シノン
森から出た私は木の上に移動して大きな枝に座って背中を預けながらスコープを覗く。しばらく監視していると複数の人の銃撃音が聞こえてきた。
そちらにスコープ越しに視線をやると、闇風さんが戦っていた。ここで彼は倒した方が良い。
周りを見渡して良さそうな狙撃場所を探す。高い建物はあるけれど、あそこは逆に狙われている可能性が高い。他の場所を探すと高台を狙っている奴がいる。
邪魔だから狙撃して倒しておく。次は森の中から闇風さんを狙撃してみる。
撃った瞬間、いきなり地面にスライディングして避けられた。まるで来ることがわかっているかのように避けられたので逃げる。
私は急いで場所を移動しながら方法を考える。光学迷彩用のマントを着て移動し、もう一度別の場所から闇風さんを狙ってみる。彼の周りには他のメンバーが銃撃音を聞いて車などで集まってきている。それをまるでご主人様みたいに緩急つけた移動と隠れたりすることで倒している。
立体機動すらしているし、本当にすごい。でも、倒す方法がないわけじゃない。ご主人様を倒すために考えて練習した方法もある。それの実験台にはいいかもしれない。
やるための前提条件は……揃っている。まずは風や重力、弾丸の加速度などを計算していく。流石に暗算は無理だから地面に書いていく。さっき撃ったところから、違いや落ちる感じなども計算する。
「できた」
まずは計算した通りに二発撃って、即座に直接狙って一発撃つ。私が最初に撃った銃弾は後ろに倒れるように避けられ、二発目は彼の持つ銃弾で迎撃された。確かにバレットラインがでるので可能。
「でも、甘い」
彼の横から迫った弾丸が彼の頭を貫いてヒットポイントが消えていく。闇風さんは後ろをみてから驚愕の表情でこちらを見詰めている。私がやったことを信じられないみたい。私がやったことはいうなら簡単なことで、最初に撃った弾丸を二発、軌道と速度を変えて撃ち、空中で接触させて跳弾させて闇風さんに命中させた。
「上手くいって良かった。これなら対応できそう。それに情報をゲットできたわね」
装備しているマフラーを口元にあげてから、周りを警戒しつつ先程の感覚を復習しながら移動する。すると微かに銃声の音が聞こえてきた。そちらに音を消して光学迷彩で移動して背後を取る。
「それにSAOで悲惨な目に合わせられた女性のぶんも……」
聞き捨てならないことを言っているので、ヘカートを突き付けてやる。こいつがSAOのことについて知っているなら、シリカをあんなにした相手がわかるかもしれない。
「なにそれ。詳しく教えて?」
「え?」
脅してあげると色々と教えてくれた。デスガンと呼ばれる奴のことや銀髪のことも。リアルの住所を知っているらしいので、それを報酬としてもらうことにする。
「でも、よく信じてくれましたね。普通はありえないことだと考えるはずです」
「ありえないことはありえないって知ってるから」
そう、私もそのありえないことで助かっている。そもそもシリカやリーファ、それにご主人様であるキリトはもっとありえない。
「それで詳しいことは……」
「聞いた話では……」
彼女から聞いた内容を元に355通りぐらいいろんなことを考えてみると、見落としが見えてくる。
「ねえ、それって針の痕や薬の反応はあったの?」
「それはなかったんじゃ……」
「SAO事件のせいでアミュスフィアをつけていたからって見逃していない? 死亡解剖や病理解剖はしっかりとした?」
「あれ? もしかしてしていません? でも、鍵とか……」
「致死の毒物は基本的に厳しい管理がされている。免許はもちろん、保管場所の登録も必要で定期的に加えて不定期に調べられるの。そんな毒物を手に入る場所はどこだと思う?」
「……それは薬学研究所とか、工場とか、後はびょ……まさか!?」
「病院なら政府の命令で義務付けられて作ってあるマスターキーが保管してある。それに毒物も手に入る」
「確かにそう考えるとありえますね。ですが、住所をどこで手に入れるのですか?」
「住所ならこれを使えば簡単に……あっ、このままだったらやばい」
嫌な感じがする。急いでGMコールを……って、戦闘中はできない。生き残れる?
「確かにこのマントなら後ろから見られても気付かないので可能性が高いようですね」
彼女もだいたい理解したようで一番高い可能性にいきついたみたい。
「しかし、病院となると……」
「怪しいのは参加者を見る限りこいつ。医療用語で死だから」
「なんで知っているんですか?」
「マネージャーとしていついかなる時にも対応できるように医療関係も勉強しているから。もうちょっとで医師免許が取れる合格ラインにいくと思う」
「とりあえず、そこまでいくとマネージャーの仕事じゃないと思います」
私の全てはキリトのためだから、別に問題ない。どうせネット関係じゃリタには勝てないし、それなら別分野で頑張る。いや、ドクターがいるからそっち方面でも勝てない。やっぱり、ある程度できるようにして、マネジメントをメインにした方がいいかも。
って、それよりも管理者用のコンソールがどこかにあるはずだから探さないと。もしくはこちらを撮りに来ている監視装置を通して知らせないといけない。光学信号が手旗、ハンドサイン、どれにしよう。