黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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王は孤独であるべきか、王は慕われるべきか

キングヘイローの母親、グッバイヘイローが日本に帰ってきていたのに合わせて、キングヘイローはゴールドシップを連れて行くことにした。

キングが日本のトレセン学園に通っていることからわかるように、現在のグッバイヘイローの活動拠点は日本にある。

尤も、元々がアメリカのウマ娘であるため、アメリカで活動することが多く、案外日本にいる期間は少なかった。

だが偶然帰ってきた母に、キングはゴールドシップを連れて家に帰ったのだ。

 

 

 

ゴールドシップの説明は非常にわかりやすく、母も納得していた。

自分が設計したプロトタイプのサポータータイツについても、いくつか先人としてのアドバイスをするだけで、そのまま認めてくれた。

その有用性についても、ゴールドシップと私を褒めてくれた。

昔の私なら、外面ばかり気にして、と内心憤ったりしていたのだろうが、今では素直に喜べる自分がいた。

結局母も自分も同類で、不器用な人間なのだ。

素直に褒めてくれることは喜ぶことにした。

 

ゴールドシップは夕食も一緒に食べる予定だったのに、「マックイーンがスイーツをむさぼっている気配がするから止めるために帰るぜ!!」とさっさと帰ってしまった。

気を利かせてくれたのだろう。

結局夕食は母と二人きり。

食事はいつものニンジンハンバーグであった。

おそらく母の手作りの、あまり格好が良くなくて、しかし昔からの好物だった。

 

「お母様。先ほどの新勝負服の件ですが…… 何か意見ありますか?」

「……」

 

少し悩んだ様子を見せる母。

おそらく何か、母に見えている問題があるのだろう。

それを言うべきか、悩んでいるのだろう。

私を傷つけてしまうことを言うのを悩んでいるのだろう。

昔はこのよくわからない間が、とても嫌いだった。そして出てくる言葉はたいてい、辛辣なものだった。

自分も母も不器用だな。と、今の私なら思う。

結局似た者親子でしかなかった。

 

「お母様、失敗できないのです。お願いします」

「…… 製品自体は問題ないと思うわ。もちろんもっとデザイン的に洗練させたりする必要はあるでしょう。ですがそれはあなたやあなたの周りが頑張ればいいこと。性能もある点を除けば必需品にしたい気持ちもわかるわ」

「……ある点…… 重さ、ですか」

「そう。重すぎるわね。走力に影響が出るレベルだもの」

 

重さについてはかなり問題になるのはわかっていた。

ウマ娘のパワーならそう大きな問題になるものではない。

だが、明らかに走力に影響が出るだろうぐらい重かった。

ほんのわずかだが、遅くなる。だが、0.1秒すら争うウマ娘のレースにとって厭われるレベルの重さだった。

 

「ゴールドシップさんはスピカのサブトレーナーです。私もカノープスのサブリーダーとして、自分のチームへの導入を強く推す予定です。2チームが導入すれば」

「導入しても他には広がらないわよ。それだけ致命的な欠点だもの」

「……」

 

母の指摘はもっともだった。

もしかしたら2つのチームで導入すればリギルも動いてくれるかもしれない。

だが楽観的に見てもそこで終わりだ。

スピカにはスぺちゃんとスズカさんがいる。マックイーンさんもいる。時代のエース級3人が着れば、広告塔には十分だと思ったが、それは甘いと母は一蹴したのだ。

 

「どうすれば……」

「……一つだけ、手があるわ」

「どういうものでしょう」

「キング、あなたの春の予定は、フェブラリーステークス、高松宮記念、そして安田記念だったわね」

「そうです」

「これを着て、それを全部勝って、そのあとにさらに宝塚記念でスペシャルウィークさんと、サイレンススズカさんに勝てばおそらく導入に弾みがつくわ」

「!?」

「シルバーコレクターといわれるあなたが、急に覚醒し絶対的な強さを得る。今まで勝てなかったスペシャルウィークさんにも勝つ。そうすればその理由は皆が探すでしょうね。そして……」

「明確な違いは新規導入したサポータータイツ。ゲン担ぎでも使うウマ娘が増えると」

 

欠点を隠し利点に見せればいいのだ。たとえそれが思い込みであろうと。

母のいう事は絶対に効果があるだろう。

ただ、致命的な欠点を除けば。

 

「無理ですわお母様」

「無理じゃないわ」

「わたくしが、勝てるわけがない。スぺちゃんやスズカさんに、そこにピークを持ってきている二人に勝てるわけがない」

「そんなことないわ」

「慰めは結構です!! 才能がないことは自分が一番わかっています!!! そもそも、お母様だっていつも才能がないとおっしゃるではありませんか!!!」

 

皆で走った最後の有馬記念だってそうだった。

 

前で雲のようにとらえどころなく逃げるセイちゃん。

その後ろで舞うように軽やかに走るエルちゃん。

王者と言える堂々さでコースを邁進するスぺちゃん。

皆を見ながら虎視眈々とゴールを狙うグラスちゃん。

みなすごかった。

私も勝負にはなっていたと思うが、しかし並ぶことはできていなかった。

自分は結局5着で終わり、皆との差を感じてしまった。

 

悲しかった。

これだけ努力しても追いつけない絶対的な差に。

とても楽しくて、とても輝いていたのに、同時にとても悲しかった。

 

今年の春の短距離戦線はライバルになる子はいても、とびぬけた子はいない。

自分でもおそらく1勝、もしかしたら2勝ぐらいできるだろうと思っている。

だがそれだけだ。

全勝するなんて無理だし、そのあとあのスぺちゃんとスズカさんに、おそらくすべてを賭けて挑む二人に勝つなんて無理としか思えなかった。

 

 

 

立ち上がって逃げようとした私をお母様はあわてて駆け寄り抱きしめた。

 

「キングちゃん、ごめんなさい。お母様が悪かったわ」

「お母様」

「今までお母様が、間違ったことを言い過ぎたわ。でも、あなたが孤独になってほしくなかった。あなたに王になってほしくなかった」

「お母様?」

「G1を7勝、歴代最強。その称号は私に欲しいものは何一つ与えてくれなかった」

「……」

「友もいない。家族もあなた以外にいない。そんな孤独をあなたに繰り返してほしくなかった」

「……」

「学園で、お友達、いっぱいいるんでしょう? ウララさんでしたっけ? とてもいい子なんでしょう? あなたが優しく良い子になってくれて、お母様はとても満足でした」

「お母様……」

「でも、それまで私は間違ったことを言ってきてしまいました。たくさんあなたを傷つけていたわ。ごめんなさい。キングちゃん」

「おかあさまぁ……」

「お母様のことは嫌ってくれて構わない。捨ててくれても構わない。お母様が間違っていたのだから。だから、キングちゃん、自分をもう少しだけ、信じてあげてくれないかしら」

「……」

「あなたのトレーナーさんも、いろいろ考えてくれているみたいだから、きっと大丈夫」

「トレーナーさんが?」

「ええ。絶対に勝たせる、と言ってくれたわ」

「……」

「私のことは信じなくてもいい。けど、トレーナーさんを、信じてあげて」

「……わかりました」




絶対とは常に孤独である。

キングは王であるが、しかし孤独ではない。

適当にウマ娘について雑談するディスコードサーバー
https://discord.gg/92whXVTDUF
雑談したくて作りました。
気になった方はお気軽にどうぞ
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