黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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不屈の王の宝塚記念

宝塚記念まではそんなに心配する必要はない、と南坂トレーナーは言っていたが、果たしてその通りであった。

もちろん楽な勝負ではなかったが、勝てない勝負でもなかった。

 

最初のフェブラリーステークス。

中央でのダートレースは初めてだったが、ダートレース自体は模擬レースでかなりの経験があった。

いつも通りキングは中団につけたので、砂がバンバン飛んでくる。

良バ場のダートコースはいつもこれである。

これこそがダートレースの醍醐味であり他者の後ろに付けば楽になる芝コースとの違いであった。

勝負服が砂にまみれ、髪も砂にまみれながらも、直線で一気にスピードを出す。

 

今回から導入しているサポートタイツも非常にキングとは相性が良かった。

重さの分マイナスであるのは確かだが、いくら力を入れても壊れないような安心感があるのだ。

瞬発力で勝負してきたキングは、本当の全力を出せていなかったのだろう。

本当の全力を出すと自分の脚がもたないのでは、という漠然とした不安が常に無意識にあったのにキングは気づいていた。

無意識に脚をかばっていた分を、全力を出すと怪我をするのではないかという恐怖の分を、これなら無視することができた。

このほんのわずかな差が、勝負では絶対的な差になる。

すさまじく砂を撒き上げながら全身全霊でラストスパートをかけるキングヘイロー。

大外から一気に差し切った彼女は、見事初めてのG1の栄光を得たのであった。

 

その後の高松宮記念も一気に差し切って勝利

安田記念は先行策から前に出て逃げ切って勝利

遅咲きの王に、不屈の王に、皆が熱狂した。

 

そしてキングは最後の決戦に挑む。

宝塚記念。

 

最速の機能美、復活の逃亡者といわれ、大阪杯含む重賞3連勝を経て宝塚記念に挑むサイレンススズカ。

現役最多のG1、6勝 日本総大将、日本一のウマ娘といわれ、あとはグランプリが欲しいスペシャルウィーク。

この二人が出走する宝塚記念にキングも挑戦をするのであった。

 

 

 

ゴールドシップとしてはぜひ、スぺかスズカに勝利してほしかった。

キングヘイローには今回の勝負服の件でずいぶん世話になった。

だがやはり勝ってほしいのはチームメンバーであった。

 

「マックイーン。今回の宝塚記念。誰が勝つと思う?」

「キングさんが本命、リョテイが対抗ですかね」

「おいおい、チームメンバーを応援しろよ」

「ゴールドシップもわかってるでしょう? あれだけいろいろ言っていましたし」

「……まあな」

「ウサギとカメ、ですわね」

「?」

「おばあ様が昔よく読んでくれた絵本ですわ。なぜカメがウサギに勝ったか、わかりますか?」

「そりゃウサギは昼寝したからだろ」

「ウサギはカメを見ていたから、カメはゴールを見ていたから、そうおばあ様に教えてもらいました」

「……」

「スぺ先輩は誰を見ていますか? スズカ先輩は誰を見ていますか? そしてキングさんは、リョテイは何を見ていますか?」

「……」

「つまりそういう事ですわ。それが分かっているからこそ、ゴールドシップもトレーナーさんもいろいろ言っていたんでしょう?」

 

マックイーンの指摘はとても的確な説明だった。

似たような懸念は、ゴールドシップも沖野トレーナーも抱いていた。そのためいろいろとアドバイスや指摘もしていた。

だが、スズカもスぺも思い込んだら頑固なところがある。特に今回は二人とも本当に待ち望んでいた直接対決だ。あまり効果があったとは言えなかった。

 

「まあ、これで人生が終わるわけじゃあない。ドリームトロフィーもあるし、高いがいい勉強代だと思うしかないな」

 

トレーナーは最終的にこう判断していた。

本格化をしたキングとはいえ、絶好調のスぺやスズカと勝負したら多少劣るような気がするのがゴールドシップの本音だ。スぺかスズカか、どちらかしか出てこないようならば、おそらく出たのが勝つ可能性が高かっただろう。

しかし、レースとはそういうものである。

すべての終わりとなる、勝負が始まった。

 

 

 

いつものように先頭を逃げるサイレンススズカ。

そして先行策を取り2番手につけたスペシャルウィーク。

二人だけで走っているかのように、快調に飛ばす二人。

スズカにとって2200mは得意距離だ。

いつもの軽快なペースで飛ばしていく。

スぺもまた、先行策である。

普段は後方待機で差すことが多いが、シニアの頃から前に行くレースも覚えており、今回も非常に前目につけていた。

二人と後ろの距離がどんどん離れていく。

 

そもそも、阪神2200mは内回りコースであり直線が短く、前に行くレースをするウマ娘の方が有利なのである。

勝負は二人に決まった。観客も、二人も思っていた。

 

 

 

先に行くレースが有利だという事は、キングもリョテイも知っていた。

だが、実は分析をすると、阪神2200mで有利な戦法が他にもあるのだ。

大外からマクる戦法である。

レースは6月の梅雨時であり、レースも盛んにおこなわれる阪神2200mの内バ場はかなり荒れている。

一方外側は非常にきれいなバ場である。

第三コーナーからロングスパートをかけ、コーナーでの遠心力も利用して加速、一気に差し切る。

二人はこの戦法に賭けていた。

 

 

 

直線に入り、スぺとスズカは並んで競り合いを始めた。

周りに他のウマ娘はおらず、勝負は二人のどちらかに決まったように見えた。

残り200mの急勾配の坂に二人が差し掛かる。

その時に、大外からすさまじい勢いで二つの影が突っ込んできた。

 

全く周りを見ていなかったスぺとスズカに、そのマクリは完全な想定外だった。

しかも、今までの競り合いで脚を完全に使い果たし、トップスピードで突っ込んできた二人に追いすがることができなかった。

最後のギリギリで、突っ込んできた二人のうち、キングヘイローがハナ差で差し切り、宝塚記念を制したのであった。

 

 

 

限界以上の力を出し切り、酸欠で真っ青になってゴール直後に倒れてしまうキングヘイロー。

倒れたキングを支え、手を振りながらコースから去るキンイロリョテイ。

 

そんな姿を、スぺもスズカも呆然と見守ることしかできなかった。




おばあ様のウサギとカメの解釈大好きだったりします。
また、ウマ娘のアニメの基本的な考え方だと思ったりもします。

1期宝塚記念で、スズカを見ていたスぺと、ゴールを見ていたグラスちゃん
2期天皇賞春で、マックイーンを見ていたテイオーと、ゴールを見ていたマックイーン
そして次の天皇賞春で、テイオーを見ていたマックイーンと、ゴールを見ていたライスシャワー

このお話では1期宝塚記念のイベントが別イベントになってしまったので、この失敗をスぺちゃんがしていません。
結局強者であってもウサギであった二人は、弱者であってもカメであった二人に勝てなかったわけです。



この後スぺちゃんは木のうろに叫んでグラスちゃんによしよしされて、
スズカさんは練習場で左回りしてミステリーサークルを作った挙句エアグルーヴ先輩に泣きつきます

エアグルーヴ先輩が一番苦労してそうですね。
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