黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
ただ、表現上名無しは厳しいので、トレーナーさんの名前は広く使われている声優さんの名前からとった沖野と設定しています。
沖野トレーナーは悩んでいた。
今日、また2名のメンバーが辞めた。
残り2名もすでにほかのチームに移籍するべく、加入テストを受けたり他のトレーナーと交渉したりしている。
最近の流行と自分の指導方法がまるで違うのは理解していた。
厳しく鍛えて強くする、という方法が間違っているとは言わない。
だが、それに合うウマ娘もいれば、合わないウマ娘もいるのだ。
だからこそ合わないウマ娘を見つけては勧誘して加入させていたが、彼女らにとってトレーニングとは強制されるものなのだ。
自分で考えてトレーニングする、という方法が彼女たちにはわかりにくいようだった。
だからしょうがないのだ。
メンバーが0人になったら、才能がなかったと思ってあきらめよう。
チームをたたんで、実家に帰って農業でも継ぐことを決意していた沖野トレーナーの視界に、いきなり蹄鉄付きの靴底が飛び込んできた。
「ゴルシちゃんきーっく!!」
「ごはぁあ!?」
「よし、100点満点だな!」
「何が100点満点だ!?」
「む、入りが浅かったか。もう一発、行っておく?」
「いらねえよ! なんだよ一体!」
「ゴルシちゃん、スピカに入ることにしたから。ここにサインしてくんねーかな」
「え?」
「すきありー」
ゴールドシップは沖野の手を取ると、出ている鼻血を親指につけさせて、そのまま拇印を申請書に押させた。
あとはこれを提出すれば、晴れてゴールドシップはチームメンバーである。
「ちょ、ちょっと待て、ゴールドシップといったな。なぜうちに入ろうと思ったんだ!?」
「そうだな、あんたのトレーニングを気に入ったのが一つ、ワンコ娘を引き抜いても許されそうなのが一つ、だな」
「ワンコ娘?」
「リギルのサイレンススズカ」
「お前、何考えてるんだ!?」
「いいだろー、リギルにはあれだけチームメンバーがいるんだから一人ぐらい」
「ペットを飼うようなノリで他のチームのメンバーを求めるな!」
「あ、後マックイーンも誘うからよろしくな」
「マックイーン? メジロマックイーンか!?」
「そうそう、あたし含めて美少女三人だ。うれしいだろう?」
「はぁ…… まあいい。来る者は拒まないのがスピカのモットーだ。で、ゴールドシップといったな」
「ゴルシちゃんでもいいぜー。長い付き合いになりそうだからな」
「おまえ、なんだ?」
苦笑していたのが一転、真剣な表情になる沖野に、ゴールドシップも怯んだ。
何に気づかれた?
どこまで気づかれた?
焦る気持ちがあふれ出てくる。だがそんな焦りは表情に出さずに笑顔で対応する。
「ゴルシちゃんは未来から来て、みんなを幸せにする愛の使者なんだZE♪」
「なるほど、で、何が起きるんだ? いや、聞いても意味が無いか」
「トレーナーのいう事はわかりにくいんだZE♪ ゴルシちゃんにもわかるように説明してほしいんだZE!」
「ゴルシ、お前、三女神様に導かれてここに来たんだろう?」
「……」
まさかそこまでばれるとは思っていなかったゴールドシップは押し黙った。
これ、ばれていいことなのだろうか。
それすらゴールドシップにはわからない。
ここで黙るのは肯定に等しいのだが、今まで荒唐無稽すぎてばれないだろうと油断して、ばれることを想定していなかったゴールドシップは黙るしかできなかった。
「とって食おうとしてるわけではないんだから、そんな不安そうな顔をするなよ」
「してないZE♪ ちゃんと説明するんだZE!」
「精霊ウマ、っていうんだがな。何十年に一度、三女神様の加護でいきなり現れるウマ娘がいるんだよ。彼女たちは皆、ほかのウマ娘達を助ける存在だといわれている」
「そんな話、聞いたことないぞ?」
「専門的過ぎるマイナーな神話だからな。だが、記録上存在が証明されているものでもある。伝承ではどこから来たかは不明だが、未来から過去へ訪れている、と予想はされているがな」
「……」
ゴールドシップは気まぐれゆえに優等生ではないが、成績は優秀であった。
スタート以外は何でもできる、の何でもに勉学だって含まれているのだ。
もちろんウマ娘神学だって、一通り知っているが、それでも全く知らないぐらいマイナーな話だった。
しかし、ゴールドシップがそういう存在だと、なんでわかったのだろうか。
そんな疑問が顔に出たのか、トレーナーはすぐに答えた。
「お前さんぐらい良いトモをしたウマ娘のこと、俺が知らないはずがないからな。だからすぐに分かった」
「少女の太ももを見て欲情するなんて変態だな、トレーナー。もう一度蹴飛ばしてやろうか」
「すまん、怯えさせるつもりはなかったんだ」
「まあいいってことよ、でトレーナーはゴルシちゃんから何を聞きたいんだ?」
「本当はすべてを聞きたい。ただ、それは意味が無い」
「意味が無い? ゴルシちゃんに協力できないってことかよ!!」
「そうじゃない。最大限お前には協力してやる。そうじゃなくて、お前が未来のことを語っても、俺には聞こえもしない、という事だ」
「……?」
「ひとまず何でもいい。未来のこと、話してみろ」
「私の最初の目標は、サイレンススズカの死亡を避けることだ。天皇賞秋レース中に、サイレンススズカは転倒事故を起こし、全身打撲で死亡する。それを避けたいんだ」
「……」
「トレーナー?」
「ゴールドシップが真剣に何かを語ってくれたのは表情からわかる。だが、何を今言ったか全くわからなかった」
「!?」
「カサンドラの呪い、とも言われてる現象だ。全く理解できなくなるというからどんな風に認識されるのか興味があったが、まさか気味の悪い雑音にしか聞こえなくなるとは思わなかった」
おいおいおいおい、縛りがきつすぎないか?
未来から来たなんて言うのが突拍子もなさすぎて信用されにくいのに、未来のことは聞いてもらえないとかひどすぎる。
先ほどトレーナーが言った意味が無い、という意味がゴールドシップにもわかった。
「トレーナー! なんでだよ! もっとちゃんと聞けよ!!」
そういって事細かにゴールドシップは説明を始める。
協力者ができそうなのだ、情報共有したいのだ。そして、あの惨劇の世界線を変えたいのだ。
だが、いくら話してもトレーナーは聞き取れないようだ。むしろ頭痛を堪えるような表情をし始めた。
気味の悪い雑音、とトレーナーはさっき表現した。聞こえない、だけでなく、聞くのが苦痛でもあるのだろうことに気づいたゴールドシップは話を止めた。
「……」
「すまん」
「なんでだよぉ、わたしは、マックイーンを、イクノ先生を、みんなを助けたいのにぃ……」
未来で、ゴールドシップがトレセン学園に入学したとき、ゴールドシップのことを複雑な目で見る者は多かった。
髪型を変えて、帽子をかぶり始めたらそういう目がなくなったのであまり気にしなかったが、過去にきてその意味が分かった。
ゴールドシップを見て、皆、その後ろにメジロマックイーンを見ていたのだ。
それくらい、自分とメジロマックイーンの外見はそっくりだった。
体格は全く違うが、顔がそっくりだ。
イクノ先生なんか、元恋人だったなんて言う話だから余計複雑だったのだろう。
だが、誰もマックイーンを責めるようなことはゴールドシップに言わなかった。
悲しい顔をして、少しだけ、過去の話をしてくれた。
だからそんな過去を変えたかった。
文字通り命を賭しても変えたかった。
そのために、誰かに手伝ってほしかった。
やっと手伝ってもらえそうな相手ができたのに、これはひどすぎる。
涙が出て止まらない。
「ゴールドシップ」
「……」
「お前を手伝ってやる。肩を並べることは、俺ではできないのだろう。でも、後ろから背中を押してやることはできるはずだ」
「……トレーナー……」
「だから、頑張ってくれ……」
「……がんばる」
トレーナーの優しく頭を撫でる手は、亡くなった父を思い出させた。
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誤字指摘が2回来たので
トモはトモであっています。モモではありません。
競走馬の後躯のうちの腰部、臀部、後肢のことをトモといいます。ウマ娘では太ももをトモといいます(アニメだとスペチャンのトモをトレーナーさんが2回も触っていましたね)
今後スピカに加わってもらいたいメンバーは?(補足は活動報告へ)
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蹴りたいトセジョさん&きれいなシチーさん
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不屈の帝王 トーカイテイオー
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不撓の王・高貴な雑草魂 キングヘイロー
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うーららーん! ハルウララ
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朝はパン派 ライスシャワー
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イマジナリフレンドならアドマイアベガ
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ウマ娘最小ニシノフラワー
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やっぱりメジロマックイーン
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メジロはメジロでもライアン
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私服のセンスが光るメジロドーベル
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パーマーのこと忘れてない?トレーナー?
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その他ー活動報告へ