【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね?   作:5の名のつくもの

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UAが3万を超えていました。皆様に感謝し申し上げます。

※ちょっとだけ旧作要素が入ります


老人の話は長い

~NERV本部付属病院~

 

「知っている天井だ」

 

広々とした病室で一人の少年が目覚めた。ベッドに寝ていたので、一番最初に目にしたのは病室の清潔な天井だった。一度見たことがある天井なので、自分は救急搬送されたんだと理解した。あの使徒を撃破した後、安堵するのと同時に意識が急速に去って行ったのを覚えている。そこから先のことは一切知らない。

 

「あれ…なんでここに綾波が?」

 

ふと横を向くと、そこにはもう一台ベッドがあって綾波レイがスヤスヤと寝ていた。基本的には病室には患者一人なのだが、なぜか今回は二人らしい。自分の記憶の中では初号機のプラグ内で意識を失ったはずなので綾波レイはいなかった。しかし、事実としてここに綾波がいる。一体何が起こったのだろうか?

 

「よかった…けがはしてない。今回も勝てたんだ」

 

二人とも目立った外傷はないので使徒に勝利したことを実感する。ちゃんと目で使徒が崩壊する様を見届けているので勝ったのは確実なことであるのだが、なんか実感が沸くことはなかった。この今になって沸いたのは、なんとまぁ不思議なことだ。

 

すると

 

「あ、冬月先生」

 

「おや、目が覚めたのだな。ふむ、ドクターはただの疲労だと言っていて、問題は無いと断言していたのは本当だったな。元気そうなのはいいことだ」

 

病室に冬月が入ってきた。二人は眠っていると考えてゆっくりとコソコソして音を出さないように入ってきたが、一人は目覚めていた。そして、もう一人はまだ眠りこけている。

 

「すまんね、起きているとは思わなかったから、特に持ってきていない。ここ、失礼するよ」

 

冬月はシンジのベッドとレイのベッドの間に置かれている丸椅子に腰かける。ベッドは並んでいるが、そこそこ間隔を取っている。椅子に腰かけた冬月はシンジから質問を受けた。

 

「あの、なんで綾波と一緒なんですか?」

 

「あぁ。それはだね。君は初号機のプラグ内で意識を失っていたのだが、救護班が駆けつけるとレイ君も一緒にいたのだよ。君を介抱しているとかではなく、君に抱き着いていてね。救護班が急いで運ぼうとしたんだが、離すと嫌そうな顔をしてね。二人の精密検査が終われば、二人を一緒にしたのだよ。幸いにも二人とも過度な疲労なだけで異常はない。それに、君たち二人の関係についてはNERV内でも有名でね。私を含めて皆が君たちを応援しているよ」

 

「あっ、えっと。ありがとうございます」

 

明らかに動揺してたじろぐシンジだが、ちゃんとお礼を述べた。

 

「シンジ君とレイ君の活躍で第六の使徒を殲滅することができた。本当にありがとう。被害もそこまでない。施設の修復は進んでいて、あと一週間もすれば元通りだ。今回の使徒のようにエヴァの基本運用が通用しないような使徒の出現が考えられるから、我々で新しいエヴァ運用を画策している。だから、これからの訓練も悪い意味で変化するだろう。今はゆっくり、体を休めるといい」

 

悪い意味と言うのは訓練がより一層激しくなるということだ。エヴァの訓練は想像を絶する。最悪の事態を想定したシミュレーションなので支援も何もない状況での戦闘をやらせている。監修は赤木博士なので冬月は口出ししていない。

 

「エヴァは無事なんですか?」

 

「あぁ。初号機は無傷で零号機は装甲版が少し溶解していたから張替えをしているが、大したことではない。まったく、本当に素晴らしいことだよ。エヴァの被害を最小限に抑えて使徒を撃破する。これ以上のことはない」

 

今までにない程の賛辞を贈りまくる冬月だった。シンジは素直に受け取って、恥ずかしがっている。この後は一通り、冬月の口から使徒戦後のことについて説明があった。主に第三新東京市の被害についてだが、建物などの損害は許容範囲内で問題ない。民間人の被害も、全くない。市民の避難はこれまでの教訓から迅速に行えるようにし、避難所から脱走が無いように警備を強化した甲斐あって被害はゼロ。

要塞設備では装甲ビル群が全て溶解してしまったが、それでエヴァを守れたんだから安い安い。

 

「あの時の冬月先生の指示がなかったら、零号機と初号機は溶けていましたよ。さすがです先生」

 

「別に特別なことはしていない。私はただ、副司令としての職務を全うしただけだ。自分で用意したカードを切っただけのことだよ。老人と言うのはどうも準備を徹底する癖があってね。それが上手く効いてくれたのさ。使徒を倒したのは君たち二人だ。私はそこまでのことはしていない」

 

「それでもです。あの、僕は暫く入院ですか?」

 

「あ、そうだった。そうだった。君たち二人の入院について話していなかったね。特に異常は見受けられないが、念のためだ。ドクター次第だがおおよそ三日ほど入院だろう。三日間はエヴァの本格使用はできないから丁度いい」

 

エヴァの整備は簡単ではないし、部品も少ないので時間がかかる。三日の間に使徒が来ては非常に困るが、冬月の前世の記憶から考えるに、暫くは使徒は来ない。次に来るのはドイツからの援軍の時だ。

 

「そうですか。じゃあ、その間は家を空けてしまいますね」

 

「あぁ。私のことは気にせんでいい。一人で生きてるのには慣れている」

 

二人が入院するということなので冬月家には冬月コウゾウただ一人となってしまう。元は彼一人だったから齟齬が生じることは無いが、寂しいかと聞かれれば寂しい。こればかりは仕事をして紛らわせるしかない。

 

シンジは冬月の身を案じたが、NERVの副司令を務めるだけの人物なので心配は無用だと理解した。何かを話そうにも使徒関連については全て説明を受けて聞くことが無くなったので困った。

 

と、長い間彼の中で引っかかっていたことについて質問した。この質問は人に聞いてもフワフワした答えしか得られず、納得がいってなかった。また、聞いてもはぐらかされることもあった。これには大人への若干の不信感を抱きかけていたが、目の前にいるのは恩師。この人なら答えてくれる。

 

「冬月先生、話が跳躍してしまいますが、一つ聞いてもいいですか?」

 

「何かな?」

 

「その…セカンドインパクトって本当は何が起こったんですか?何となく使徒が関連していることはわかるんですけど、その」

 

「君も気になってしまったか。周りの大人が教えなかったのだろうな。葛城君は…無理もないな。わかった。ただし、かなり話が長くなる。ただでさえ未曾有の大災害だったし、語る者はこの老人だ。眠くなるほど長くなるが、いいかね?」

 

「構いません。知りたいんです」

 

「そうか…あれは15年前で、南極だった。人類は南極で開けてはならぬパンドラの箱を開けてしまった。南極の極寒の土地に使徒を見つけた。その使徒は活動を停止していたようで人間が近づいても反応はしなかった。驚いた人類は国際調査チームを作り、実験など様々な調査を行おうとした。しかし」

 

「しかし?」

 

「神と言うのは本当に残酷な存在だ。使徒が突如として目覚め、一体だけかと思われた使徒は数体隠れていた。当時の人類にエヴァのような対抗手段は無い。そのまま使徒は覚醒して、儀式を発動した」

 

「儀式…ですか」

 

「我々のようなただの人類には到底理解できない儀式だよ。その儀式は人類及び地球にとって破滅的な被害を及ぼした。君たちが日常的に見て来た世界が広がったんだ。南極を爆心地として、とても私でも筆舌できない大爆発が起こり、南極の一帯は汚染しつくされた。その爆発に帯同して海は赤く染まり、海洋生物から陸上生物を問わずして生物は死滅した。本当に幸運で人類の手で保存していた種は生き延びたが、両手で数えられるぐらいの数しかない。そして、それは人も例外ではなかった。君が知っている通りで、世界総人口の半分が死亡した」

 

冬月はこのタイミングで人の業を伝えるわけにはいかないので、部分的に真実を告げた。

 

「このように簡単に纏めたのがセカンドインパクトだ。隕石の衝突などではない。使徒による災害だよ。だから我々は使徒を倒さないといけないのだ。さて、大雑把に話したが理解できるかね?」

 

「はい。できればセカンドインパクトの細かい点もお願いしたいです」

 

「もちろんだ」

 

冬月によるセカンドインパクトに関する講義が行われた。語られた内容は部分部分は隠されて、部分部分では真実が伝えられた。

 

この講義。シンジにとって、それは大きな意味をもつことになったのである。

 

続く




次話か次々話にて…ついにあの少女の登場です。

それでは次のお話でお会いしましょう。

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