シノンと共にガンゲイル・オンライン   作:ヴィヴィオ

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第32話

 

 

 ユウキと共にシリカを連れてドクターの所へと出向いた。事前に連絡を入れていたので、直ぐに通されてシリカの身体を調べられた。

 

「で、どんな感じなんだ?」

 

 白衣を着た青年へと声をかける。近くには茶髪のリタが居る。

 

「うむ。一言で言うのならば素晴らしい。彼女は新たな人類の可能性だよ」

 

 シリカの検査結果を持ちながら、ドクターがそう言う。

 

「いや、どういう事だよ」

「簡単にいえば、彼女と同じような状態を意図的に起こせれば新人類になれるという事よ」

「うむ。彼女の身体は有機物と0と1で出来ている。有り得ない事にな。彼女を解析すれば、アバターの力を手に入れる事が出来るだろう。解剖していいかね?」

 

 ドクターが渡してくれた解析結果によると、彼女の身体能力は凄まじく、人間でありながら高速で移動などが出来る。人が車と同じ速度を出すのだ。それもスポーツカー並みの。最高速度は時速200ぐらいは軽く出ている

 

「駄目でしょ」

「駄目に決まってんだろ」

「ちっ。まあ、いい」

「それよりもどうなんだ? 抑えられるか」

「可能だとも。この私に不可能はあんまりない! 故にここについこの間に開発した重力制御装置が……」

「ちょっ⁉ まじかよっ!?」

「嘘よ。こいつがそんなの開発したら、グランゾンとか平気で作るわよ」

「ちっ、嘘か」

「ネタばらしが早いぞ。まあ、出来ていたら本当に作るがね」

「リタ、絶対に止めろよ。危険な兵器を作るのなんて」

「えっ!?」

「おい、まさかお前まで……」

「彼女は気象操作衛星を作ろうとしているよ。ソーラービームを搭載した」

「……」

 

 リタを見詰めると、そっぽを向く。彼女に近付いて勝手に彼女のパソコンを操作する。

 

「ちょっ、なにすんのよっ!?」

「うたわれに出て来たアマテラスか。危険すぎるだろっ!」

「はっはっは、なんの問題もないね」

「問題無しね」

「いや、問題ありすぎだろ。だいたいナノマシンを散布って下手したらバルドみたいなアセンブラ事件に……」

「そんなの、焼却したらいいじゃない」

「地球さんの事を考えてっ!」

「こほん。まあ、それは置いておいてこっちだ。君にとってはこっちが重要だろう」

「いや、こっちもかなり重要なのだが……」

 

 ドクターがアタッシュケースを持ってきて、中身を見せてくれる。中身は金属製の機械の首輪と同種のブレスレットとアンクレット。しかし、これって首輪と足枷、手枷だよな。

 

「この首輪は外す事ができない」

「ん?」

「和人君はアクセルワールドに出て来るニューロリンカーを知っているかね?」

「一応、最初の方だけは読んだかな」

「あれと同じだよ。脳から発せられる命令を首輪が遮断して、解析。リミッターをかけた出力で再放出する。その情報を更に手足の枷が受け止めて、身体に現状掛かっている負荷を調べて必要以上の力を出さないように操作する」

「ファンタジー小説やゲームで出て来る隷属の首輪とかと同じような物ね」

「おい。悪用し放題だろ」

「まさか、そんな事を対策していないはずがないだろう。使用者の意思や状況によって自動で解除される。その為に首輪にはカメラも仕込んであるのだから」

「360度、全部みえるから背後からの奇襲にも対応。痴漢をはじめとした暴漢にも自動で対応し、反撃を加えて制圧する優れものよ」

「今ならお値段、たったの670万。オプションで撃退用の小型レーザーを装備して……」

「おい、もしかして既にソーラビームみたいなのは開発されているのか?」

「……なっ、なんの事やら……」

「……しっ、しらない……」

 

 そっぽを向く二人。駄目だ、こいつらなんとかしないと。

 

「なによー宇宙開発や地球再生には必要なのよ!」

「うむ。増えすぎた人類は宇宙に出るべきだ。彼女の出現がそれを示している」

「何言ってんだ」

「いや、あの身体能力は宇宙でこそ生かせるのではないかね? 宇宙は危険がいっぱいだからね。彼女の身体は酸素をほぼ必要としていない。有り得ない事に一時間以上、軽く息を止めても一切の衰えがない」

「そもそも、バトルヒーリングだっけ? あれで細胞が死んだとしても瞬時に復活するし、生半可な事じゃ死ぬことが出来ないのは納得ね」

「それどころか、成長すら出来んがね」

「不老、素晴らしいわね」

「おいおい……」

「ちなみに死ぬ方法は簡単よ。溶岩に飛び込んだり、ビームとかで完全に消し飛ばしたりするのがベストね。まあ、バトルヒーリングのレベルが低いみたいだから、今ならまだミサイルで吹き飛ばしても問題ないかも知れないけれど、これ……強化したら凄い事になるわね」

「再生でも覚えさせてみないかね?」

「そこから、分裂して復活するかの実験ね。面白いでしょうけど、駄目ね」

「当たり前だ。人体実験とかは許さんからな」

 

 こいつら、完全にマッドサイエンティストだからな。流石はアンリミテッドデザイア。リタのは魔導オタクなだけあって、こっちでは研究オタか。どちらにしろ、碌でもない。二人共、恐ろしいほどの天才だが。

 

「というか、衛星とか宇宙開発とか、発射場とかないんだが……」

 

 二人は素知らぬ顔をする。俺は急いで自分の携帯端末から、会社の資金を見ると前に見た時よりも明らかに桁違いに減っている。特許とかでどんどん金が入ってきているのだが、明らかにおかしい。

 

「おい」

「土地を買ったわ」

「そして、この私達が設計して作り上げた!」

「正確にはまだ作っている途中だけどね。先に重工業用のロボットを作ったから」

「うむ。現在は設計図に従って自動で建築中だ」

 

 この二人だけ、明らかに世界が違うっ!

 

「さて、彼女の話に戻るぞ。彼女はアバターの成長によって現実でも成長するだろう。だが、それは危険をはらんでいる。わかるかね?」

 

 アバターの成長が現実に影響を与える? それはつまり、現実の身体と電子世界のアバターがリンクしているという事だ。では、それで起こるメリットだけではなく、問題となると……一つしかない。

 

「デスゲームか」

「そうよ。彼女はゲームで死んだら現実で死ぬ可能性がある。とまではいかないまでも、大怪我を負う可能性もあるわ」

「なんせ、あちらでは全員が超人だからねえ」

「おそらく、死亡はアバターデリートになるんでしょうけど、それ以外の事はわからないわ。本当に気を付けておくのよ」

「わかった。デリートされるような物には参加させない」

「それでいいでしょう」

「じゃあ、それはいいとして次だ」

「次?」

「うむ。彼女の信頼を手っ取り早く稼ぎ、和人君のいう事をよく聞かせる方法がある」

「なにそれ?」

「なに、簡単だよ。彼女の不安の原因の一部を根本から取り除くんだ」

 

 ドクターの言葉に俺は決意する。シリカを死なさない為にもこれは必要だろ。この枷だって本当に有効なのかもわからない。何せ、シリカと同じような存在なんていないんだ。だったら、出来る限りの事をやるしかない。例え、それが彼女を傷つける事になっても。

 

 

 

 

 

 

 


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