうやって出し抜くか、どうやってねじ伏せるか、みんな虎視眈々と勝利を狙っていましたわ」

「そうだったな」

「でもテイオーは、たぶん何も考えていませんでしたわ。あの子は勝って当然、程度にしか思っていなかったでしょう」

「傲慢だってことか?」

「そうは言いませんわ。だってあの子は、確かに速いのですから。ですがそこには信念も何もなかった、と言っています」

「ふむ……」

「あんな子と競っても面白くありませんもの。だから三冠を目指すのは中止して、天皇賞秋を目指しますわ」

 

そんな軽さでいいのだろうか。

トレーナーの方を見たが、トレーナーも

 

「マックイーンがそれでいいならいいんじゃね? メジロ家的にも天皇賞の盾は欲しいはずだしな。それに、あの走法を完成させるのは時間かかるだろう」

 

ぐらいしか言わない。

 

「あんなナメクジテイオーを相手にするぐらいなら、そうですね、カノープスの皆さんとかの方が勝負して楽しそうですわね」

「カノープス? イクノさんのところか」

「そう、あのイクノディクタスさんがいるところですわ!」

「マックイーン、本当にイクノさんのこと好きだな……」

 

イクノディクタスはマックイーンと同じクラスの生徒だ。

実力は悪くはないし、頭が良く、マックイーンはよく勉強を教えてもらっていた。

マックイーンは、イクノの中性的な外見とメガネがお気に入りらしい。

ゴールドシップも未来でよくお世話になっていた関係で、イクノのことはかなり好きだった。

最近ではよく、イクノの部屋に二人で押しかけて、そのまま泊まったりすることもあるぐらいである。

 

「もちろんイクノディクタスさんだけではありませんわ! ナイスネイチャさんとツインターボさんも、なかなか面白いんですよ!」

「そうか」

「ネイチャさんもターボさんもデビューは遅くするみたいですし、そっちと勝負しに行きたいですわ!」

「まあその辺りは、ゆっくり考えようぜ」

「楽しみですわ」

 

そんな話をしながら、マックイーンの今後の予定を詰めていくのであった。

二部で有馬記念が行われる予定ですが、その勝者は(なお、結果が反映されるとは限りません

  • 日本総大将 スペシャルウィーク
  • スペチャンキラー グラスワンダー
  • 凱旋門再挑戦検討中 エルコンドルパサー
  • 最近同室のあの子が気になるキングヘイロー
  • 将来の夢はお花屋さん セイウンスカイ
  • 空気を読まない テイエムオペラオー
  • うららーん ハルウララ
  • 大外一気 ゴールドシップ

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