黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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閑話:タキオンとダスカとウオッカのジュニアクラス

アグネスタキオンとダイワスカーレットとウオッカは、同じタイミングでデビューをした。

皆てっきりタキオンはデビューしないまま終わるのかと思っていたが、タイツの件もあって非常にやる気満々であった。

 

メイクデビュー自体は1度したら止められないが、学園所属中ならいつでもできる。

なので、デビューした時にかなり年齢差があることも珍しくない。

既に社会的な地位まで確立しているタキオンは最年長のデビューだった。

 

タキオンの強さは絶対的だった。

メイクデビューは圧倒的な差で勝利。そのあとの重賞も勝利して、次は年末のG1を目指していた。

スカーレットもウオッカもそれぞれメイクデビューで危なげなく勝利し、OP戦にも勝ったため同じく年末のG1を目指すことになっていた。

問題は、三人がそれぞれどのG1を目指すかというところだった。

沖野トレーナーと三人が、その調整の話し合いをしていた。

 

「私はホープフルステークスかな。短いマイルよりも、長い距離の方が正直好みだ」

 

ジュニアクラスのG1は3つある

朝日杯フューチュリティステークス 中山レース場芝1600m

阪神ジュベナイルフィリーズ 阪神レース場芝1600m

ホープフルステークス 中山レース場芝2000m

の3つである。

 

タキオンは2000mのホープフルステークスを狙いたいようだ。

適性的にも長い方がいい脚が使えそうなので、それは構わないだろう。

しかし他の二人がそれに思いっきり流された。

 

「じゃあ私もホープフルステークスがいい!!」

「スカーレットずりぃぞ! 俺もホープフルステークスがいい!!」

 

タキオンがホープフルステークスを選ぶと言った瞬間二人ともホープフルステークスに出たいと騒ぎ始めたのだった。

 

「なー、トレーナー、いいだろ?」

「私が先よ! トレーナー、良いでしょ?」

 

沖野に縋り始める二人。

沖野は悩んだ。

チーム的には三人が分かれてレースに出た方がいい。

一つの席を取り合うのは避けたいというのが通常だ。

また、適性の問題がある。

体が完全に出来上がっている上に適性が長めのタキオンはホープフルがベストだ。

一方まだ成長途中な上に適性距離が短めな二人は、マイルの方がよさそうなのだ。

とはいえ、これらが根本的な原因ではない。

 

「タキオン、お前とスカーレット、ガチ勝負してどこまで脚がもつ?」

 

一番の不安は二人の脚部不安であった。

 

体質改善に道具の改善で、故障の可能性はかなり減っている。

だが一方で、ウマ娘の体の解析もかなり進んでいて、個々人の脚部不安の有無も数字的にわかるようになりつつあった。

昔の様に触って確かめるなんて言う職人芸をする必要はなくなっている。

だからこそ、どこまで丈夫か、というのまで白日の下にさらされるようになっていた。

 

スピカの場合、スぺやウオッカは体が非常に丈夫だ。多少無茶をしても全く問題ない丈夫さである。

スズカも基本丈夫である。あんな大怪我した理由はいまだよくわからないぐらいだ。

マックイーンは速すぎて脚部負担が強く多少不安な部分があるが、体格を増して強化しているしゴールドシップが慎重に見ているからおそらく大丈夫だろう。

問題はタキオンと、あとダイワスカーレットだった。

体質的に、二人とも筋肉や腱の強度に不安がある。人並み程度の強度はあるのだが、それ以上に脚力が強すぎるのだ。あまり本気で走り過ぎると、屈腱炎や蹄靭帯炎などを引き起こす可能性が高い、というのがタキオンの率直な分析だった。

 

現状、レースでは二人とも逃げ目の先行策で走らせて、極端な負荷が起きないようにしている。

脚をこまめに使って、速度に急激な変化を起こさないようにすればその分脚部負担は減るのだ。

だが、おそらく三人を同じレースに出せばそんな調整をしながらのレースはできないだろう。

スカーレットの性格上、ウオッカやタキオン相手なら絶対に燃える。

そうなれば全身全霊を以て走ってしまうだろう。

タキオンも冷静に見えて負けず嫌いだ。

おそらく二人と走れば全力以上の力を出してしまうだろう。

三人はおそらくこれから何度もぶつかる。

避けられる対決は、できれば避けたいところだった。

 

「まあ、そこまで不安に思わなくても大丈夫だと思うよ。それに怪我して走れなくなっても、わたしは本望…… すまない、トレーナー君。不謹慎だった」

 

怪我してレース場で倒れても本望である、というのはタキオンの本音だ。

しかしそれだけは言ってはいけなかったとタキオンは途中まで言って察した。

スズカの時だってあそこまで憔悴していたトレーナーだ。

他の全ては許容しても、怪我だけは許容できないだろう。そのことをトレーナーの無言の圧力から思い出したのだ。

どうせ3人で競うレースはまだいくつもあるのだ。そう思ったタキオンは今は折れるところだろう。

ならばあとは二人の説得だ。

 

「ウオッカ君」

「…… しゃーねーですね。じゃあ俺はジュベナイルに回ります。差すのを考えたら直線が長い阪神の方がいいです」

 

阪神の1600mコースは外回りであり、直線が470mもある。コーナーも大きいので差しに向いたコースであった。

ちなみに阪神の2000mは内回りなので差しには不向きである。

トレーナーの言いたいことも察したウオッカは早々に自分が折れることにした。

 

「スカーレット君」

「……」

「スカーレット君?」

「ぶー」

「ね、スカーレット君」

「ぶー」

 

スカーレットはどうしてもホープフルステークスに出たかった。

タキオンと勝負したかった。

でもトレーナーの心配もわかる。

何よりウオッカがあきらめたのに、自分がわがまま言うのは死ぬほどかっこ悪い。

ここで駄々をこねるのも死ぬほどかっこ悪い。

適性的にもフューチュリティステークスの直線の短い中山1600mが適当なのはわかっている。

でもどうしてもうんとは言えなかった。

 

「トレーナー君、スカーレット君の説得は私でするから、後はよろしく頼むよ。レースの参加手続きもそのまましておいてくれ」

「ぶー」

「ああ、わかった」

 

ぶー垂れるスカーレットを担いで、タキオンはチームルームから出ていった。

トレーナーは苦笑するしかできなかった。

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