黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
テイオーは負けた。
無敗の夢は破れた。
皇帝に追いつかないことが確定してしまった。
「惜しかったな。次は頑張ろう」
東条トレーナーはテイオーにそう声をかけた。
テイオーは意味が分からなかった。
テイオーはシンボリルドルフに憧れていた。
トレーナーはシンボリルドルフに並ぶウマ娘を育てることを目指していた。
テイオーがリギルに入ったのは、シンボリルドルフがいたという事もあるが、トレーナーがシンボリルドルフを目指していたからだ。
だが、負けてしまっては、無敗の三冠になれないではないか。
「次」なんて永久に来ないではないか。
シンボリルドルフに、永久に追いつけないではないか。
テイオーには意味が分からなかった。
トレーナーはいろいろ言っているが、テイオーの耳には何一つ入ってこなかった。
どうにか理解したのは、次が皐月賞だという事だけだった。
トレーナーと別れた後、テイオーはぼんやりとマックイーンのサイトを見ていた。
そこに記載されたマックイーンの今後の予定にテイオーはさらにショックを受けた。
クラシック三冠回避、秋の天皇賞を目指す。
自分はマックイーンを見ていたが、マックイーンが自分を見ていないことがはっきりと分かった。
故障により休養、という話は書いてあった。それが本当かウソか、テイオーにはわからない。
だが、自分を気にしているならば、天皇賞秋ではなく、菊花賞を目指すはずである。
自分は三冠を目指すと公言しているのだし、マックイーンはおそらくステイヤーだ。菊花賞の方が距離的に得意であるのだから。
結局残ったのは無様な自分だけであった。
どうしていいか、テイオーにはわからなかった。
休養として、レース後数日はトレーニングが禁止になった。
いつものトレーニングルームにカギがかけられてしまい、テイオーはいつもの生息地で生息できなくなった。
ベッドの下に戻るのは、マヤノが眠ってからだ。それまで生息できる場所を探さなければならない。
マルゼンスキーやタイキシャトルが遊びに誘ってくれたが、キラキラウマ娘と一緒にいると溶けそうになるので丁重に断った。
しかしすることが無い。
ひとまず適当に散歩をすることにした。
学園近くには大きな神社がある。由緒正しい神社であり、人通りも多いのだが、裏の森は、基本人もおらず、ジメジメしていてテイオーにはなかなか快適だった。
そんなところでボーっと湿気浴をしていたテイオーだったが、人影が近づいてくるのであった。
「あの、トウカイテイオーさん、ですよね?」
「!!」
「私、キタサンブラックといいます! テイオーさんのファンなんです!!」
振り向くとそこには、黒毛の少女がいた。
小学生ぐらいだろうか。まだ年幼い、といった感じだ。
「えっと……」
「キタちゃんって呼んでください!」
「えっと、キタちゃん?」
「はい!」
「ファンって、何かの間違いじゃない?」
テイオーは信じられなかった。
こんなナメクジで無様に負けた自分にファンがいるなんて信じられなかった。
思わずそんなことを言ってしまった。
「間違いじゃないです! テイオーさんはかっこいいです!!」
「でもこの前のホープフルステークスだって、マックイーンさんに負けたし……」
「それでもかっこいいです! すごい綺麗で素晴らしい走りでした!!」
「でも無敗の三冠じゃなくなっちゃったし……」
「無敗じゃなくても三冠は取れます!!」
「でも会長にそれじゃ勝てないし……」
「シンボリルドルフさんだって、3回も負けてるじゃないですか! 1回しか負けてないテイオーさんの方が勝ってます!!」
凄いキラキラしているし、すごい押しが強い子である。
非常に溶けそうなオーラを感じるが、しかし、なんだろうか、彼女の言葉で少し元気が出る気がした。
周りがジメジメしているのもいいのだろう。
「でも、テイオーさん、この前レースしたばかりですから、疲れてますよね? 地面に寝っ転がるならお膝、貸しましょうか?」
「?」
「ほら、膝枕ですよ」
そういうキタちゃんは、地面に正座した。膝を貸してくれるらしい。
テイオーはなんとなくキタちゃんの膝に頭を載せた。
とても暖かくて、なんとなく安らぐ気がした。
「次は皐月賞ですか?」
「うん、そうだね」
「応援してます!」
「ありがとう。頑張るよ」
「目指せ三冠、ですもんね!」
「そうだね」
応援されて、少しだけ頑張れる気がした。
何かに目覚めたキタちゃんブラック
二部で有馬記念が行われる予定ですが、その勝者は(なお、結果が反映されるとは限りません
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