黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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京都レース場11R 芝3000m 菊花賞 パドック

この年の菊花賞はある種異様な雰囲気に包まれていた。

絶対強者であるトウカイテイオーの一強、そして三冠が確信されていた。

 

ここにメジロマックイーンがいれば、まだ勝負になっただろう。

彼女は先週の天皇賞秋に参加し、見事勝利している。

その圧倒的な強さに、菊花賞に出ていたら、という事を考えるファンも多かった。

 

そんな感じで、結果が見えたレースと一般的には思われていた。

 

 

 

三番人気になったナイスネイチャも、その異様な感じを感じていた。

観客数自体は非常に多い。

10万を超えていそうな感じで、観覧席は満員である。

観客席のほとんどがテイオーファンのようであり、この人たちはテイオーの三冠を見に来ているのだろうな、とびりびりと感じる。

そんな無言の圧力で、萎縮している参加ウマ娘もいるようである。

 

そんな中でもネイチャは比較的落ち着いていた。

確かに大多数はテイオーのファンなのは間違いない。

しかしネイチャも三番人気なのだ。この中の一部。もしかしたら1割もいないかもしれないが、それでも数千ぐらいはネイチャのファンがいるのだ。それはすごい数だと素直に思った。

大きなテイオーコールにかき消され聞こえにくいが、それでもネイチャを呼ぶ声は確かに聞こえていた。

その人たちのためにも、頑張ろうと決意を胸に秘めるのであった。

 

 

 

ゴールドシップとマックイーンは、サトノダイヤモンドとキタサンブラックを連れ、菊花賞に観戦に来ていた。

きっかけはサトノダイヤモンドからのお願いだ。

さすがに小学生二人きりで、京都まで観戦に来るのは親から許可が出なかったらしい。

サトノダイヤモンドはテイオーにはあまり興味はないが、キタサンブラックは熱狂的なテイオーファンだ。

どうしても生で見たいとおもっているのをサトノダイヤモンドが察して、ゴールドシップとマックイーンに引率をお願いした形である。

 

という事で今回はカノープスと離れた位置で観戦をしていた。

マックイーンがサトノダイヤモンドを、ゴールドシップがキタサンブラックを肩車している形である。

人が多いので、ちびっこ二人が良く見えるように、肩車をしていた。

 

「ちなみに今日は誰が勝つと思う?」

「テイオーさんです!!」

 

テイオーファンのキタサンブラックは即答した。

まあその気持ちはわからなくもない。

二番人気のリオターナルは日本ダービーでテイオーの2着

三番人気のナイスネイチャは夏から上がってきたウマ娘だが実力は未知数。

絶対的な強さを誇っているテイオーに対抗できないと考えるのも不思議ではないだろう。

 

「ネイチャさんです!!」

 

それに対抗してサトノダイヤモンドが声を上げる。

サトノダイヤモンドは熱狂的なマックイーンファンだ。

だから、そのマックイーンに小倉記念で勝利したナイスネイチャを推すのだろう。

 

二人でぐぬぬぬ、とみあっている下で、ゴールドシップはマックイーンに聞いた。

 

「マックイーンはどう思う?」

「ネイチャさんですね。身びいきや負けたことを差し引いても、テイオーがネイチャさんに勝てるとは思えません」

「なんでですか! テイオーさんのほうが速いです!!」

 

マックイーンの意見にキタサンブラックが嚙みついた。

実績から言っても、今までのタイムから言ってもテイオーの方が上回っている。

だからこそ、テイオーが負けるというのが納得できないのだろう。

 

「説明が難しいところですが…… ネイチャさんの目ですね」

「目?」

「カノープスの南坂トレーナーは昼行燈に見えて切れる人です。きっと今回も勝ち筋を考えているのでしょう。ネイチャさんの態度からもそれが見えます」

「それで?」

「テイオーの走りに対する姿勢はホープフルステークスと変わりません。周りを見ていない、あこがれだけのふわふわした走りです。それは単調で非常に読みやすいでしょう。勝ち筋が見えているなら、テイオー相手ならまぎれることもまずないでしょう」

「じゃあどうやって勝つんですか! テイオーさんみたいにすごい勢いで逃げるウマ娘にどうやって追いつけるんですか!」

「それは私にはわかりません。あとは結果をご覧じろ、ですね」

「むぅ」

 

キタサンブラックは納得がいっていないようだがまあしょうがない。マックイーンの言ったことは的確な部分はあるが、答えは示していない。

どうやって勝つのかわからない以上、それを正解とは認めがたいだろう。

 

「ゴールドシップさんはどう思いますか?」

「見ている限りテイオーはネイチャを警戒していない。マックイーンに勝ったウマ娘ということで警戒していたならできないが、そうじゃないならアタシでも思いつく手は一つあるな」

「なんですか?」

「まあそれは、見てりゃわかるさ。あの南坂トレーナーのことだ。もしかしたらもっと違う手を考えているかもしれねーから、ここでしゃべって外すと恥ずかしいし」

「ぶー」

 

ゴールドシップの頭上でキタサンブラックが膨れた。

ゴールドシップが焼きニンジンを差し出すと、キタサンブラックはもぐもぐと食べ始めるのであった。


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