【完結】ユイ君…本当にこれで良いのかね? 作:5の名のつくもの
前編 『面談』
これは第五の使徒戦の後のこと
「冬月副指令、例の少年二人を連れてきました」
「ご苦労だった。君は行っていい。ここからは私の仕事だ」
「はっ!失礼します!」
超機密組織で機関であるNERVは第三新東京市の地下に作られている。そのNERVを守るために要塞設備だけでなく、人間によるガードも硬い。本部だけでなく、その上にある第三新東京市には24時間365日私服の武闘派の職員が巡回をしている。
使徒出現で非常緊急事態が宣言された際にはNERVの職員と戦略自衛隊の兵士が市民の誘導と保護及び監視を行う。避難所(シェルター)では超厳重な監視がされていて脱走者がいないように目を配っている。その避難所では、以前の第五の使徒とエヴァ初号機が激闘を繰り広げている頃に、若い脱走者が二名いた。
巧妙にシステムの虚を突いて、監視の目を掻い潜って地上への脱走を企てたのだが、そう簡単に人間の目はごまかせない。地上への伝わる道の警備にあたっていたNERV職員に簡単に見つかったのであった。ダクト類のような人がいなさそうな所は定期的に職員が覗いたり、小型ドローンを入れて監視をしている。その目に引っかかった少年が二人いた。少年二人はトンデモナイ重大なことをしでかしたのでNERVの副指令が出張った。
「さて、君たち二人は何をしたのかわかっているのか?」
「は、はい」
「はい」
「その様子だと、相当絞られたみたいだな」
既に彼らの親御さんやNERVの職員からコッテリと長時間にわたって説教をされていたので、何をしてしまったのかは理解しているようだ。まぁ、この副指令の前に立たされるのだから理解してもらわねば困る。
「さて、私から聞きたいことがある。なぜ、君たちは地上に出ようとしたのだね?」
その理由は知っているのだが、本人の口から言ってもらい、聞くのが重要だ。場合によってはこの後の行動も変える。
「碇の…碇の戦いを見たかったんです。生のエヴァを見たかったんです」
「ワシもです。ワシも碇の様子を見たかった。すいません。碇が…シンジが命をなげうって戦っているのに。ワシは一歩間違えたら」
「そう、君たちが仮に地上に出てシンジ君の戦いの邪魔になったら。最悪は使徒に負けて人類は滅んでいた。君たち二人のせいでな。よくても、君たち二人は死んでいたか、シンジ君が重傷を負っていた。まぁ、そうやって戦いを見たい気持ちはわからんでもない。だから、今回は特別だ」
そう言って冬月は端末を操作して部屋にある大型のモニターに映像を映した。それは、これまでの初号機(シンジ)と使徒との戦いだった。それに加えてプラグ内映像も映っている。エヴァでの戦闘及びパイロットの様子を確認するためにプラグ内にはカメラがついていて記録できるようになっている。その二つを同じ画面に映した。
「これって…碇」
「あぁ、碇だ」
「これが現実という物だよ。百聞は一見に如かずと言うだろう?だから君たちに見せる…初号機パイロットの碇シンジ君の戦いを」
そこからは長い長い記録映像が流された。機密保持のため多少の編集はされているが、臨場感MAXの戦争の映像を見せる。その映像は見る者にとって衝撃であるのは言うまでもない。しかも、見る者はパイロットのクラスメイトである。その衝撃の強さは何倍にも膨れ上がる。一種の映画にも等しい映像に二人は食い入るように見るしかない。一応言っておくが、ワクワクしたり興奮したりしているわけではなく、圧倒されている。悪い意味で。
映像が終わると、二人は口をあんぐりと開けていた。
「どうだね?君たち二人が知りたかったことだよ」
「話では聞いていましたが…碇はこんなことを」
「本当に死ぬかもしれない…あんなバケモンと戦って」
「そう、彼は自らの命を捨てて戦っている。私はそれを君たちに理解してほしかった」
その映像は贅沢にもシンジの雄たけびや悲鳴をたっぷりと、シンジが血を吐いたりする姿を鮮明に公開した。恐ろしく高いサービス精神だ。冬月の気遣いには脱帽する。
そんな映像を見せられたらどう思うだろうか?
「君たちが、この事実を見てどう思うかは私の知るところではない。思うのは自由にしたまえ。しかし、これだけは言わせてもらう。シンジ君は我々の、人類の希望たる存在なんだ。あまり君たちの交友関係に口を出すのは憚られることだが、できれば彼と仲良くしてやってほしい。私からは以上だ」
冬月は特に叱ることもすることなく、二人を解放した。正直言って拍子抜けしてしまう面談だったが、当事者二人としては強いショックを受けた。ショックを受けはしたが、それをいい方向へと導くよう冬月は務めたつもりだ。どうするかは二人次第であるので、そこまで口出しはしない。少年たちの交友に大人が手を出してはならぬ。そういうことだ。
解放された二人は職員の誘導に従っておとなしく地上まで戻った。二人は解放された場所の近くにある公園で、二人して同じベンチに座った。
「なぁトウジ」
「なんや?ケンスケ…シンジのことだろ」
「あぁ。明日には二人で謝ろう。ちゃんと土下座をして」
「せやな。ワシは殴ってしもうた。あれだけ、死と隣り合わせのことをしていると知らずに…ワシは碇のことを」
冬月がわざわざ動いた甲斐はあったかもしれない。
後編 『謝罪』
「すまんかった!碇!」
「ごめん、碇」
「え、えっと。あの、うん。どうしたの?」
「当然のこと。碇君を殴ったんだから」
シンジは急に相田ケンスケと鈴原トウジから呼び出された。以前に殴られた過去があったので強張ったが、急に二人は土下座をした。きちんと謝罪の言葉もセットで。シンジはなんのこっちゃと混乱したが、(なぜかついてきていた)レイの一言で察した。おそらくだが、この前自分を殴ったことへの謝罪だと。
「ワシはシンジが命がけで戦って、ワシらを守ってくれているのに、殴ってしもた。ホンマにすまんかった!この通りや!」
「俺も、碇があんな苦しみながら戦っているなんて知らなかった。生意気なことを言って本当にごめん」
「別に気にしないでいいよ。僕は事実として君の妹さんに怪我をさせてしまったんだから。むしろ、僕が許すなんて、僕ができるようなことじゃない。だから顔を上げてよ」
「シンジ…お前は」
「碇君が優しいからよかったけど、次は無いと思った方が良い。碇君の戦いを邪魔して人類が滅んでしまっては意味がない。二人は許されても、絶対にそれは忘れてはいけないから」
「「はい!」」
あの綾波が怒髪冠を衝くような調子なので二人は平身低頭でいるしかない。いつも無口でおとなしい綾波だが、この時は全くの別人だった。二人はこの時に更に実感したのだが、綾波とシンジの関係は本物だ。下手に碇シンジに害を為してしまうと、シンジからではなくレイから弾道ミサイルが飛んでくる。
「ほら、そんなことしていたら誰かに見られたらよくないからさ。立って、立って」
「あの、ワシらが言えることじゃないんだが、そんな簡単に許していいのか?」
「そうだよ碇」
「いいよ。だって、許さないって選択肢は僕の中にないから。二人が(エヴァについて)わかってくれたらいいんだ。それだけで、僕から言うことは一切ない」
ある意味で仏の心を持ったシンジに二人は感涙しかけてしまった。
「本当にすまんかった!そして、これからよろしく頼む。シンジ。ワシのことはトウジって呼んでくれ」
「俺もケンスケって呼んでくれ」
「わかった。トウジとケンスケ」
「碇君はお人好しが過ぎるけど、そこが良い」
最後の最後に惚けがぶっこまれたが三人は気にせずに校舎へと戻っていく。もちろん、その後ろには一人もいる。そんなこんなで、碇シンジと鈴原トウジ・相田ケンスケは和解した。若いと言っても二人の方から一方的にシンジに謝意を伝えただけであるが、仲直りと言うか和解ができたのでいいだろう。
ともあれ、ようやくシンジは中学校をマトモに過ごすことができそうだ。
ということでサブストーリーでした。次話はメインストーリーになります。リクエストの反映は一日一個が限界ですのでご容赦くださいませ。土日は割と暇なので一日二話(リクエスト反映回とメインストーリーの二話)を更新すると思います。
リクエストは活動報告又は私へのDM(メッセージ)にて21日まで受け付けております。お気軽にお申し付けください。
それでは次のお話でお会いしましょう。