真っ白な真っ白な空間。そこに居た神様と名乗る名状しがたきもの。そして、速攻でSANチェックに失敗した。なんてことはなく、声だけ聞こえてくる。まあ、内容は至って簡単でテンプレなので、速攻流す。簡単に言えば殺しちゃったから転生していいよ。というだけの話なのだ。
『世界はソードなアートの世界だ』
「……特典は?」
確か、アニメでしか見てないんだよな。小説は読んでないし。
『ない』
「……」
『容姿は指定させてやろう』
「じゃあ、画像で見ただけだけど髪の毛の長い方のキリトで」
『良かろう』
「先生、身体能力か、せめて成長だけどうにか出来ませんかね? 努力するんで。あと、ナーヴギアでいいんで、VRの練習空間が欲しい」
『まあ、適当に能力はくれてやろう。貴様の行動次第だ。それと練習空間に関しては構わない。以上、さっさと行って来い。他の奴もさっさと行かせたからな』
そんな感じで転生させられた。そう、
転生してからは基本的に主人公と同じように過ごした。そう思った? 残念でした。子供の頃から必死に身体を鍛えて鍛えて鍛え抜いた。練習空間は眠ってるような感じになるので、そこで弾避けゲームをするのだ。クロウと同じ、銃弾の回避ゲームだ。4歳の時から始めたお陰で5歳から習わされた剣道は結構楽勝だった。成長チートを貰えた事を信じてひたすら訓練を積んでいく。来るべきSAOで生き残ってアスナ達とイチャイチャする為に。
そして、2022.5.03、春。大手メーカーアーガスがソードアート・オンラインを発表、βテストを開始。そのβテストの応募をしたら……落選した。続いて製品版……惜しくも目の前の奴で売り切れ。
「おいっ!?」
「残念だったな」
俺の前に並んでいた銀髪の奴に持って行かれた。主人公なのに何もできない。入手出来なかった物は仕方ないのでSAOを無視して訓練を続ける事にする。既に日課になっているのだから。あと、母さんの伝手を使ってモデルの仕事もしている。髪の毛の長い方のキリトの容姿なのでモデルのお仕事もバッチリできる。
そんな訳で勉強と訓練を頑張って高校に進学した。直葉との関係? 妹に手を出せません。むしろ、剣道でボコボコにしてますが?
高校生になって少ししたが、勉強なんて既に終わっている。訓練と勉強だけを効率的にしていたので友達も居ないし、時間はいっぱいあるのだ。そんな訳で映画の撮影やらなんやら仕事をいれまくっていたら見事に留年しちまった。いやはや、計算上はギリギリだったんだけど、まさか飛行機が止まったり仕事の日程が伸びたり色々とあったとはいえミスったね。まあ、高校の授業は基本的に練習空間で修行しているか、物理学やプログラムを勉強しているだけだしやめてもいいんだけどね。それでも一応心配されてか仕事の量を減らされたので仕方なく学校に通っている。
そんなある日の帰り道、女の子が数人で一人の女の子を裏路地で囲んでいる。囲まれている女の子の名前には覚えがあった。朝田詩乃。クラスメートだし助けるか。でも、その前に録音と。
「わり、朝田。あたし達カラオケで歌いまくってさぁ、電車代なくなっちゃた。こんだけ貸してくれない?」
明らかなカツアゲだ。当然のように拒否した朝田に対して女の一人が手を銃のようにしてバァンと声をあげると朝田がうずくまって吐いている。
「ゲロるなよ朝田ぁ! まあ、今持ってる分で許してやるよ」
近づいていく女に背後から蹴りをかます。これによって吹き飛んで室外機に激突した。
「何しやがんだテメェっ!!」
「何って、カツアゲしているゴミから可愛い女の子を守ろうとしてるだけだ」
「んだとぉっ!?」
他の女2人がこちらに鞄で殴りかかってくる。それを見切ってしゃがんで避けて足払いを仕掛けて纏めて転かす。そして、倒れた横に踵落としを決めてちょうど良く転がっていたブロックを粉砕する。俺の靴には訓練の為に鉄板を仕込んであるので簡単に粉砕できる。
「「ひぃっ!?」」
「さて、次は……」
「お巡りさんこっちです! こっちに来てください!」
声が聞こえてくる。現状から考えて明らかに俺がやばい。だから、室外機の方の立ち上がった女に近づいて声をかける。
「お前達はただ躓いただけだ。いいな?」
「っ」
それだけ言って蹲ってる朝田に近づいて彼女を抱き上げて逃走する。朝田はまだ気持ち悪いのか、力を抜いてぐったりしている。なので近くにあった喫茶店に入ってほとぼりが冷めるまで待つことにした。
入った店内にある奥の方のボックス席で彼女を座らせて水と布巾を渡してあげると、自分で拭きだした。
「大丈夫か?」
「うん……ありがとう……えっと、確か……」
「桐ヶ谷和人。クラスメートだよ、朝田さん。あと、男だから」
これは言っておかないと勘違いされる場合が多い。髪の毛の長い方のキリトと同じ容姿で髪の毛も長いし女の子に間違えられる事が多々ある。
「そうだったね。でも、あんまり教室に居ないし覚えてなかった。ごめんなさい」
「まあ、気にしなくていいよ。授業は暇だからね」
「勉強しないの?」
「高校生で習う範囲は終わってるしね。ああ、何か注文するといいよ。奢るから」
「たっ、助けて貰ったのに悪いからいいよ」
「気にしなくていいって。小遣いや給料貰っても友達も居ないからお金も余ってるし、こういう時は男が支払うもんだって習ったからね」
「そ、そうなんだ……(どっちの意味でも答えづらいよ)でも、友達が居ないのは一緒だね」
「そうなんだ。じゃあ、仲間だね」
カウンターの方を見ると頭が禿げた大きな店員がいる。ここはSAOの帰還者エギルとその奥さんが経営しているお店なのだ。奥さんがパティシエなのか、ケーキも結構美味しいのでここは結構気に入っている。本当は彼の店だと知らずに奥さんだけの時に見つけて色々と使わせて貰っている。
「和人君、これ何時ものとケーキセットね。貴方は紅茶でいいかしら?」
「はっ、はい」
「ありがと」
奥さんがコーヒーと紅茶、数種類のケーキを持ってきてくれた。注文してないのに助かる。
「とりあえず甘い物でも食べて落ち着こうか」
「うん……」
遠慮しているのか、先に食べないので俺から食べる。甘さ控えめのチーズケーキはかなり美味しい。タルトも美味しそうだ。
「ん~~美味しい」
「頂きます」
「どうぞ」
朝田も食べ始めた。しばらく2人でケーキを食べていき、コーヒーと紅茶をゆっくりと飲む。
「あっ、その服……ごめんなさい」
「ん? ああ、これか」
俺の服には朝田のが付いてしまっていた。こんな感じに書くといやらしいけど問題はないだろう。
「制服は予備があるし大丈夫だよ」
「クリーニング代出すよ」
「いや、いらない。助けたのはこっちの自己満足だし、それで被害を受けてもこっちの責任だよ」
「そういう訳にはいかない。借りを作るのは嫌だから払う」
「ふむ……じゃあ、友達になってよ。それで貸し借りなしでいいよ」
「え?」
「流石にぼっちはそろそろ色々とまずいと思うんだよな……親や妹にまで心配されてるし……」
「それは……うん、確かに……(私はおじいちゃん達だけど)」
朝田も覚えがあるのか、頷いてくれた。
「という訳で、友達になろうよ。そうすれば友達を助けるのに理由なんていらないし」
「そうだね……じゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね。朝田さん……いや、詩乃でいい? 俺も和人でいいから」
「うん、別にいいよ」
「それじゃあ、アドレス交換しようか」
「わかった」
携帯端末を取り出してお互いのアドレスと電話番号を交換する。
「家族と仕事先以外で初めてだ」
「本当にいなかったんだ……」
「あははは」
乾いた笑いしかでない。
「あっ、でも……遠藤達から何かされないかな?」
「大丈夫だ。俺は強いし、それに詩乃には悪いけどこんなのもある」
携帯端末で録音した物を聞かせてあげる。
「これは……さっきの?」
「そう。彼女達がカツアゲしていた証拠にもなるし、何よりこっちも未成年だし如何様にもできるよ」
「そっ、そう……」
「そっちは気にしなくていいけど、むしろ詩乃の方が心配だね。まあ、俺と一緒に居れば大丈夫か」
「ありがとう」
「どういたしまして……ってのもなんか変だけどね。っと、そろそろ暗くなってきたし送ってくよ」
「そこまでは悪いよ」
「いや、こっちが気になるからね。アンドリューさん、メット借りていい?」
カウンターでグラスを磨いているエギルの名前を呼ぶ。
「構わない。明日の昼までには返せよ」
「了解。じゃあ、行こうか」
「う、うん」
支払いをして、裏から出る。そこにあるヘルメットを取って詩乃に渡す。
「これに乗るの?」
「そうだよ。免許は持ってるし大丈夫」
自分もヘルメットを被って中型バイクの後ろにに詩乃を乗せる。
「これって……」
「俺のだよ。ここまで何時もこれで来てるんだ」
ゴーグルをつけてジャケットを着て顔や制服を隠す。これで問題はない。
「じゃあ、行こうか。しっかり捕まってね」
「うん」
詩乃に場所を聞きながら安全運転で制限速度ギリギリまで出して詩乃の家に向かう。この時代、速度オーバーは出来ないように管理されているので危険は少ない。なので無事に詩乃を家に送り届けた。
「ありがとう」
「別にこれくらいはいいよ。それじゃあ」
「うん、また明日学校で……あっ、クリーニング……」
詩乃が言い終わる前にさっさと逃げる。それから学校でもよく詩乃と一緒に居て話すようになった。そして、仲良くなった俺は詩乃の事情も聞いて色々と手を尽くす事にした。でも、それには時間がかかる。そして一つのリハビリの手段として2025年4月にザスカーより発売された