黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
小倉記念は8月の真夏に行われる。
蝉の声が降り注ぎ、日差しが突き刺さる中、小倉記念は開催された。
小倉レース場第6レースで行われた新馬戦では、無事マチタンが勝利し、カノープスとしても一安心であった。
えい、えい、むんっ! という謎の掛け声にはみんな対応できずにずっこけていたが、まあみんな楽しそうであった。
しかしこれは前座でしかない。
メインレースは第11レースの小倉記念なのだ。
地方のグレードスリーのレースにもかかわらず、観客は数多く詰めかけた。
ゴールドシップも最前列で、サトノダイヤモンドを肩車しながら、スズカとスぺと一緒に観戦していた。
沖野トレーナーやタキオンたちは来ていない。さすがにメイクデビューが近くなっているので、そちらの準備に専念しているのだ。
今回はメジロマックイーンが出るという事で、観客もいつも以上に多かった。
そんな中、一角にひときわ目立つ集団がいた。
ナイスネイチャの応援団だ。
地元の商店街から集まったおよそ100人ほどの集団がネイチャを応援していた。
「「「ナイスネイチャー!!」」」
マチタンも合流したその一団が声を上げる。
ネイチャは笑顔で手を振ると、投げキッスをした。
応援団は盛り上がった。
「サトイモ、今日は誰が勝つと思う?」
「そりゃもちろんマックイーンさんですよ!! マックしか勝たん!!」
「スズカはどう思う?」
「マックイーンだと思うわ。レースは水物だけど、実力的にはマックイーンが一番上だもの」
「スぺは?」
「うーん、マックイーンちゃんだと言いたいところですが……」
「ですが?」
「ナイスネイチャさんじゃないですかね?」
「なんでだ?」
三人の意見が割れるのもそうだろうとゴールドシップは思った。
サトノダイヤモンドはマックイーンファンだからマックイーンびいきだ。
それを抜いても純粋な観客として見ればマックイーンが勝つと思うのが普通だろう。
スズカはタイムトライアルみたいな走り方をする逃げウマ娘だ。
基本的に走力で実力を測りがちだし、そうするとマックイーン一択だろう。
しかしスぺは、多くのライバルとしのぎを削ってきたスぺは違う結論を出したようだ。
「だって、一人だけ闘志が違いますもん」
「闘志?」
「クラシック三冠の時のセイちゃんとか、グランプリシリーズの時のグラスちゃんとか、この前のキングちゃんとかみんなあんな感じで絶対に負けないって気持ちが見ただけであふれてるんですよね」
「なるほど」
「ああいう相手に勝てたことないんです。今日もし私がこのレースに出るとしたら、マックイーンちゃんにもイクノディクタスさんにも負ける気がしませんが、ナイスネイチャさんとはやりたくないですね」
ゴールドシップも同感だったが、一方でスズカは首をかしげていた。
スズカみたいなタイプはああいうのが相手でも問答無用でぶっちぎるのかもしれない。そういったレーススタイルの差もあるだろう。
誰の予想が当たるか、それはレースを見ればわかることだった。
ネイチャはこのレースにかなり準備を重ねてきた。
トレーニングだけでなく、それぞれの参加者への対応から、レースプランまで、完璧に詰めてきたのだ。
それだけでなく、南坂トレーナーから厳しい指示が飛んでいた。
自分を貶めるような発言、態度、考えの一切禁止である。
すぐにネガティブなことを言いがちな自分の徹底的な矯正であった。
少しでもそういう態度をとると、くっついてきているカノープスの誰かからすさまじいかわいいコールの攻勢を食らうのだ。
最近はキングとその友人に囲まれていることも非常に多かったので、ネイチャかわいいコールを連呼され続けて本当に恥ずかしかった。キングコールに慣れた彼女らのコールは声が大きいし、無駄に揃っているし、しかもパターンが豊富なのだ。108式まであるとか言い始めて全部やられた時には、本当に恥ずか死するかと思ったほどだった。
他にもウララの100%善意のエンドレス誉め言葉など、普段のトレーニングよりよほど精神的に来ることをやられていた。
恥ずかしすぎて最近は吹っ切れたネイチャは、応援団に余裕で投げキッスアピールできる程度まで成長した。
この慣れが何を意味するのかまでは結局ネイチャにはわからなかったが、レース前、案外フラットな気持ちで他の参加者を見ることができるようになっていた。
イクノはきっといつものようにただただ、走りたいように走るだろう。
逃げるあの子の後ろにつけて、2番手あたりで展開するはずだ。
逃げる彼女とイクノ以外は、おそらくマックイーンのマーク気味に入るのではないかと思う。
あれだけ走るマックイーンをあまり自由にはさせたくないはずだ。
そしてマックイーンは、それをぶち抜く気しかないだろう。
あの走法が完璧にペースに乗ってしまえば、止める方法はない。だが止めてしまえば……
勝ち筋は見えた。あとはその勝ち筋に乗るだけだった。