黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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菊の花が咲くころに

小倉記念での敗北の経験は、マックイーンをさらに成長させた。

不要な甘さがなくなりレースへ真摯になったマックイーンの成長は著しかった。

 

京都大賞典では、マックイーンは戦法を先行策に戻した。

そもそもゴールドシップのあれは、スタートがへたくそなのと、スタミナはあるが瞬発力がなくて前に行くことができないからこその走法なのだ。

スタートが得意で、スタートダッシュも得意、するすると自然と前につけることができるマックイーンには必ずしも必要な走法ではなかった。

 

京都大賞典では、同じメジロ家のメジロパーマーと先頭を争い続け、完全にパーマーを競りつぶした挙句にそのままさらに直線で伸びて圧勝を飾っていた。

弱い者いじめにすら見えるぐらいの圧倒的な勝利だった。

 

天皇賞秋もまた、圧倒的だった。

外枠で不利な状況の中、第二コーナーを曲がってすぐ大外に出たマックイーンは、なんとのこり1600m付近からロングスパートをかけたのだ。

すさまじい轟音と土煙を上げながら速度を上げていくマックイーン。

マックイーンのあの走法のつぶし方は、小倉記念から知れ渡っていた。

内バ場に閉じ込めてしまえば簡単に封印できるものであるという認識が広がっており、そう恐れるに足りないと参加者は思っていた。

だが、そんな欠点をあざ笑うかのようにマックイーンは最初から外に回ると、すぐにスパートをかけ始めたのだ。

こうなると止める方法はない。

早すぎる仕掛けに、逃げつぶれることを周りは祈ることしかできなかった。

 

だが、マックイーンがつぶれることはなかった。

メジロの歴史と誇り。

自分の意地。

観客や友人の声援。

トレーナーやゴールドシップの指導。

全てを背負い、このレースだけでも絶対走り切るという執念の走りである。

油断も何もない。絶対に勝つという意志を持ったその走りを止められるものはいなかった。

 

圧倒的な大差をもってゴールに飛び込んだマックイーン。

酸欠で真っ青になり、文字通り全力を振り絞ってふらふらになりながらも、手を振り、観客の声援にこたえていた。

 

 

 

「え、何これ、やばくない?」

 

キンイロリョテイが参加していたために天皇賞秋にも観戦に来ていたチームカノープス。

マックイーンの圧倒的な走りを見てネイチャはビビっていた。

小倉記念で勝ったし、私も少しはキラキラできるかな? なんてほんの小指の先ほど調子に乗ろうとしていた小市民なネイチャの心をへし折る圧倒的な走りであった。

 

「大丈夫、ネイチャしか勝たん!!」

 

ターボはあれを見てもご機嫌である。

凄いと思ってはいるだろうが、それでも勝つ気力があるらしい。その精神力は素直にすごいとネイチャは思った。

 

「ネイチャ、次のネイチャのレースは菊花賞で、相手はテイオーです。マックイーンの強さに惑わされないでください。やるとしても年末の有馬記念とかでしょう」

「予想以上にすぐだった。あと2カ月ちょっとじゃん」

「その前に来週の菊花賞のことを気にしましょう」

「ん、そだね」

「それに、あの走法は今回限りだと思いますよ」

「え?」

「いくらマックイーンさんが丈夫で、キングさん所のゴールドシップシリーズを着用しているといっても、あれは無茶が過ぎます。天皇賞はマックイーンさんのみならず、メジロ家の悲願でもありますから後先考えずにああいう走りをしたのでしょうが、あんなのを繰り返したら体をすぐに壊してしまいますよ。ほら、呼吸音もひどい」

「……」

 

声援にかき消えて聞こえにくいが、ウマ娘の聴力では、かひゅー、かひゅー、というマックイーンの呼吸音を捉えることができた。

手を振るマックイーンに駆け寄ったゴールドシップが慌ててマックイーンを抱えて本馬場から退場するのを見ても、限界以上の走りをしていたのだろう。

今回だけの方法である、と言われても納得ができた。

 

「さて、私は申し訳ないですが、マックイーンのところに行ってきます。あんな無茶なことしたお仕置きをしないといけないので」

「お仕置き?」

「人工呼吸から体を洗ってあげて寝るまで添い寝する予定です」

「……まあ、がんばって」

 

すさまじいのろけを見せられたネイチャはどういう表情をしていいかわからずに、イクノを見送った。

ひとまずは目の前の菊花賞、そしてテイオーとの対決である。

ネイチャは気合を入れなおした。


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