黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
東条トレーナーはトウカイテイオーに手を焼いていた。
もともとリギルは癖のあるウマ娘も多く、手を焼く場合も少ないわけではなかったが、それでもトウカイテイオーはサイレンススズカ以来のめんどくささだった。
いや、サイレンススズカも面倒な子ではあったが、まだ話は聞いてくれたし、指示にも従おうとしてくれた。
テイオーはそれ以上に面倒だった。
まず、隠れていてなかなか出てこない。
見つけるのから一苦労なのである。
マルゼンスキーやタイキシャトル、フジキセキやヒシアマゾンあたりと協力して、テイオーがどこにいるか探すのはもはや日常になっていた。
トレーニング風景も見せてくれない。
正しいフォームでトレーニングしているのか、正しいやり方でしているのか、というあたりは非常に重要なのだが、それも恥ずかしがって見せようとしない。
時々シンボリルドルフがトレーニングフォームやランニングフォームなどを確認していると聞いている。
ルドルフの知識は自分に並ぶほどであるから、ルドルフが大丈夫というならば大丈夫だと思うが、直接確認できないのはトレーナーとしてかなり鬱憤が溜まる現状であった。
レースプランを決める相談にも顔を出さない。
レースの走り方についてはチームによって非常に色が出る。
スピカなんかは基本ウマ娘に丸投げであり、悩んでいることについてトレーナーに聞けば答えてくれる、というかなり放任主義だ。
だが、リギルは全く逆である。東条トレーナーがそのウマ娘にあった、勝てるプランをガチガチに固め、その上でそのレースプランに従って走る、というのが基本だった。
だが、テイオーはそもそもそういった相談に出てこない。
強引にメンバーが縛り上げて連れてきても、人が怖いと言って机の下でじめじめし始めて、あまり話を聞いてくれない。
結局本人に丸投げするしかなかった。
医者嫌いも深刻である。
リギルはタキオン研究所とかなり強く提携している。
定期的な健康診断から、レース直前のメディカルチェックまで、怪我予防の対策を非常に頻繁に行っていた。
そのためチームメンバーはかなりの頻度で診察を受けに行くように東条トレーナーは指導していた。
だが、テイオーは全く来ない。
本気で来ない。
逃げ続ける。
仕方がないのでエアグルーヴとナリタブライアンに、会長の机の下に隠れているときに縛り上げて、連れてきてもらうのが日常だった。
管理も何もあったものではない。
シンボリルドルフが強く推すから加入させたが、完全に手を焼いていた。
移籍も考えたが、さすがにこの子を他に押し付けるのは相手に悪い。うちではまだルドルフのいう事は聞いているが、よそに行ったら誰のいう事も聞かなさそうである。
一度スピカの沖野トレーナーに軽く打診したが、断固拒否といわれてしまっていた。
こうなったらルドルフに頑張ってもらうしかないかもしれない。
幸い、次期生徒会長候補にスペシャルウィークは上がっている。
彼女がドリームトロフィーへ移籍したころに正式に就任してもらうことも考え、既に打診もし始めている。
メンバーも、ナリタブライアンはもともと向いていないという事で退任予定だ。
エアグルーヴは他のウマ娘の世話を焼きたいだけなので、上がだれになろうとあまり気にしないという事であった。先任副会長として留任予定である。
代わりにグラスワンダーにはすでに生徒会入りしてもらっているし、セイウンスカイにも参加を打診していた。
そういう事もあって、現状ルドルフの手が比較的あいている。
ルドルフをサブトレーナー扱いにして、テイオーについてはメインはルドルフにお願いすることも本気で検討していた。
「にぎゃあああああ!!!」
エアグルーヴに塩をまかれたテイオーの悲鳴が聞こえる。
東条トレーナーの苦労は終わらなそうである。