黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
「なあ、マックイーン」
「なんですの、いたいいたいいたい!!」
ある日のトレーニング。
キングヘイローとゴールドシップは出かけ、トレーナーとネイチャはターボと一緒に買い出しに行っている。
他のメンバーだけでトレーニングしているときの話だ。
現在マックイーンは柔軟性を上げるトレーニングを重点的に行っていた。
怪我防止のために柔軟性を上げるというのは非常にいいことなのである。
丈夫さに定評のあるリョテイもイクノも、非常に柔軟性が高かった。
一方でマックイーンはかなり固い。
前屈で90度にしか行かないのはかなりやばいと周りも思った。
そのため今、後から必死にイクノが押して、前からはマックイーンの手を握ってリョテイが引っ張っていた。
「他のメンバーもいないから聞くが、ゴールドシップ、ありゃなんだ?」
「なんだって…… 私のルームメイトですわ。ついでにスピカのサブトレーナーで今はカノープスの一時的なサブトレーナーですわね」
マックイーンとゴールドシップがカノープスにいる理由は、なにもマックイーンのわがままだけではない。
カノープスは最近人数が増えており、トレーナーの手が回らなくなりつつあった。
そのため、トレーナー同士仲が良いスピカから、サブトレーナー格であるゴールドシップをマックイーン付きで送ったというのもあるのだ。
スぺとスズカに専念し、あとのデビュー前のメンバーは実質的なサブトレーナーでもあるタキオンが面倒を見ている。
スピカは現状、手が余っている状態だった。そのためカノープスに一時的な移籍のようなことを行っていた。
リョテイもゴールドシップ自体に何か不満があるわけではない。
何かあるたびにパパと呼んで抱き上げてくるのはうっとうしいし意味が分からないが、不愉快なほどではない。
あらゆる知識は豊富であり、現在ゴールドシップがキングと出かけているのは、新機軸の勝負服を作るためだと聞いている。
信用できないわけでもない。
だが、何か見逃してはいけない何かを見逃しているような、違和感があった。
他のカノープスのメンバーにそれを話しても、イクノ以外は同意を得られなかった。
だが、イクノだけは似たような違和感があるらしい。
だからこそ、おそらく何か知っていそうな、マックイーンに聞くことにしたのだ。
若干ずれた答えをするマックイーンに、イクノが尋ねる。
「マックイーンさん、ゴールドシップさんの学年、どこですか?」
「……」
「学園生なのに所属クラスすらありません。そもそもいつ入学かも、データがありません」
「……」
「サブトレーナーの資格もありますが、取得年度がかなり未来でした。学生番号も本来あり得ない数字でした。学園の学生番号は開校からずっと通し番号ですから、数字から考えればかなり未来の数字ですね」
「!?」
「調べると、案外わかるものですよ。ちょっと言えない方法を使いましたが」
イクノが告げた情報は、基本的にプライベート情報なので第三者が知ることができない。
それをしれっと調べるあたり、なかなかやばい手を使っているように思うが、イクノは表情を変えない。
カノープスのやばさの片鱗を、マックイーンは見た。
「リョテイ、この情報から何を推測しましたか?」
「かなりくだらない、ファンタジーみたいな妄想が混じるがいいか?」
「構いません、あなたの直感は荒唐無稽な時ほど予言めいて当たりますからバカにできないんです」
「お褒め頂きドーモ。結論から言えば、ゴールドシップは未来から来た、俺ら3人の血縁じゃねーかっていう事だ」
「どうしてそう思いますの?」
「イクノが出した情報を鵜呑みにすりゃ、ゴールドシップは未来から来てるってことになる。すさまじく荒唐無稽だし方法も何もわからんが、そこを前提にして話をさせてくれ」
「構いませんわ」
「ゴールドシップの顔はマックイーンそっくりだ。未来から来たなんて情報がなきゃ、普通にメジロの庶流とか、そういう系統のウマ娘だろうなって思う程度には似ているな」
「そうですわね」
「同じ葦毛だしな。だがマックイーンと違うところも当然ある。マックイーンより輪郭がシャープだし、目も少し鋭い。見ているとその辺りイクノに似てる気がすんだよなぁ」
そういいながらリョテイはイクノのメガネを外す。
メガネを外したイクノとゴールドシップは似ているといわれたら、似ているような気もする。
しかしマックイーンは、リョテイがイクノのメガネを外すしぐさがかっこよかったことに嫉妬して頬を膨らませていた。
「くだらん嫉妬するなって。で、ゴールドシップは時々ふざけてマックイーンをおばあちゃんちの畳みたいな匂いがするとか言うだろ」
「言いますわね。言うたびにメジロドライバーですが」
「まあ、こじつけみたいなもんだが、そうするとマックイーンとイクノの孫じゃねーかっていう話になるわけだ。おばあちゃんだしな」
「!? そ、そんな、イクノさんとわたくしはまだそんな深い仲ではありませんわ!」
「私はマックイーンのこと、好きですけどね」
「!!」
「そもそも好意のない相手を部屋に入れたり、一緒のベッドで寝たりはしません」
「!!」
真っ赤になったマックイーンはそのまま撃沈した。
「はいはい、のろけはいいから」
「事実を言ったのみです」
「イクノはそういうところが天然だからなぁ……」
「で、でもそれだとリョテイは関係ないではありませんか」
「俺のことをパパって呼ぶのと、あとはこの違和感に気づいたのが俺だから、血縁かなぁと思った程度だ。全く根拠はねえ」
「そもそもその推論だと、リョテイがゴールドシップの父じゃないですか。あなた、私やイクノより二つも年上ですわよね? 祖父母より年上の父ってヤバくないです?」
「やべーな。絶対やべー。だから多分俺は無関係だろう」
「そんなことはないかと、ゴールドシップの目の色がリョテイと全く同じですし、何か企んでいるときの笑い方は全く一緒です」
「……」
「そんな目で見るなよマックイーン」
「大丈夫ですわ、たとえあなたが自分の子供ぐらいの年のウマ娘に手を出す変態だったとしても、ちゃんときっちり私とイクノさんのかわいい子に手を出す前に警察に送って差し上げますから」
「ブタ箱送り確定かよ!?」
「ちゃんと差し入れぐらいはしてあげますわ」
「ふんっ」
「いたいいたいいたいいたい!!」
リョテイがマックイーンの上半身を引っ張る。
股裂き状態になったマックイーンは悲鳴を上げた。
「まあ本当にこじつけも多い、フィクションみたいな話だ。おそらく間違っていることもいっぱいある。だが、前提としてゴールドシップが過去に来たってところを前提にすると未来でよくないことが起きるってことだろ」
「そうかもしれませんわね」
「推測する情報がまだ足りなすぎるから、マックイーンなら何か知らないかと思ったんだよ」
「私もあまり知りませんわ。おばあ様は、『三女神様に導かれた精霊ウマ』とか、『ウマ娘達を助け、導く三女神様の神子』とか…… あとは……『彼女らが消えていなくなることで、終わる』とか言っていましたが……」
「あまりいい情報じゃねえな。イクノ、精霊ウマって知っているか?」
「知りませんね。一度調べてみましょう。メジロのおうちの古文書とかそういうものも見られると助かりますが」
「おばあさまに頼んでみますわ」
「俺も調べよう。マックイーンにこういう知的作業を頼むのは、いまいち心もとないからな……」
「……」
「なんだマックイーン」
「わたくしとイクノさんの愛の結晶は渡しませんからね」
「……」
「いたいいたいいたいいたい!!」
リョテイがマックイーンの上半身を引っ張る。
股裂き状態になったマックイーンはまた悲鳴を上げた。