【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
老人の罪償い
「ユイ君…本当にこれで良いのかね。私はそうは思わん。もし、まだチャンスがあるのなら。私は変えようと思う。自分の生きざまを…碇の奴の野望を止める」
人類補完計画が発動して、人々がLCLと還っていく。自身はNERV本部でただ一人、ポツンと残っている。迫りくるアヤナミレイに、彼は覚悟を決める。自分もLCLに還るために。最期の時になって、後悔していた。自分の夢でもあることを叶えるために、人類補完計画を発動させた。これまで、碇ゲンドウの右腕として生きてきたが、最期の最期になって後悔した。人類を滅ぼしてもまでも、自分とゲンドウの願いを叶える。それが、如何に愚かなことであったかを理解したのである。
だが、もう遅い。
賽は投げられた。
「ユイ君…私は…私は」
パシャ!
また一人、LCLへと還っていた。
だが、還る直前に声が聞こえた。
(冬月先生…お願いします。夫はともかく、せめて息子は…シンジを)
世界はアイに包まれていく。人類補完計画の発動によって、全てが還るのである。
でも、やり直しは効くのである。
安らかな死を迎えたはずの老人は、なぜか再び目を覚ましていた。天国の類ではないのは確実。なぜなら、忘れもしない光景が目の前に広がっていたからだ。
「う…む?ここは…かつてのNERV本部か。私は、なぜここにいる。安らかなる眠りを迎えたはずでは」
気づけば冬月コウゾウという人間は、完全に復旧されたNERV本部に立っていた。何が起こっている?一体何が?
「第四の使徒、依然としてこちらへと侵攻中!」
「攻撃の手を緩めるな!ありとあらゆる兵器を使え!弾薬を惜しむな!」
メインモニターには見覚えのある使徒が第三新東京市へと迫ってきていた。戦略自衛隊の通城兵器や軍用VTOLがこれでもかと攻撃をしている。しかし、それらの攻撃は全くと言っていい程効いていない。使徒なんかに通常兵器が通じるわけがない。こんなことを知らないとは。
この景色に冬月は大きく開けていた目を、今度は逆に細める。冬月コウゾウはNERVの副指令として動いて来た男だけはある。瞬時に状況を理解することぐらいは余裕でできる。だから、彼は理解した。
そして、誰にも聞こえないような小さいか細い声で、彼はつぶやいた。
「ユイ君…すまない。こんな老人に再び機会を与えてくれるとはな。微力ながら…全力を尽くさせてもらおう」
彼は一種のタイムスリップをした。おそらくであるが、神と等しい存在となった碇ユイの差し金であろう。世界を破滅へと導いてしまった責任感からなのかはわからないが、とにかく自分の近しい、信頼できる人物に託したのである。
「攻撃はまったく効いていません!」
「ええい!巡航ミサイルの使用を許可する!何としてでも止めるんだ!」
彼の前に座って、特徴的なポーズをとっている人物。その人物は冷静に意味のない戦いを見届けていた。盛大な弾薬の無駄遣いをポーカーフェイスで見守るだけである。
「通常兵器で歯が立たないこと理解しないのだろうな。この者達は」
「あぁ。ATフィールドを破らない限り、使徒にダメージを与えることはできない。それが通常兵器ならな」
「エヴァか…使えるのか?零号機とファーストチルドレン(レイ)は動けそうにない」
「構わない。予備のパイロット(サードチルドレン)をここに連れてくるようにしてある」
冬月は全く変わらない男に落胆しつつ、同時に呆れを抱いていた。しかし、そんなことを一切表に出すことは無かった。感情制御は冬月にとってもお手の物だ。そして、自分の息子を、自らの野望を果たすための道具としか見ていない男を、一種の嘲笑を以てとした。
「血の通った、実の息子は己の道具か。まったく、お前の心はよくわからん。私にはな」
「…」
「だんまりか。お前は無愛想だな」
モニターでは巡航ミサイルが第四の使徒に直撃している。一発でもかなりの威力を誇る巡航ミサイルが四発直撃した。いかに堅牢な要塞でも粉々になるような大爆発でモニターは閃光と爆炎で見えなくなった。しばらくは静観せざるを得ないため、総員が静かに待つ。
だが。
「無駄だったな」
「馬鹿なっ!直撃だぞ!」
モニターには爆炎が晴れた先に直立不動でいる使徒が映っていた。全くのノーダメージ。使徒は完全無欠の要塞だと示している。戦略自衛隊の高官らは頭を抱えたり、唖然したりとするしかない。通常兵器の中でも威力のある巡航ミサイルが無効化されたのだから同情はできる。ATフィールドの前には無力だというのを思い知らされた。
だが、高官らは本当に往生際が悪く、諦めを知らない人間たちだった。
「仕方あるまい…NN地雷を使え」
「無駄なことを…」
「あぁ」
NN地雷。世界最強の名を誇る、最高の通常兵器。核を上回る威力を持っており、その威力は筆舌することは不可能だ。それほどの威力を持つ兵器を、使徒に使用するというのだ。高官らは最初は驚いたが、すぐさまその顔は余裕の顔となった。いくら相手が使徒と言えども、人類の兵器は進化している。あの時とは違う。圧倒的な威力を以て、使徒を消し炭にできる。
だが、それを冷ややかな目で見つめる者が二人いた。言わずもがな、碇ゲンドウと冬月コウゾウである。碇ゲンドウは使徒のATフィールドには全てが無力だと思っているからで、冬月は前世の記憶から意味が無いとわかっていた。この前世の記憶のおかげで、最善の手を打つことができる。なんと、皮肉なことだろうか。
「君のNERVの出番なんてない、NN地雷があれば、使徒なんぞ敵ではない!」
「…」
(やれやれ、戦略自衛隊もゼーレの飼い犬になるぐらいの組織。馬鹿なことだな。碇も変わっておらん。私だけが、戻って来たようだな。まぁ、どうであれ。私は、第三の少年を助ける。ユイ君から与えられたチャンスを無駄にはせんよ)
あれほど使徒にしつこく攻撃をしていたVTOL達は急速で離脱していく。緊急退避命令が出たので、動いたのだろう。全機が我先にと逃げていく。それも、そうだ。これから炸裂する兵器が兵器なんだから。周囲にある物は要塞施設を除いて灰燼と化すのだから。
「NN地雷なら、あの化け物でも!」
「人類を馬鹿にするなよ!」
高官らは、もう勝ったかのような気分でいる。そんな中、第四の使徒はズンズンとこちらに進んでいった。数分ほど経ったときに、先の巡航ミサイルが炸裂した時とは段違いの閃光がモニターを支配した。衝撃波もすさまじく、地下深くにある本部が人間で感じられるぐらいの小さな揺れに襲われた。地上は文字通りの地獄絵図であろう。
「どうだ!いくら使徒でもNN地雷の威力の前には雑魚にすぎん!」
「君たちの出番は最後までなかったな。我々の勝利だ」
爆発の光景でここまで興奮できるのかと言いたくなったが、それを抑えた。矛先を向けられた碇は特に返答することは無かった。相も変わらずのことだ。長いことこの男とは付き合ってきたのであるが、全く変わらない。ここまで変わらない人間がいるとはな。
「さて、御開帳だ」
「人類の勝利の瞬間だぞ、よく見たまえ」
モニターの映像の画質が最高度に戻って、黒煙が晴れてく。巡航ミサイルの時よりも数倍ほど時間がかかった。威力が高ければ高いほど、戦果確認が出来なくなるのは改善すべき点だ。後で改造を指示しなければ。
いくらNN兵器が使徒には無力でも、時間稼ぎぐらいにはなる。全く使えないわけではないので、使い方を工夫すればどうとでもなる。
さて、モニターには、何が映っていた?
灰燼となった使徒?
それとも?
「う、嘘だろ!NN地雷を使ったのだぞ!」
「なぜだ!なぜ立っている!この化け物が!」
そこには、表面上では傷を負った使徒が立っていた。傷ついているのは確実であったが、残念だった。使徒は人を超えた存在。この程度の傷なんて、自己修復で実質的に無効化できてしまう。
「我々の出番だな…碇」
「あぁ」
戦略自衛隊の高官らは項垂れて、こちらを向いて来た。
「どうやら、君たちの出番のようだ。対使徒決戦組織、人類の希望とやらのお手並み拝見と行かせてもらう」
「えぇ。我々にお任せください。エヴァの発進準備を急げ」
「初号機か…碇、お前は本当に…な。(第三の少年、いや、碇シンジ君。悪いが老人の罪滅ぼしに付き合ってもらう。君の母親から託されたのだから、悪いようにはしない。少なくとも、この老人が助けよう)」
続く
現在エヴァの二次創作を本小説を含めて二本体制ですので、元気があれば両方とも更新できると思います。何か、ご質問、ご指摘等ございましたら、遠慮なくご連絡ください。
それでは次のお話でお会いしましょう。