黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り   作:雅媛

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閑話:何をするべきか

メジロ家の屋敷の中には、メジロ家に連なるウマ娘しか入れない場所がある。

敷地の一角にある倉庫なのだが、重要なものが隠されているといわれるそこは、当主の許可なく入ることはできない。

 

精霊ウマ娘について調べるために、マックイーンはそこに行くことにした。

とはいえ、マックイーンだけでは全く心もとない。

基本マックイーンは脳筋であり、頭脳労働は苦手なのだ。

なのでイクノディクタスとキンイロリョテイを巻き込んだ。

 

メジロに連なるものではないが、イクノは将来を誓い合った仲だという事で押し通し、さらにキンイロリョテイは自分たちの娘婿だという事で押し通した。

おばあ様は複雑な表情をしながら、二人が入ることを許した。

 

 

 

リョテイは憤慨していた。

なんだ娘婿って。娘もまだいないのに娘婿って意味わからないだろう。

 

マックイーンとイクノの仲は正直傍から見ていてうんざりするほど良いのだし、二人が将来を誓い合った仲だというのはまんざら嘘でもないだろう。

というかウマ娘は恋愛に関して本能が働き基本一途で相手を変える事はめったにない。マックイーンとイクノが別れるなんてリョテイには全く考えられなかった。

だからそこに自分を交ぜるな。リョテイは言いたかった。というかメジロの総帥の前で普通に全部叫んだ。

 

だがイクノの冷静な分析がさく裂した。

目の色から髪の質、表情の同一性、さらにゴールドシップのリョテイに対する態度や呼び方を録画した記録映像まで、リョテイの叫びを全く無視した冷静な説明で、メジロの総帥を説得したのだ。

彼女がリョテイを見る訝しげな表情は気のせいではないだろう。

ついてこないで適当に時間を潰せばよかったとリョテイは後悔した。

 

 

 

蔵の中は整理整頓が全くされていなかった。

ひとまずイクノとリョテイは、書類関係をあさり始める。

古文書的な文書には、見慣れない神聖ウマ娘文字で書かれているものが散見された。

 

「うーん、まったくわかりませんね。リョテイはわかります?」

「まあ、辞書を見ながらならば……」

 

ネット上の辞書を見ながらリョテイが読解を始める。

イクノはこう言った古代文字は一切分からなかったため、もう少し新しそうなものや読めるものに当たり始めた。

マックイーンは、歴代の勝負服からおそらくかなり古いモノであろう、巫女服を見つけ出し着替えていた。

 

 

 

古い文書群をうんうん言いながら翻訳するリョテイ。

比較的新しい文書群をまとめるイクノ。

そして虫干しと称してファッションショーをしているマックイーン。

一人だけ戦力外の中、調査は進んでいく。

夕方までの時間で一通りまとめた後、3人はおばあさまのところに戻るのであった。

 

「あら、三人とも可愛らしいですね」

 

戻って最初のおばあ様の感想がこれであった。

マックイーンに駄々こねられて、三人とも昔の勝負服らしい巫女服を着ていた。

動きを阻害しないためか紅袴の丈が異常に短いし、肩出しだし、露出が多くて結構恥ずかしい格好だ。

マックイーンとイクノはノリノリだが、リョテイは死にたくなりつつあった。

 

「それで、何かわかりましたか?」

「断片的な情報ならそれなりに。ただかなり推論が入るな、こりゃ」

 

メジロ家に保管されていた文書は参考になる記載が多くあった。

だが、当たり前なのだがまず用語から統一されていない。

精霊ウマ という表現の他に 巫女 やら 神子 やら 運命のウマ娘 やらいろいろな表現がされている。

さらに比喩表現なのか、一般的な職業を指しているのか、それとも同じものなのかもわかりにくい。

情報は増えたが結局多くを推論で埋めないといけない状況であった。

 

「確実なのはほとんど60年周期、丙午の年に現れる現象だな。んで、大体5年ぐらいいて、最後はいなくなる。これが共通の現象みたいだ。あとは、女神様から、ウマ娘達を救うとか、未来を変えるとかお告げがあったという記述がいくつかあったりもした。このあたりが共通項だ。イクノの方は何かわかったか?」

「こちらは結局大したことが書いてなくて何もわかりませんでした。ただ、それでは何かと思って海外の事案をインターネットで探してみたのですが…… 都市伝説レベルで似たような言い伝えがあるらしいのは見つけました。未来から来たウマ娘がみんなを幸せにして最後は消える、という話です」

「マックイーンは?」

「イクノさんの巫女服かわいいですね」

「全く役に立たないのはわかった」

「リョテイもかわいいですよ」

「はいはい、ありがとう」

 

約一名まるで役に立っていないのがよく分かった。

 

 

 

「で、ここからは、精霊ウマが何らかの方法で未来から来たと仮定した場合の仮説だ。タキオン研究所でタキオンとデジタル主導で、未来から来たウマ娘がどうなるか、でけえコンピューターつかってシミュレーションしてもらったんだ」

「それって可能なんですか?」

「わからん。変数が多いからモデルが数パターン出来てしまったって言ってたがな。でまあ、数年かかると消えるというモデルがこれってわけだ」

 

リョテイが取り出したのは厚さのあるペーパーだった。

イクノが受け取り読み始める。

 

「未来から来た者は世界にとって異物なわけだから数年で弾き出されるらしい。で、その弾き出された先だが、何もしていなければ元のところに戻るようだな」

「ふむ。戻るんですね」

「あるように修正されるはずだから、元の場所に戻ろうとする力が働くらしい。だが、大きく未来を変えると、帰る場所がなくなって、世界から消えてしまうようだ」

「なるほど」

「ちなみにあの、ゴールドシップはどれだけ未来を変えたと思う?」

「……」

 

他の全員が黙った。

未来がどれだけ変わったか、なんていうことは全く分からない。

だが、ゴールドシップが成したことは数多い。

すでにかなり変わっているのではないかと予想された。

 

「で、解決方法は? あなたのことだからそこまで考えているんでしょう?」

「世界から全部消す、というのはそれはそれで大変なことだ。痕跡ひとつ残らず、なんていうのはかなりエネルギーが必要になる。だから、逆にたくさん爪痕を残せばいいんじゃねえかっていうことは考えられるな」

「ふむ」

「消し切れないほど、ゴールドシップのことを世界に刻めばいい。そうすればおそらく、未来に戻ったどこかにねじ込めるはず、というのがタキオンやデジタルの予想だ」

「中途半端じゃなく、ひどく変えてしまえと言う事ですか」

 

乱暴な理屈だ。

未来を変えれば未来で居場所がなくなる。だが今をとんでもなく変えてしまえばその痕跡を消し切れず、どうにかなるだろうという話のようだ。

 

「あんまりこういう賭けは好きじゃねえが、わかんねーもんはやってみるしかねー。正直時間的にそう余裕があるもんではないだろうからな」

「確かにそうですね」

 

マックイーンがゴールドシップに出会ったのは入学の時だ。

あれから4年弱。5年程度というならそう時間が残っているわけではない。

 

「それにメジロのばーさんも、その方針で動いてるんだろ?」

「そうですね……」

 

ゴールドシップの公的な肩書はかなりの数がある。

スピカのサブトレーナーだけだったはずだが、トレセン学園の外郭団体で研究部門に昇格したタキオン研究所の所長、トップはアグネスタキオンではなくゴールドシップだ。

他にも高知トレセン学園の理事長職も名目上ゴールドシップにしている。

どちらもメジロから大幅出資している場所なのでそういった地位をねじ込んだ形だ。

肩書だけでなく、どちらでの活動でも大幅にゴールドシップは動いている。特に広報関連ではゴールドシップのほぼ独壇場である。

ユーモアあふれるキャラクターでもあるのでかなり知名度の高いウマ娘として一般的に知られていた。

 

「じゃあ私も頑張りませんと」

 

マックイーンが気合を入れる。

マックイーンのトレーナーとなっているのがゴールドシップだ。

この前の天皇賞秋の優勝でメジロ家の悲願の達成と報道された時、トレーナーとして一緒にインタビューを受けていた。

スピカのチーフトレーナーである沖野トレーナーには申し訳ないが、今後もゴールドシップをプッシュしていくために、勝つ必要があると気合を入れなおした。

まずは春の三冠。続いて秋の三冠、最後にはそのまま年始のウィンタードリームトロフィーであの皇帝をぶちのめして優勝する。

そんな覇道をマックイーンは目指し始めるのであった。




リョテイは、メジロのおばあ様にロリコンだと思われたと思っていますが、
メジロのおばあ様がリョテイを見る目は、ああ、この子が私の子孫に押し倒される被害者なのね、という目です。
メジロの血がどういうものか、おばあ様はよくわかっています。

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