黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り 作:雅媛
スイーツで脳筋なメジロマックイーンだが、当然練習には非常に真剣である。
ちょっとやり過ぎではないかというぐらいトレーニングをしており、空いている時間にかなり一生懸命スイーツを食べさせないと体重が減ってしまう程度にはハードなトレーニングをしていた。
怪我が心配になってしまうのでしょっちゅう健康チェックをするレベルだったが、そんなマックイーンのトレーニングをうわ回るほどのトレーニングがトウカイテイオーのトレーニングだった。
一応定期的にタキオン研究所で健康診断を受けているので、心配になって聞いてみたが、今のところ怪我の心配はないらしい。
関節の柔軟性が尋常ではないため、非常に怪我をしにくいのだとか。
ただ、今までのトレーニング内容はかなり偏っているのもあるため内容を多少削り、また変更することにした。
「ターボが勝つから!!」
「あはははは……」
マシーントレーニングの周回数を減らし、追加されたそれは併せウマである。
今までテイオーのトレーニングはマシントレーニングメインであった。
マシントレーニングは筋肉を増やしスピードやスタミナ、パワーを増やすのには非常に効果的で、また、走って同じだけ鍛えるのに比べて負荷がちいさいので、大半のチームが利用するトレーニング方法である。
だが、テイオーは、そしてルドルフもそうだったらしいが、ほとんどがマシントレーニングで鍛えていたらしい。
未来でもあった方法だが、欠点が二つほどあった。
一つはバランスが崩れやすい。部位ごとに鍛えるので、一部が過剰に鍛えられたり、一部が全く鍛えられなかったりする。そのバランス調整が非常に難しいのだ。
もっともテイオーもルドルフもそういうバランスの崩れは見られないので、よほど良い調整をしていたのだろう。
もう一つは勝負勘がどうしても鈍るのだ。
走って競うことは、確かにフィジカル的にはマシントレーニングに劣るところが多いが、メンタル的な問題で言うと競走意欲が落ちていく。
それでも勝ててしまうルドルフやテイオーが異常なのだ。
だがそんな異常な状態にしなくても、多少併せて走るだけでいい感じにできるはずである。
という事で併せウマにカノープスからツインターボを借りてきた。
スピカで手が空いているのはスズカぐらいしか今のところいない。
そしてスズカは最初からクライマックスといわんばかりの大逃げで、正直まったく併せられない。あれについていくのはスぺぐらいだ。
ターボも似たような脚質だが、授業はテイオーと同じクラスだし実力差的に、併せるのにちょうどいいだろうとゴールドシップは考えていた。
それに、きっといろいろ学べることは多いだろう。
距離はウッドチップトラックを1周。約1600mである。
よーい、ドンで走り始めると、ターボは一気に最高速に達し大逃げを始めた。
圧倒的スピードで逃げていくターボ。その速度はスズカにも劣らないだろう。
だが、その速度は一周全部は持たなかった。
大体第三コーナーに入ってきたころにはもうバテバテのヘロヘロである。その時点で大きいときは20バ身以上あっただろう差は、直線に入るともう5バ身ぐらいに詰められていた。
最後の直線で追い上げるテイオー。
ウッドチップコースなんてろくに走ったことなさそうなのに、きれいに走るそれは本当に天才的である。
そうして残り200mを切ったあたりで、テイオーはターボに並んだ。
そのままテイオーはターボを突き放すと思いきや、ターボは必死に食いついてくる。
結局ターボはテイオーの末脚に死ぬ気で付いていき、そのままほとんど並んでゴールに飛び込んだ。
ぜーぜー、と荒い息をするターボに酸素缶を注入して呼吸を整えさせるゴールドシップ。
テイオーは意外そうな顔をしてターボを見ていた。
クラシック戦線でもターボのことは見たことが無い。クラスで時々見ていた程度の記憶しかない彼女に最後に粘られ並ばれたのが非常に意外だったのだ。
少し呼吸が落ち着いたターボを抱え上げてからベンチに座らせ、ゴールドシップはテイオーのところへとやってきた。
「どう思いました?」
「簡単に抜けると思ったのに、全然抜けなかった。なんでだろう」
「気持ちの差かな」
「気持ち?」
「ターボちゃんは力を使うのがとても上手いウマ娘ですから」
「?」
「人はだれでもそうですが、後先考えない全力を振り絞るって難しいんですよ。ターボちゃんはそれが上手ですからね」
「よく、わかんないかも」
「今、ターボちゃんは歩くのもつらいほど力を振り絞りました。テイオーちゃんは歩く余力が残っているし、何なら後半周ぐらいは走れると思うけど違う?」
「そうだね」
「ターボちゃんは足りない速さをその余力で埋めたっていうことですよ」
テイオーもなんとなくわかった。
さっきの自分の走りは油断したりしたわけではないが、本当に100%全身全霊をもって走ったものかといわれると確かに疑問だ。
そういった力を振り絞った差が先ほどの接戦ならば…… 確かに単純な実力ではないところで勝負が決まることもあるだろう。
「じゃあボクももう一周走ってきます」
「え、ちょっと!?」
そう言われるとテイオーは本気で全力を振り絞ったことが無い気がした。
ホープフルでマックイーンに負けたときも、菊花賞でネイチャに負けたときも、どこかにまだ余力があった気がした。
一方でマックイーンもネイチャも、勝ったとは思えないぐらいよろよろになっていた記憶がある。
二人が持っていて自分が持っていないものがある。ならばまずは練習だ。それを手に入れないときっと二人には追い付けない。
この一周で全力を使い切るつもりで、テイオーは走り出すのであった。
そうして全力で走ってガス欠を起こしたテイオーは、第三コーナー真ん中あたりでよろよろと倒れた。
慌ててゴールドシップが拾いに行って介抱したが、テイオーはどことなく満足そうだった。